ウレハ二章 ep3 もう一人のメンバー | 長編物語ブログ

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 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

 凸凹メンバーにとって新学期は波乱の幕開けになった。それぞれ豊漁祭で芸能人である鞘と関わった興奮も冷めやらぬ中、あれは夢だったのかもしれないと思う一面すらあった。特に良太と恭介はテレビで鞘が映るたびに声を高らかに、頑張って! と答えもしない液晶画面に向かうのであった。しかし隆にとって鞘の映像を見ることは傷に塩を塗り込まれるように辛いことだった。何度メールをし電話をかけたか、しかし一度も真紀はそれに答えようとしなかった。
 隆は携帯電話を片手にスタジオを窺った。そこには以前と変わらない機材だとかコード類が散乱していたが、以前とは違う一面もあった。いつもならスタジオに入ると真紀がいて、「隆君おかえり、学校どうだった? きちんとお勉強できた」と声をかけてきたが、無人の室内に隆の帰りを待つ者などいなかった。
「早く中に入りなさいよ、後ろつかえてるんだからね」
 椿がそう言うと隆は肩を落とし入室した。
 メンバーと松尾が室内に入るのを椿は確かめると、頬を軽く叩いて中央に進み出た。
「さて豊漁祭が終わって凸凹バンドの長い休みもみんな終わりよ。今日からはバンドに精を出しましょう。断っておくけど、進路がとかいうバカはいないわよね? 自分の好きなこととやらないといけないことを、両立できない幼稚な人間はいないわよね?」
 椿はメンバーに向かってそう言って不気味に笑った。
「山中ぁ気合い入ってるな」
 松尾は椿を囲んで円になっているメンバーたちから、距離を取るべく歩いて腕を組んで言った。
「当たり前でしょうあたしにとってギターをひくことは息をすることと変わらないわ。隆が歌わずにはいらないっていうことと同じよ、ね、隆?」
 隆はおどおどと落ち着かない様子だ。
「違うみたいだが?」
「ねぇ松尾君、撲とクラス変わってよ……恭ちゃんと一緒じゃないといやだよ撲……」
「よしゲーム機の本体とソフト五本で手を打とうか」
「松尾、俺、クラスを変わる権利は売れないと思う」
「あなたたちうるさいわよ!」
 椿は集中力のないメンバーに危機感を覚え叱咤した。
「でも……撲バンドどころじゃないよぉ明日から学校行くのがイヤだ。津田さんはいるけど……女子だし……それに何だかちょっと話しかけづらい雰囲気が、津田さんって前と変わったかも」
「うるさい! 良太、今はバンドに集中するの!」
 良太は椿に叱られて肩を落とした。
「と・に・か・く・休み明けで感を取り戻すためにも、そうね……豊漁祭でやった曲をやりましょう」
 それぞれ楽器のセッティングなどで動き出したが、皆以前より腰が重い、唯一恭介だけはまともだった。隆は真紀がいつもいた壁際の位置まで行った。 
「隆何してるの?」
 椿にそう声をかけられてマイクの位置に移動した。
「それじゃいくわよみんないいわね?」
 椿はメンバーを見渡し、恭介に目で合図をした。こくりとうなずいてステックを叩き合わせ演奏は始まった。
 隆は楽器の音が流れる中、まるで走馬燈のように真紀との思い出が蘇った。真紀を指差したこと、その後バイクで逃げたこと、毎日続いた嫌がらせのような長電話、初めてアパートで二人きりになって緊張したこと、初めてのキス、校門でのお迎え、それら全ては今流れている音楽と共にあった。真紀を思って作ったメロディ、二人ではしゃいで作った詞……それら全てが厚みを増し隆の中へと去来した。
 もう二度と会うことができない程、遠くへと行ってしまった真紀、隆は田舎の高校生で真紀は芸能人。どうにか離れてもやっていけるという自信は泡のように消えていた。現実はそんなに甘くないのだ。
「ごめん……わたし……むり」
 隆は嗚咽を漏らしマイクスタンドを倒しながらくずおれた。その様子を見て、メンバーの中にも寂しさが伝わる。真紀は凸凹バンドの一員だったのだ。
「そうね、あたしもばかだったわ。真紀がいないって本当寂しいね。期間限定だなんていったけど、真紀は正式な凸凹バンドのメンバーよ」
 椿も瞳を潤ませていた。
「撲、うまくいえないけど、何かが足りないそんな気がするんだ」
 良太がそう言うと涙もろい恭介は流れる涙を袖で拭った。隆は走るようにスタジオを出ていった。取り残されたメンバーたちは声をかけることもできず、しばらく無言の時が流れていった。
「今日は解散しましょう」
 力なく椿はそう言ってスタジオの扉を開くと、外でバイクの音が聞こえ、隆がバイクでどこかへ出かけているんだと椿は知った。