ウレハ二章 ep5 あの日の日常 | 長編物語ブログ

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 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

鉛のように重い身体をベットに預けた。椿はパジャマ姿でアパートで横になっていた。 長い一日が終わろうとしている。あの後、フルハウスに戻る途中にスーパーに寄って二階の部屋に戻ると、隆の「泊まってよ椿ちゃん」というしつこい攻めに辟易し、仕方がないので眠るまで傍にいると言って隆の腕を握っていた。隆が眠ったのは以外と早かったが自分の家に帰る頃には足が棒のようになっていた。入浴などを済ませ自室に入るとすぐに睡魔が襲ってきて意識が朦朧とする中目覚まし時計をセットした。
 時計の針が三時を回ると携帯が鳴り始めた。椿は何度も鳴る着信音に苛立ちを覚えたが電話を取った。
「もしもし」
「椿、寝てた?」
「だぁれ……」
「真紀だよ真紀」
「ええ、真紀なのありがとう……」
「前は隆君に今と似たような状況で電話をすると何度も電話をきられちゃったよ」
「隆ぃ? 女装して大変よ、真紀寂しいよ帰ってきてよ……」
「隆君女装したんだ……」
 しばらくの無言が続いた。
「……ねぇ……椿ちゃん今日は椿ちゃんと隆君が出会ったときの昔話を聞かせて」
 真紀がそう言うと椿は訥々と語り出した。
 
 隆と椿は毎日のように土手に通った。
 椿はギターを片手に演奏し、隆は歌う。
 学校も違うし済んでいる地区も市からは反対側に位置する二人。毎日夕暮れ時にやってきてはジャムセッションをしたり興奮しながら六十年代のロックを語り、およそ年齢には似つかわしくない会話に花を咲かせた。椿の方は時を忘れるように話し気づくと辺りが薄暗くなっていた。誰からも理解されていないというフラストレーションがたまっていたのだろう。ちょうどこの日も土手の小道から呼ばれる声で二人は現実に引き戻されるのであった。
 隆は笑顔を浮かべて手を取る。椿は恥ずかしそうに俯いた。
「あら遠慮しなくていいのに三人で手をつなぎましょう」
「広大さん今日は遅いしあたし帰ります」
 椿は女性にしては少し大きな掌を控えめに握りながら言った。
「あら、広大さんって、椿ちゃんやめてよ、お・か・あ・さ・んでしょう? まだ気をつかってるのね、中身は女ですからそう呼んでね」
 長い髪の毛を後ろに長し、エプロン姿に色白の肌が際立っていた。よく観察すると身長も高い。広大は女装しているのだ。声にも微妙に違和感があった。
 三人は広大を挟んで手を繋ぎ坂道を降りていった。アパートを越え、道路沿いにある一見の借家の前にくると足を止めた。
「食べて帰るでしょう?」
「で、でもぉ……」
「別にいいじゃねぇか、な椿?」
 隆にそう言われると渋々了承する椿。
 玄関を開けて居間に行くと、胡座をかいて焼き魚をつつきながら焼酎を飲んでいる涼子の姿があった。
「よぉ椿遅いぞおまえら」
「コウちゃんは、どうしてそうせっかちなのかしらね」
 テーブルには料理が乗って、恵は音楽番組を凝視するように見ていた。画面にはテロップが出ておりそこにはこう書かれていた。『露出を控えた歌姫の魅力を探る』。
「メグも少しは家事を手伝いなさい、女の子なんだからね」
 そう言うと恵は横目で涼子を見て、
「そこの半女性にも言ってよ、メグだけ不公平やけんそんなん」
「なにぃ?」
「コウちゃんはいいの、一家の大黒柱だから」
 座っていた椿が立ち上がりかけると、
「いいのよ椿ちゃんはお客さん」
 と、広大は静止した。
 台所から食器類をテーブルに運びやがて夕食は始まった。椿はこういう環境に慣れていないのか挙動不審に辺りを窺っている。広大はそんな椿の心情を知ってか知らずか取り皿におかずを入れながら、
「椿ちゃんは好き嫌いはないよね?」
 と、聞いた。
「あ、はい大丈夫です」
「おまえんちって女島だよな、俺あっちの方あまり行ったことない、今度家に遊びに行くわ」
 隆が口をもごもごとさせながら言うと、椿は目を少し見開いて、
「駄目!」
「何で?」
「どうしても!」
「変なやつ」
「隆……椿ちゃんも女の子なのよわかる?」
「わからん、こいつといるとそういうくだらないことを忘れる」
 広大は軽く隆の頭に拳骨をやった。
「男の子のにとって女の子はお姫様だって言ったでしょう?」
「わかったよ……」
 隆は口を尖らせた。
 やがて夕食も終わり隆の部屋に入った椿はベットの上に腰掛けた。
 隣の部屋からは音楽が流れ、その音は不快にならない絶妙な音量でこの部屋にも届いていた。隆は後からやってきて椿の前に座る。
「なぁおまえさ」
「おまえじゃない椿」
「何だよ俺おまえに何かしたか?」
「別にちょっとね……隆が羨ましいなってあたしの家は母さんと二人だし、音楽の話しなんてできないからさ、広大さんってすごいよね」
「おれの師匠だからな」
「そっか……でもね椿の父さんもすごいんだよ、ギターがうまくて、今は会えないけど、きっとあたしのこと影から見守ってくれてるのよ」
「それ離婚したってことか?」
「お母さんのせいで、ごめん自分のことばかり話して」
「別に気にすんな、よくわからないけど、相棒だろ? 音楽話のしだってこれからは俺に話せばいいしな」
 椿はじんと胸が熱くなった。あふれそうになった涙を堪えてそっぽを向いた。
「どうしたんだ?」
「べ、別に……」
「コレクション見るか?」
 そう言って椿の手を取ると音楽が流れている隣の部屋に向かった。
 古いレコードプレイヤーがあってその上にはずらりとレコードが並んでいた。どれも価値がありそうな代物だった。
「す、すごい!」
 椿は声を荒げて言った。
「だろ?」
「このレコードねぇ隆――」
 それから二人は棚からレコードを下ろして会話に没頭した。
 広大が洗い物終え、音楽鑑賞に使っている部屋に向かうとそこには仲良く寄り添うように並んで眠る二人の姿があった。
「まぁ……」
 広大は湿った目で二人を眺めると、ゆっくりと扉を閉じた。
 それから椿の自宅へと電話を入れて、戻って来ると、毛布を二人の身体にかけた。視界にドレッサーの鏡が入りふと自分の顔が見えた。
「時間って残酷ね……二人が成人する頃にはわたしは――」
「お! バカ息子が女と!」
 広大は涼子の酔った声が聞こえたので「はいはい」と言いながら、涼子の身体を押し返し、部屋を後にしたのだった