ウレハ ep3 (番外編) | 長編物語ブログ

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 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

 校長の長たらしい訓辞が始まった。俺は始業式が始まってからパイプ椅子に絡むような汗を気にして何度か背もたれから身体に隙間を空けた。
「我が校の生徒手帳は白紙の生徒手帳と呼ばれている。しかしこれは君たちの自由の意志を阻害しないということであって、どんなことでも好き勝手に振る舞える――」
 ちょうど校長が咳払いをしたときだった。二年が並んでいる後方から叫び声が聞こえた。よく聞き取れなかったが、それは「ドビシャ」と言っているような気がした。一瞬体育館は森閑としたが、俺が前を向く頃には何もなかったように校長が喋り始めた。
 世の中変なやつがいるんだな……俺がそう思うのも少しおかしいな、俺は暇を持て余し思考を遡らせた。
 真紀が居なくなって、俺はテレビという物が前にも増して嫌いになった。その原因を作ったのは俺のアパートから忽然と消えた真紀なのだが、あいつは深夜の番組で俺達凸凹バンドのことを男言葉でこう言った。
「あの高校生バンドとは個人的な繋がりは一切ない」と。俺はあいつとの距離が更に遠くなったと感じた。
 真紀に拒絶されて初めて俺はあいつを芸能人だと本当の意味で知ったのかもしれない。これからどれだけ望んでも、会うことはおろか声を聞くこともできない。
 俺はしかめっ面になった。
 ちょうど校長の訓辞も終わろうとしているとき、同じクラスの囁き声が俺の耳に入った。自慢ではないが、俺は聞かなくてもいい音を聞いてしまうほど耳がいい。
「ねね、あれってやっぱりSAYAと一緒に歌った人でしょ、じゃあやっぱり凸凹バンドってこの学校のバンドで間違いないっぽぃ?」
 俺は少しだけ顔を動かすと思い切りしかめっ面で睨んだ。それきり女子二人は黙った。
 気づくと椿が、
「隆行くわよ」
 と言ったので俺は席を立った。俺たちのクラスは誰も体育館に居なかった。あーやっぱり俺は普通じゃない。どうしようもなくあいつに会いたい。

 授業も終わってフルハウスの道程を歩いていた。当たり前のように凸凹バンドの面子と松尾は俺と椿の後ろについて来ていたが、機嫌が悪い俺を気遣ってか言葉少なめだ。
 交差点を越えてしばらく歩道を歩いて右折するとフルハウスが見えてきた。
 俺は一応椿に聞いた。
「あいつらなんでここまでついてくんの?」
「隆何言っているのよ?」
 まぁいい……俺は急ぎ足で二階に登ってスタジオの横を通り過ぎようとした。すると椿が俺の腕を引いて止めた。
「どうして部屋に戻るのよ」
「どうしてっておまえな……学校が終わったからだろ」
「まさか隆!」
 椿は険しい表情になった。
「じゃ」
 俺はそう言って部屋に戻ろうと歩き出した。椿は俺の背中に、
「約束したじゃない、今度は大丈夫だって」
 俺は部屋の鍵を回しながら、
「そうだが、凸凹バンドは五人だろ? だからできねぇじゃん」
 そう言って俺は部屋の中に入った。
 しばらくして、部屋の壁が振動を始めた。おそらく練習を始めたのだろう。
 真紀がスタジオの扉の前に立って、「おかえり隆君」と言ってくれた。あるときはいきなりスタジオの中に居座ったこともあった。
 俺は置いてあったバイクの鍵を取ると部屋を出た。いてもたってもいられなかった。
 
 二人で散歩をした遊歩道横の道路を通って、そこから折り返し、真紀が変装したときだけ入ったコンビニを通って、二十四時間営業のスーパーを横目に海岸線に走り出た。
 どこに行っても真紀との思い出が蘇った。俺は信じられなかった。あいつがここにいないという真実が、俺は市内をあてどなくバイクで走り回った。
 そして夜も更ける頃、部屋に戻ると椿がエプロンをして夕食を作っていた。
「おまえのバイトは終わっただろ?」
 椿は無言で手を動かしている。
「俺はバイト代払う余裕はない」
 椿はお玉杓子で味見をしうなずく。
「おい、無視すんな!」
「隆お腹すいたわよね、夕食にしましょう」
 俺は扉に背中を預けて天井を見つめた。辛くて涙が溢れた。気づけば独白するように語っていた。
「あいつがいねぇんだよな、帰ってくるとおかえりって言ってくれたあいつが、夜中無理矢理起こすがあいつがいねぇんだ。どこを探しても!」
 みっともなかった相棒である椿にこんな姿をさらけ出すなど。
「あたしじゃ真紀の変わりにはなれない、チビだしかわいくもないし、性格だってひねくれているしさ――でも、あのときのような思いはしたくないの、また隆が私の前から消えるなんて……」
 そう言って山中椿は身体を震わせて泣き出した。
「おまえが泣いてどうすんだよ」
 そう言って俺は少しだけ笑った。
「そうだよな、今度は絶対にって約束したよな、おまえまで失うところだったわ俺、さて人件費はやれんが、椿のバイトは継続ってことでオーケー?」
 椿はこくりとうなずいた。