【タイトル】『蟹工船』
【評価】☆☆(☆5つが最高)
【監督】SABU
【主演】松田龍平
【製作年】2009年
【あらすじ】
オホーツク海を航行する蟹工船。中では男たちが過酷な労働を強いられていた。低賃金で昼夜を分かたずカニを獲り続け、そのカニを延々と缶詰に加工していた。鬼監督からは暴力が振るわれ、死亡者も出る劣悪な環境。そして遂に、奴隷のような扱いを受けていた労働者たちが、一人の男の声に目覚め立ち上がることを決意する。
【感想】
資本家に搾取される労働者の現状を厳しく訴えているのが原作の小説だったはず。かなり前に読んだので細かい内容は忘れてしまったが、共産党に対するシンパシーを感じさせる内容だったと思う。小林多喜二が「蟹工船」を書いたのが昭和初期。まだまだマルクスやレーニンに威光があり、社会主義が労働者の天国であるかのように信じられていた時代でもあった。多分。
しかし社会主義や共産党を無条件で信じられなくなった平成の世の中、政治色をどうするのか難しい部分だったのかもしれない。原作を忠実に社会主義や更には共産主義を肯定するのも憚られるし、かといって資本家と労働者の対立といった部分を曖昧にすると、映画の座りが悪くなる。派遣問題やサブプライムローンの破綻など「蟹工船」に風は吹いていても、思いっきりよく飛び出せるかどうかは気になるところではあった。
実際、映画は政治色をほとんど感じさせないものだった。親共産党という内容にすると思っていたので、意外と言えば意外だった。ただその代償は大きかった気がする。映画からプロレタリア文学の匂いがないぶん、リアリティーも気持ちがいいくらい消え去っていた。時代設定や時代背景、衣装やセットといったものをシュール一色で塗っていた。
なので映画を観ているという感じはしない。どちらかといえば、カメラ越しに舞台劇を覗いているような感じがしてくる。役者の立居地や台詞回しなども舞台劇そのもの。映画ならではのリアリティーを追求しようという意思は持っていなかったみたい。斬新ではあるが、心を動かされることもなかった。舞台と映画の相性はあまりよくない。舞台劇をスクリーンで観ても、何の感慨も湧いてこない。
結果、切迫感や緊迫感はなく、ダラダラとした笑いが所々で起こるくらいだった。どうせなら舞台劇として観てみたい内容だった。それとおそらく共産党支持者もガッカリしたと思う。労働者が立ち上がるシーンでも盛り上がりを欠いていたし。安全に映画を撮りにいった結果とも言えそう。