叶わぬ恋は生き続ける、『チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢

【評価】☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】マルジャン・サトラビ、ヴァンサン・パルノー

【主演】マチュー・アマルリック

【製作年】2011年


【あらすじ】

 天才的なバイオリニストであるナセル・アリは、妻に大事なバイオリンを壊されてしまう。代わりとなるバイオリンを探してみたが納得できるものは見つからず、遂には部屋に閉じこもり死を決意する。そして8日間、ナセル・アリは自分の人生を振り返り続ける。


【感想】

 連作の短い詩を読み聞かせてくれるような映画だった。監督はイラン出身の女性マンガ家。生きる気力を失ったバイオリニストが、死ぬまでの8日間で自らの人生を振り返っていく。あらすじだけ読むと重く暗い内容だが、映画は不思議と軽やかさを保ちファンタジックな恋愛モノといった顔を見せていた。


 映画の中ではコミカルなシーンも多く、絶望や死といったものが重石にはなっていなかった。重いテーマを軽やかに扱う手際には、センスの良さを感じた。感受性の豊かな人には訴えかけてくる映画だと思う。ただエピソードの1つ1つがサラッと触れられる程度なので、心の感度を相当高く保つ必要はありそう。


 すれ違いの恋に実らぬ恋、芸術家が完璧な音を得るために支払うべき代償はかなり大きいもののようだった。随所で切なさがジンワリと滲んでくるが、一本の映画として大きくうねることはなかったような気がした。批評家受けはよさそうだが、少しでも気を抜くとちょっとした眠気に襲われる可能性もある。心が痛んでいるときに観ると、軽い癒しを得られるかもしれない。