【タイトル】『悪の教典』
【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)
【監督】三池崇史
【主演】伊藤英明
【製作年】2012年
【あらすじ】
教師の蓮実は生徒から人気があり、同僚の教師からも厚い信頼を寄せられていた。しかしさわやかで誠実な人柄の裏には、冷徹で残虐な殺人鬼の顔が隠されていた。他者に共感する能力が欠如していた蓮実は、自分にとって目障りな存在をいとも簡単に殺していく。そして過去に犯した殺人が明るみに出そうになったため、蓮実は猟銃を手にクラスの生徒全員を抹殺しようとする。
【感想】
原作の小説は、質量共になかなか読み応えがあった。小説の前半では、殺人鬼という裏の顔を持つ教師の姿を丁寧に描写していた。細かなエピソードを重ねながら、じわりじわりと怖さを膨らませていく。どこか緊迫した投手戦を見ているような展開で、読んでいて心地のいい疲労感があった。それが後半になると一気にシフトチェンジし、細かい折衝を無視した豪快な乱打戦に突入する。
この映画は、小説の後半部分に焦点を当て、激しく点を奪い合うような乱打戦を見せていた。心理的な葛藤や高尚な雰囲気などはかなぐり捨て、撃って撃って撃ちまくる陽性のエンターテイメントに徹している。そしてこの選択が見事に的中していた。人殺しもここまであっけらかんと為されると、スポーツのような爽快感が得られる。
一般的なサイコ映画やホラー映画で感じられるような怖さは皆無。陰惨さや絶望感を演出する意図は、ほとんどなかったのだろう。追い詰められる生徒たちにそれほど感情移入しなかったし、主人公の教師に憎しみを募らせることもなかった。どこか遠くの方で、頑張っている教師の仕事ぶりを眺めている感じだった。シュールにシュールを掛け合わせると、現実感の乏しい現実が現れるのかもしれない。
そして伊藤英明のキャスティングが絶妙でもあった。織田裕二という選択肢もあったのかもしれないが、織田裕二の演じる主人公は善悪がくっきりと二分され意外性の少ないサイコ映画になったと思う。その点、伊藤英明が演じると、善悪が同じ線上にいとも簡単に並んでしまう。表の顔から裏の顔へと、滑らかに移行していく。殺人鬼の姿になってもさわやかさを失っていなかった。
どんな状況でも誠実さとさわやかさを失わない主人公の姿が、この映画の見所になっていた気がする。善と悪が乖離しない味付けは、この映画の個性になっていた。尖った部分を見せずに、平静に銃を乱射させる監督の手腕もさすがなのだろう。現実感が希薄で、夢の中を歩き回っているような映画だった。