編み物はちょっと怖い、『彼らが本気で編むときは、』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『彼らが本気で編むときは、』

【評価】☆☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】荻上直子

【主演】生田斗真、桐谷健太

【製作年】2017年

 

 

【あらすじ】

 11歳のトモは、母親が突然家を出て行ってしまったため叔父の家で生活を始める。だが叔父は恋人と同棲中で、その恋人は元男性のトランスジェンダーだった。当初は戸惑うトモだったが、次第に3人での暮らしに馴染んでいく。

 

 

【感想】

 性同一障害といった硬派なテーマを取り扱っているので、ちょっと気を張って観に行った。社会派のドラマをイメージし、疲れる内容なのかなと少し覚悟をしていた。しかし実際に映画を観ると、あまりの穏やかさに拍子抜け。映画は家族の物語だった。誰かを糾弾したり、強く権利を主張したりはいない。母親に置き去りにされ傷ついた少女を、叔父とトランスジェンダーの恋人が優しく癒していくストーリー。

 

 

 もちろん差別や偏見といったものも出てくるが、それに対して激しく抵抗するということはなかった。反対に、差別する人間に対して憐れみを与えているようでもあった。自分の居る場所が不安定だと、他人に対してきつく当たってしまうのかもしれない。3人で寄り添う家族が、温かく掛け替えのないものに見えてくる。寄り添える人がいるというのは、何とも有り難く心強かったりする。

 

 

 映画は、生田斗真のトランスジェンダー役が評判になっていたが、物語を引っ張っていたのは小学生役の女の子。瑞々しく生命力に溢れ、場面にリアルな波を作り出していた。生田斗真や桐谷健太がその波に自然体で乗ることで、映画にうねりが生まれたような気がする。子供の存在や、エネルギー量の大きさを見せつける映画でもあった。映画館を出ても、温かさがしばらく続く。