騙される幸せはあるのかも、『カラスの親指』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『カラスの親指

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】伊藤匡史

【主演】阿部寛

【製作年】2012年


【あらすじ】

 転落した人生を歩み、哀しい過去を持つサギ師のタケは、冴えない中年男テツとコンビを組み仕事をしていた。そんなある日、スリを働こうとして窮地に陥った少女を救う。タケはその少女に見覚えがあり、困ったことがあったらウチに来いと優しい言葉をかけてやる。すると少女は、姉と姉の恋人を引き連れタケとテツの家に転がり込んできた。


【感想】

 サギ師を主人公にした映画は、コン・ムービーと呼ばれるらしい。コン・ムービーを観たいという需要はかなりあるとは思うが、観客を満足させるコン・ムービーを作るのは簡単ではなさそう。映画の中のサギ師たちは、映画の中で強欲な敵役を騙すだけではなく、観客たちも騙しきる必要がある。そう簡単に思いつくストーリーでは、キレ味鋭いコン・ムービーにはならない。


 サギ師を主人公にした映画の代表格は、やはり「スティング」ということになるのだろう。テレビで観たのか、ビデオで観たのか覚えていないが、綺麗に騙されたのを覚えている。こんなものかなという油断が、ラストで大きな衝撃となって跳ね返ってきた。同じく最後の最後まで騙されたのが「ユージュアル・サスペクツ」。先入観をほとんど持たず観ていたのが幸いし、思いっ切り意表を突かれてしまった。


 きっとコン・ムービーで大切になってくるのは、驚きや衝撃が用意されているかどうかなのだろう。小悪党たちが巨悪を叩くだけではなく、観客にもサプライズを見せなければならない。どんでん返しや世界が引っくり返る瞬間を体験したくて、このタイプの映画を好む人も多いはず。ただ観客の側もヘンに肩肘を張らず、フラットな心持ちで映画に臨むべきなのかもしれない。素直に常識を信用し、ガツンと裏切られることも大事なのかも。


 情報を多く持ったり、期待値を上げたり、疑い深くなったりすると、サギ師の活躍にも支障をきたす。今回は迂闊にも原作の小説を読んだという友人から、妙な知識を得てしまい予断を持ってしまった。しかもこの予断が当たっていたから始末に困る。ただこの映画の仕事振りは、少し粗かった気もする。偶然に頼りすぎ、見せ場となるサギの手口が少し子供っぽかった。観客に考える間を与えないスピード感も重要だったりする。