小さい頃から、
自分がひどい目にあってやりきれないとき、
「そういう人は報いを受けるから何もしないで待ってなさい」
と言われた。
私は血の気が多いらしいので、
もちろん納得できず、報復に出ることもあった。
で。
報復に出ると大抵手痛いしっぺ返しを食らうことになるらしいと気づいた。(そりゃそうだ)
それ以来、「待ってなさい」という言葉を信じて待つことにした。
はっきり言う。
いくら待ったってそういう奴はのうのうと平和に幸せに生きているもんで、
自分が思い描くような報いなんてものがそいつに起こることは滅多にない。
私は幼い頃痴漢系の被害によくあったが、
痴漢していた人がみんな不幸になったわけでもあるまいし、捕まったとも限らない。
結局、この世は理不尽で、不公平だと。
理不尽を受けたら黙ってまってりゃ誰かが報復してくれるって、そんな話、あるわけない。
春は人事異動の季節。
昔、同じ部署にいたときひどい目に合わされた人たちがどんどん偉くなる。
彼らはそのうちどこかに出向し憂き目を見ることもあるが、それでも今は偉くなって、そこそこの甘い汁を吸うのだ。
もちろん、偉くなっただけの重い責任は背負うだろう。その重圧は、その責任を負ったことのない私にはわからない。
でも、私は、彼らの世界ではなく自分の世界に生きている。
毎日退職届を胸にしまい出勤し、実際に会社から逃げ出して帰れなくなるほど追い詰められたのが当時の私が受けた仕打ちで、
今でもあのときに浴びせかけられた言葉が、
私をやるべきかどうかもわからない仕事に駆り立てる。
怖い。
私はあの言葉をまた言われるのが怖い。
この仕打ちに報復はきっとないと分かっている。
それが仕事だし、組織だからだ。
組織のミッションのためには多少の理不尽と、ある種のスケープゴートが必要で、私はそれになったのだと思うし、組織の目的としては正しい。
でも。
いつかあいつに報復が来てくれたらいいなと。
願うくらいは許されてもいいはずだ。
春の人事で、おかしな部署に異動した瞬間に、ほくそえむくらいは許されていいはずだ。
せめて私より不幸な人生を送れよ、と思ってしまういやしさを。
どうか許して欲しい。