長編物語ブログ -27ページ目

長編物語ブログ

 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

 凸凹メンバーにとって新学期は波乱の幕開けになった。それぞれ豊漁祭で芸能人である鞘と関わった興奮も冷めやらぬ中、あれは夢だったのかもしれないと思う一面すらあった。特に良太と恭介はテレビで鞘が映るたびに声を高らかに、頑張って! と答えもしない液晶画面に向かうのであった。しかし隆にとって鞘の映像を見ることは傷に塩を塗り込まれるように辛いことだった。何度メールをし電話をかけたか、しかし一度も真紀はそれに答えようとしなかった。
 隆は携帯電話を片手にスタジオを窺った。そこには以前と変わらない機材だとかコード類が散乱していたが、以前とは違う一面もあった。いつもならスタジオに入ると真紀がいて、「隆君おかえり、学校どうだった? きちんとお勉強できた」と声をかけてきたが、無人の室内に隆の帰りを待つ者などいなかった。
「早く中に入りなさいよ、後ろつかえてるんだからね」
 椿がそう言うと隆は肩を落とし入室した。
 メンバーと松尾が室内に入るのを椿は確かめると、頬を軽く叩いて中央に進み出た。
「さて豊漁祭が終わって凸凹バンドの長い休みもみんな終わりよ。今日からはバンドに精を出しましょう。断っておくけど、進路がとかいうバカはいないわよね? 自分の好きなこととやらないといけないことを、両立できない幼稚な人間はいないわよね?」
 椿はメンバーに向かってそう言って不気味に笑った。
「山中ぁ気合い入ってるな」
 松尾は椿を囲んで円になっているメンバーたちから、距離を取るべく歩いて腕を組んで言った。
「当たり前でしょうあたしにとってギターをひくことは息をすることと変わらないわ。隆が歌わずにはいらないっていうことと同じよ、ね、隆?」
 隆はおどおどと落ち着かない様子だ。
「違うみたいだが?」
「ねぇ松尾君、撲とクラス変わってよ……恭ちゃんと一緒じゃないといやだよ撲……」
「よしゲーム機の本体とソフト五本で手を打とうか」
「松尾、俺、クラスを変わる権利は売れないと思う」
「あなたたちうるさいわよ!」
 椿は集中力のないメンバーに危機感を覚え叱咤した。
「でも……撲バンドどころじゃないよぉ明日から学校行くのがイヤだ。津田さんはいるけど……女子だし……それに何だかちょっと話しかけづらい雰囲気が、津田さんって前と変わったかも」
「うるさい! 良太、今はバンドに集中するの!」
 良太は椿に叱られて肩を落とした。
「と・に・か・く・休み明けで感を取り戻すためにも、そうね……豊漁祭でやった曲をやりましょう」
 それぞれ楽器のセッティングなどで動き出したが、皆以前より腰が重い、唯一恭介だけはまともだった。隆は真紀がいつもいた壁際の位置まで行った。 
「隆何してるの?」
 椿にそう声をかけられてマイクの位置に移動した。
「それじゃいくわよみんないいわね?」
 椿はメンバーを見渡し、恭介に目で合図をした。こくりとうなずいてステックを叩き合わせ演奏は始まった。
 隆は楽器の音が流れる中、まるで走馬燈のように真紀との思い出が蘇った。真紀を指差したこと、その後バイクで逃げたこと、毎日続いた嫌がらせのような長電話、初めてアパートで二人きりになって緊張したこと、初めてのキス、校門でのお迎え、それら全ては今流れている音楽と共にあった。真紀を思って作ったメロディ、二人ではしゃいで作った詞……それら全てが厚みを増し隆の中へと去来した。
 もう二度と会うことができない程、遠くへと行ってしまった真紀、隆は田舎の高校生で真紀は芸能人。どうにか離れてもやっていけるという自信は泡のように消えていた。現実はそんなに甘くないのだ。
「ごめん……わたし……むり」
 隆は嗚咽を漏らしマイクスタンドを倒しながらくずおれた。その様子を見て、メンバーの中にも寂しさが伝わる。真紀は凸凹バンドの一員だったのだ。
「そうね、あたしもばかだったわ。真紀がいないって本当寂しいね。期間限定だなんていったけど、真紀は正式な凸凹バンドのメンバーよ」
 椿も瞳を潤ませていた。
「撲、うまくいえないけど、何かが足りないそんな気がするんだ」
 良太がそう言うと涙もろい恭介は流れる涙を袖で拭った。隆は走るようにスタジオを出ていった。取り残されたメンバーたちは声をかけることもできず、しばらく無言の時が流れていった。
「今日は解散しましょう」
 力なく椿はそう言ってスタジオの扉を開くと、外でバイクの音が聞こえ、隆がバイクでどこかへ出かけているんだと椿は知った。

 学年が三年になって新しいクラスになった。良太はまだ自分の場所として馴染んでいない机に腰掛け、思考に落ちた。
 クラス変えの結果は良太にとって最悪なものになった。隆と椿はA組松尾と恭介がC組良太一人だけD組。今まで幸運にも恭介と離れることはなかったが、二度あることは三度あるとはいかなかった。掲示板を見て、恭介と松尾に散々愚痴をこぼして、どうにか恭介に慰められ、新しいクラスに入ったのだった。
 廊下からは恭介の頭が見えた。心配そうに良太を見ていたが、
「おい恭介わかってるだろ、良太おまえに依存しすぎだ」
「松尾の言いたいこと、おれ一番理解しているけど……」
「おまえが優しくしすぎると結果あいつのためにはならん」
 恭介はこくりとうなずいて歩き出した。
 良太はそれを横目で追いかけて、唇を噛みしめた。どうして撲一人だけ仲間はずれみたいになるんだろう……。クラスに知っている人ほとんどいないや……。
 やがてホームルームが始まったが、良太の耳に担任の声はほとんど届いていなかった。
 窓際の席なので正門にある桜がここからよく見える。そのときふいに知っている者の声が後ろから聞こえたので振り返った。
「良太君。始業式始まっちゃうよ」
 振り返る良太。
 そこには髪の毛を短く切った津田美咲が立っていた。
「よかった……撲にも友達になれそうな人がいたんだ。津田さん髪の毛切ったんだ。だから気づかなかったんだ。似合ってるよ」
 良太は力なくVサインを作って言った。
「ありがとう、良太君三年になってもよろしくね」
 津田は頬を染めて言った。

 長たらしい校長の訓辞も終わり、一瞬緩んだ生徒たちの気持ちは無駄話を促進させる。隆は女子に紛れて普通にしているので特に騒ぎは起きていない。しかし以前のクラスの者や豊漁祭のテレビ中継を見ている者は隆を指差した。
「ほらほらあの鞘とテレビに出てた子がいる。やっぱりあれって凸凹バンドの隆だったんだ」
 結果、凸凹バンドのメンバーは注目の的になった。椿は鞘の隣にいたのでテレビに多く映っていたのだが、良太と恭介に至っては完全に隆の責任である。朝から始まった噂は瞬く間に広がってしまった。
 隆は流言に捕らわれるような性格をしていないが、女になった隆には耐えられないのか唇を噛んでいた。しかしそのツンとした態度の裏には、わたしは豊漁祭で鞘と歌ったと周囲の者に宣言しているようでもあった。
 隆は瞳を閉じた。
 真っ暗な部屋の中、灯りはテレビだけだった。隆はうつろな目でぼんやりとテレビを眺めていた。
「鞘さん逃げたときの経緯を教えてもらえますか?」
 鞘は短く刈り込んだ髪の毛にメンズスーツを着込み、軽く頭を下げてマイクを取った。
「今まで俺は露出を控えた芸能人でやってきて、事務所との契約で三年後からはテレビにでるという約束で、歌手をしていた。しかしやれると思って出た生番組中、怖くなり逃げ出したんだ」
「それで地元へ赴いたということですね」
 司会者も無駄な質問をせずに話しをまとまりよく進めている。
「そこで優秀なコーチに出会い、俺は一からやりなおすことにしたが――」
「ちょっと待ってください。鞘さんの容姿と喋り方はまるで男性のようですね、その意図を教えてもらいますか?」
 鞘はにへらと笑った。
「今までの弱い自分捨て、変わったいうこと」
「芸名を変えましたよね。これからは男性としてやっていくということでいいでしょうか?」
 鞘は目礼で答える。
「それで地元でまずはお披露目をしたと? 地元のファンに頭を下げて断髪をしたと?」「本当にファンのみんなには迷惑をかけたと思う。これからは行動と態度でしめしていきたい」
 鞘はそう言って立ち上がり深く腰を折って一礼した。
「噂では地元の高校生と同棲をしていたとかよからぬ記事もありますが?」
「豊漁祭でいたバンドのメンバーとは一切個人的な繋がりはない。俺のコーチとバンドのコーチが仲が良かっただけだ」
 司会者はじっと鞘の顔を見つめた。
「わかりました。今日はありがとうございました。これからも頑張ってください。わたしも個人的なファンですので」
 そう言って笑った。
 テレビは、CMが入った。隆はその後ニュース番組になりその番組が終わってもうつろな視線でテレビを見つめていた。
 どれだけそうしていたか、定かではない。長い時間が流れて隆は立ち上がり鏡の前に立ったのだった。
「隆、教室戻るわよ」
 遠くで椿の声が聞こえ隆の思考はそこで終わった。
 最後はリップグロスを塗って等身大の鏡の前に立って見た。
 化粧が派手すぎはしないか? ここ数日何度も練習を重ね真紀のようにナチュラルが生える努力をした。結果違和感はさほどないと思った。
 隆は自分に向かって笑顔を一度作ってベットの脇に移動した。
 玄関の錠前が外れる音がしてしばらくして扉が開いた。
「お、おはようた、たかし」
 椿は赤面した顔を見られまいと床を向いて言った。
「おはよう椿ちゃん」
 椿は隆の声に違和感を覚え顔を上げ居間を見渡した、そしてベットにいる隆を見つけると言葉を失った。
 豊漁祭のときのように女装した隆がそこにはいて、椿を窺っていた。
「派手すぎたかな? わたしおかしい?」
 椿は何度も首を横に振った。
「よかった……。ブレザーね、これ揃えるの苦労したんだ」
 隆はスカートの裾をつまんで言った。
「隆……正気? 今日、始業式よ、ココ、コスプレしましたじゃすまないわよ」
「うん平気、だってこのままいくもん始業式、椿ちゃんと手を繋いで」
 椿は隆の傍らまでいってじろじろと舐めるように見つめ、髪の毛を引っ張った。
「痛いよ、やめてよ」
「これ地毛よ? ウィッグじゃないわ」
 隆は伏し目がちになった。
「うん。美容院で」
「ゆかりちゃん、あたしにどうして相談しなかったんだろ……隆が変態に……」
「色々教えてもらったよ化粧の仕方とかね。幸い女性用の服は多いし」
 隆は部屋をつぶさに眺めた。
 衣装箪笥には真紀が羽織ってよくでかけていたギンガムチェックのコートが、更にドレッサーには化粧道具が、あの日真紀がいなくなってからというもの、この部屋は何一つ変わっていなかった。
 椿は緊張していた自分が情けなく思えてきた。そして長いため息をつくと自分もベットに腰掛け隆の身体を向き合うように移動させた。
「隆、今日からはきちんと家政婦やるから何でもいいなさい。真紀がいなくなったことがそんなにショックだったのね。隆って変わってる。言動で悲しいとかいいなさいよ。態度と容姿変えてどうするのよ」
 隆の瞳は膜が張り始め、椿が頭を撫でてやるとひしと泣き始めた。
「寂しかったのだから、こうするしかないって、母さんもいなくなって、真紀もいなくなってだから、自分が二人に近くなれれば気持ちが落ち着くかなって」
「ごめんね、あたしもいろいろあって、でも今日からは来るね、駄目ね隆はあたしがいないと」
 椿はそう言って優しく隆を抱きしめた。椿の中にあった隆へのわだかまりはどこか遠くへ心の奥深くへ沈んでいった。

 松尾の大きな声にたじろぎ良太は恭介の後ろに隠れるようにして話していた。松尾が恭介にちょっかいを出して良太がツッコミを入れている。三人は凸凹バンドが結成し紆余曲折を経て友情が深まっていた。得に松尾と恭介は馬が合っていた。休日ともなると松尾はよく恭介の家に泊まりで遊びに行った。
 交差点には慌ただしく生徒たちが行き来していた。松尾は恭介の後ろにいる良太の頭を叩いてそのままぽかんと口を開けた。
「松尾君、そんなに撲変な顔してる?」
「何があった!」
 恭介は松尾の様子を見て、振り返った。後方には嫌そうに眉を潜め女装した隆と口論をしながら椿が繋いだ手を振りほどこうとしていたが、隆は泣きそうになり、
「椿ちゃんが手を放すならわたし帰る」
 と言った。
 仕方なく歩き出す椿、フルハウスを出てからというものかれこれ三回は繰り返された内容だった。
 恭介は、何やら嫌な予感を抱えて松尾を見た。松尾は腕を組んで考えていた。
「まずいぞ……隆がおかしくなっちまった。真紀さんが芸能界に復帰したのは知っていたが……恭介!」
 恭介はあいづちを打った。
「凸凹バンドの危機到来かも……」
「二人とも大げさだよ、隆君、豊漁祭で気に入ったんでしょあの格好が、凸凹バンドの危機になるわけないし」
「おまえな……あの声聞いてみろ完全に女声だし……それにあの隆の性格とは正反対になってるだろ、弱々しいというか何というか」
 恭介は近づいてくる隆をじっと見つめた。良太は首を傾げている。
「でも松尾、おれ隆君がすごい可愛いと思う男とは思えない」
 と恭介が言うと、椿と隆はやってきて、
「おはようみんな、今日から新学期。クラス一緒になれるといいねよろしくね」
 と、隆はにっこり笑って言った。
 男たち三人は間近で隆を見て、よそよそしい。特に良太は顔を赤くしたりしている。
「隆君、もしかして今日から完全に女になったのかな? それとも三年になった記念とかなのかな?」
「良太よぉ、女になる記念って何だよ! 普通なら髪の毛を短くしましたとか、おじぃちゃんに万年筆貰ったとかだろ」
 松尾が良太の肩に体当たりを入れて言った。
「そうだよね、でも僕たちの学校は白紙の生徒帳って言われてるし、制服だって自由だし、撲見たんだけど、革ジャン着てる生徒もいるしね」
「でも良太。隆みたいな変態はいないでしょう?」
 椿は恨めしそうに良太に言った。隆は今も手を繋ぎ椿を解放しようとはしない。
「椿ちゃん、変態って言わないで、わたし頭悪いみたいに思われるから」
「充分悪いでしょう!」
 椿は怒気をはらんだ声で言って、小走りに歩き出した。
「待ってよぉ一人にしないでよ」
 隆は泣きながら椿を追いかけて、腕を取った。それを見ていた三人は一斉にため息をついて肩を竦めた。
「松尾君、これは本当に凸凹バンドの危機かもね」
 良太はそう言って歩き出した。