滅び行く種族のために、『人生の特等席』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『人生の特等席

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】ロバート・ロレンツ

【主演】クリント・イーストウッド

【製作年】2012年


【あらすじ】

 数々の有名メジャーリーガーを発掘してきたベテランスカウトのガスだが、老いは隠せず視力が大きく低下していた。愛する仕事を失う瀬戸際に立たされたガス。加えて一人娘のミッキーとの関係も上手くいかなくなっていた。そんな中、ドラフトでの注目選手を視察するための旅に出た。


【感想】

 監督のロバート・ロレンツは、長年クリント・イーストウッドをサポートし続けてきた人物だとか。助監督やプロデューサーとしてクリント・イーストウッドのすぐ傍にいたのだろう。そしてこの映画で監督デビュー。クリント・イーストウッドの親心がひしひしと伝わってくる。長年の功績に対するご褒美、といったところだろうか。


 ただ監督本人にとってはやり難い作品だったはず。何といっても、師匠が直々に主演を務める注目作品。プレッシャーもあれば、気苦労もタップリとありそう。もちろんクリント・イーストウッドからは、お前の望むように演じてやるから遠慮はするな、くらいのことは言ってもらったのだろうが、そう簡単に師弟関係を打ち崩せるものではない。


 もちろんクリント・イーストウッドに対する遠慮や気兼ねがあったのかどうかは分からないが、映画は手堅く無難で小ぢんまりとしていた。ストーリーは、「マネー・ボール」の対抗形。データを何よりも重要視するスカウト方法よりも、現場での経験や野球への愛情を重視すべきと訴えている。「マネー・ボール」派を嫌味な奴、現場を重んじる職人気質のスカウトを善玉としている。


 至ってシンプルなストーリー。経験や人間関係を大切にしてきたと自負する中高年男性には、慰めとなる映画だと思う。ただ映画の勢いや振幅の大きさでは、「マネー・ボール」に遠く及ばなかった。丁寧に丁寧に、そして大切に撮られた映画だとは思うが、もっとわがままな部分があってもよかったのかも。見えない天井を気にして、弾けることのできない優等生を思わせる映画だった。