変われないのか変わらないのか、『わたしは、ダニエル・ブレイク』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『わたしは、ダニエル・ブレイク

【評価】☆☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】ケン・ローチ

【主演】デイヴ・ジョーンズ

【製作年】2016年

 

 

【あらすじ】

 ニューキャッスルで暮らす大工のダニエル・ブレイクは、心臓発作で倒れたため、医者から仕事をすることを止められる。そしてダニエルは給付金をもらうため役所へ行くが、役所の厚い壁に阻まれなかなか手続きが進まない。そんな時、生活保護費を貰えず困り果てていたシングルマザーを目にし、彼女と二人の子供のために救いの手を差し伸べる。

 

 

【感想】

 腰の入った重いパンチを繰り出す映画。いかにもケン・ローチの作品といった趣で、社会の底辺で生きる人たちにスポットを当てている。社会がどう変わろうと、自分の立ち位置を決して変えないのがケン・ローチの流儀。社会主義の失敗が囁かれようが、移民による犯罪が増えようが、社会保障費の無駄が暴かれようが、自らの主張を貫き通す姿勢に変わりはない。常に社会的な弱者の側に立ち、権力に向けて矢を放つ。

 

 

 この映画の主人公は、昔気質の大工職人。パソコンの使い方のなど全く知らず、大工としての仕事に全力を尽くしてきた。そしてもう一人の主人公が、二人の子供を育てるシングルマザーで、貧困の中、誇りを捨てて子供のために生きようとする。この貧しさに打ちのめされる二人の前に立ちはだかるのが、マニュアル通りにしか動かない公務員。万国共通と言えそうなお役所仕事が、苦境にある二人を追い詰める。

 

 

 貧しい人が善人という訳ではないと思うが、この映画を観ていると、真っ当に生きようとしながら苦境にはまる人は必ずいることに気付かされる。お金の流れだけを見れば、失業保険も生活保護も公務員の給料も変わりはない。誇りを削り取られる分だけ、貧しい人の方が苦しいとも言えそう。ただ公務員の視点で観れば、違った物語も出てきそう。富の分配は難問で、正解を揺れ動くしかないのかも。ただしケン・ローチは揺れたりはしない。