長編物語ブログ -25ページ目

長編物語ブログ

 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

 校長の長たらしい訓辞が始まった。俺は始業式が始まってからパイプ椅子に絡むような汗を気にして何度か背もたれから身体に隙間を空けた。
「我が校の生徒手帳は白紙の生徒手帳と呼ばれている。しかしこれは君たちの自由の意志を阻害しないということであって、どんなことでも好き勝手に振る舞える――」
 ちょうど校長が咳払いをしたときだった。二年が並んでいる後方から叫び声が聞こえた。よく聞き取れなかったが、それは「ドビシャ」と言っているような気がした。一瞬体育館は森閑としたが、俺が前を向く頃には何もなかったように校長が喋り始めた。
 世の中変なやつがいるんだな……俺がそう思うのも少しおかしいな、俺は暇を持て余し思考を遡らせた。
 真紀が居なくなって、俺はテレビという物が前にも増して嫌いになった。その原因を作ったのは俺のアパートから忽然と消えた真紀なのだが、あいつは深夜の番組で俺達凸凹バンドのことを男言葉でこう言った。
「あの高校生バンドとは個人的な繋がりは一切ない」と。俺はあいつとの距離が更に遠くなったと感じた。
 真紀に拒絶されて初めて俺はあいつを芸能人だと本当の意味で知ったのかもしれない。これからどれだけ望んでも、会うことはおろか声を聞くこともできない。
 俺はしかめっ面になった。
 ちょうど校長の訓辞も終わろうとしているとき、同じクラスの囁き声が俺の耳に入った。自慢ではないが、俺は聞かなくてもいい音を聞いてしまうほど耳がいい。
「ねね、あれってやっぱりSAYAと一緒に歌った人でしょ、じゃあやっぱり凸凹バンドってこの学校のバンドで間違いないっぽぃ?」
 俺は少しだけ顔を動かすと思い切りしかめっ面で睨んだ。それきり女子二人は黙った。
 気づくと椿が、
「隆行くわよ」
 と言ったので俺は席を立った。俺たちのクラスは誰も体育館に居なかった。あーやっぱり俺は普通じゃない。どうしようもなくあいつに会いたい。

 授業も終わってフルハウスの道程を歩いていた。当たり前のように凸凹バンドの面子と松尾は俺と椿の後ろについて来ていたが、機嫌が悪い俺を気遣ってか言葉少なめだ。
 交差点を越えてしばらく歩道を歩いて右折するとフルハウスが見えてきた。
 俺は一応椿に聞いた。
「あいつらなんでここまでついてくんの?」
「隆何言っているのよ?」
 まぁいい……俺は急ぎ足で二階に登ってスタジオの横を通り過ぎようとした。すると椿が俺の腕を引いて止めた。
「どうして部屋に戻るのよ」
「どうしてっておまえな……学校が終わったからだろ」
「まさか隆!」
 椿は険しい表情になった。
「じゃ」
 俺はそう言って部屋に戻ろうと歩き出した。椿は俺の背中に、
「約束したじゃない、今度は大丈夫だって」
 俺は部屋の鍵を回しながら、
「そうだが、凸凹バンドは五人だろ? だからできねぇじゃん」
 そう言って俺は部屋の中に入った。
 しばらくして、部屋の壁が振動を始めた。おそらく練習を始めたのだろう。
 真紀がスタジオの扉の前に立って、「おかえり隆君」と言ってくれた。あるときはいきなりスタジオの中に居座ったこともあった。
 俺は置いてあったバイクの鍵を取ると部屋を出た。いてもたってもいられなかった。
 
 二人で散歩をした遊歩道横の道路を通って、そこから折り返し、真紀が変装したときだけ入ったコンビニを通って、二十四時間営業のスーパーを横目に海岸線に走り出た。
 どこに行っても真紀との思い出が蘇った。俺は信じられなかった。あいつがここにいないという真実が、俺は市内をあてどなくバイクで走り回った。
 そして夜も更ける頃、部屋に戻ると椿がエプロンをして夕食を作っていた。
「おまえのバイトは終わっただろ?」
 椿は無言で手を動かしている。
「俺はバイト代払う余裕はない」
 椿はお玉杓子で味見をしうなずく。
「おい、無視すんな!」
「隆お腹すいたわよね、夕食にしましょう」
 俺は扉に背中を預けて天井を見つめた。辛くて涙が溢れた。気づけば独白するように語っていた。
「あいつがいねぇんだよな、帰ってくるとおかえりって言ってくれたあいつが、夜中無理矢理起こすがあいつがいねぇんだ。どこを探しても!」
 みっともなかった相棒である椿にこんな姿をさらけ出すなど。
「あたしじゃ真紀の変わりにはなれない、チビだしかわいくもないし、性格だってひねくれているしさ――でも、あのときのような思いはしたくないの、また隆が私の前から消えるなんて……」
 そう言って山中椿は身体を震わせて泣き出した。
「おまえが泣いてどうすんだよ」
 そう言って俺は少しだけ笑った。
「そうだよな、今度は絶対にって約束したよな、おまえまで失うところだったわ俺、さて人件費はやれんが、椿のバイトは継続ってことでオーケー?」
 椿はこくりとうなずいた。
 
 意味の無いタペストリーや、真紀の大量の衣服。お揃いのマグカップと茶碗、何度もこの休み中に部屋を片付けようとしていたが、やる気も起きずそのままにしていた。椿はあの朝から一度も俺の部屋には来なかった。俺は何度か電話しようと思ったが、かけれない大きな理由が、あの日から数えて三日目の夜に出来てしまった。
 妙にそわそわする。やなかんじだ。
 壁際までだらだらといってレコードに針を落とそうとすると、無駄に大きな家具のようなプレイヤーの上にはSAYAのCDがいくつも乱雑にあった。一瞬俺は真紀との差異を探した。いつもの癖だ、どこかでは芸能人を肯定しどこかでは否定しているので、これは癖のようになっていた。だが、すぐにやめてレコードに針を落とした。
 いつもの朝だ、用意を全て済ませてから音楽を聴く、しかしそこはかとない違和感はじょじょに大きくなる。早く学校に行ってデコボココンビをからかってストレス発散をしたいと思った。
 そんなことを考えていると玄関の方から音が聞こえた。錠前の回る音がして扉が開いた。 そして山中椿が現れたが……しばらく俺は固まった。
 少しだけ伸びた髪の毛にハート型のヘアピンが刺さっていた。そう、それは刺さっていただ。髪を止めるというよりも、毛髪の束に刺さっているといったほうがいいかもしれない。しかし俺は、寄せた眉を少しずつ伸ばしていった。
 意外とにあってんじゃね?
 首を振る首を振るアリエネェ、なんだか椿はもじもじと俺を窺ってやがる。
「お、おはよう、隆、おはおう」
 俺の頭の中には三つくらいクエスチョンマークが黄色の色付で点灯した。だから俺はそのままの状況を口走った。
「おまえさ、何か刺さってね?」
 椿は手鏡を取り出し覗き込んでいる。この動作はとても刹那的だった。まるでバネのように椿の手は動いた。そしていっきに顔を赤面させると、どしどしと俺が座っている所まで台風のように歩いて来て、俺の後頭部をグーで殴った。そして洗面所に行くと、以前の山中椿が俺の前に戻ってきた。
「何か食べたの?」
「まぁ一応」
 それから俺達は言葉もなくフルハウスを出た。

 いつもの交差点に出ると、松尾が良太をからかいやいのやいのやっている姿が見えてきた俺の口元は僅かにつり上がった。
「良太、今日も恭介と仲がいいな、松尾もおまえら三人ってもしかしてあれか? あの……女子たちが喜ぶ」
 と俺がいっていると横から椿が軽く俺の額を叩いた。
「俺様侵害だぜ、恭介はロリコンでモホだけどよ、俺様は至ってノーマルだぜ!」
「松尾、ゲームもうやらせない」
 恭介がぬっと顔を突き出して言った。
「恭ちゃんはロリコンでもモホでもないよ、モホ?」
 そうして俺たちは歩き出した。
「恭介、ゲームを出して脅すな! 俺様の唯一の息抜きを」
「松尾、おまえは息抜きだらけだろうが」
「隆はわかってねぇ俺は影から凸凹バンドをいつだって支えてるんだぜ」
 俺は松尾のその言葉が嘘ではないことはよく知っていたがあえて笑った。すると松尾も歯を剥き出しにして大げさに両手を広げた。
 校門が見えて来ると俺達は少しだけ足が速くなった。学年が上がるということは今日はクラス変えが行われるからだ。
 良太と恭介を待って、俺たちはクラス変えが載っている掲示物を見に行った。
 横から目を通していく、俺の名前はと、あった。そして同じクラスを見ると山中椿という名前があった。
 良太はうなるような声を上げた。
「いやだああ!」
 言った後に回りを見て赤面している良太。
「どうしたんだ良太?」
 俺がそう言うと良太は目を潤ませた。
「恭ちゃんと離れた……撲一人みんなと仲間外れだよぉ」
「おまえ一人だけはぶられたのか、アリエネェ」
 良太を回りも顧みずに恭介に抱きついた。すると松尾が良太をまるで猫か何か掴むように引き離した。
「良太よぉ、仕方ねぇだろう、今までずっと一緒のクラスだったのが、奇跡みたいなものだろうが、それにおまえは恭介に甘えすぎてるぞ」
 良太は身体を硬くさせ動きを止めた。
「そんなことないよね、恭ちゃん?」
 恭介は無言だった。軽く良太の頭に手を置いた。
「俺、良太君のことを死ぬまで一緒にって思ってるけど、ずっとは一緒じゃないかもしれない」
 恭介がそう言い放つと良太は視線を恭介から遠ざけた。
「良太、絶対的なことはこの世にはないのよ、自分で常にそれを作り続けないと」
 俺は恭介の言うことはもっともだと思った。良太は純粋で恭介は思慮深いこの二人の相性はぴったりだが、俺が見ている限り良太は常に恭介に、永遠を突きつけているような気がする。人の付き合いの中には必ずエゴが存在するが、良太のそれは普通という枠を越えているかもしれなかった。良太が少しだけかわいそうになった。
 俺が椿を突き放した瞬間の瞳に良太の瞳は重なる。そうだ、やり方はどんなことでも無数にあるんだ。だから俺は言った。
「別にいいんじゃねぇか? 良太は良太の向きを見つければいいんだ、な?」
 俺がそう言って良太の背を叩くと椿が俺をじっと見ていた。
「恭介、良太のためだとか言って絶縁するとか言い出すと、俺ゆるさんぞ」
 俺はそのとき恭介を睨んでいた。なぜならその言葉は真紀に向かって言っているも等しかった。俺はあいつに一言いってやらなきゃ気が済まない。
 恭介は真剣な表情をして二度うなずいた。良太は胸を押さえて瞳を閉じた。俺たちはそれから各自教室に登っていった。
 久しぶりに一太郎のフォルダをあさっていたら、懐かしいテキストが出てきました。何年ぶりかに読んでみて、これはウレハの二章で、構成の段階で相方さんと揉めに揉めた。
 隆が女装をしないルートの物語でした。
 選択肢なしのゲームを作るつもりだったので、問題になりました。
 どっちも捨てがたいと、
 でも、ウレハの趣旨を考えたところ『身も心も入れ変わる』から、女装をしない隆が外れてしまうと、却下しました。
 でも、私もそのルートを捨てきれずに、どうせなら一人称で書いてみようって感じでした。
 せっかくなのでブログにアップしたいと思いました。