【タイトル】『ウォッチメン』
【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)
【監督】ザック・スナイダー
【主演】ジャッキー・アール・ヘイリー
【製作年】2009年
【あらすじ】
かつてアメリカにはヒーロー集団いた。彼らは持ち前の体力や知能を生かして、悪党どもを叩きのめしていった。しかし次第に政府に協力するようになり、彼らの人気は衰えていく。ベトナム戦争ではアメリカを勝利に導くものの、その後ヒーロー活動は非合法化される。そして、かつてのヒーロー“コメディアン”が何者かによって殺害された。同じくヒーローの一人だった“ロールシャッハ”は、事件の裏に何かあると考え捜査を開始する。
【感想】
最早、ヒーローものは単純明快な勧善懲悪ではなくなったようだ。“スパイダーマン”暗いは悩みを抱え、“バットマン”も宿敵“ジョーカー”に親近感を覚えたりする時代。孤高のヒーローが、正義のために活躍するという話しは随分と色褪せて感じる。正義が同時にいくつも存在し、理想と現実が一致しないことを知ってしまった世間に対して、純粋無垢なヒーローが薄っぺらに見えるのも仕方のないことなのだろう。
しかし、今回のヒーローは更に俗化している。アメリカ政府に協力して戦争に参加したり、暗殺を行ったり、民衆に銃を向けたりする。しかも映画ではニクソンが三選している設定。ほとんど政府の親衛隊といった感じがする。更に、ヒーローたちも欲望や不安に駆られ、人間不信に陥ったりもする。世も末と言いたくなるようなヒーロー像。善悪の判断基準が曖昧で、退廃の一歩手前まで行っている。
映画は奇形のヒーロー集団を描き、1つの殺人事件をきっかけに大きな陰謀の存在を明らかにしていく。陰鬱をしたトーンが続いていくが、洒落た映像と絶妙な選曲が随所で登場するのでテンポよく観ていられる。特にオープニングのシーンは目が釘付けになる。「300」の監督が撮っただけのことはあり、迫力と遊び心に溢れている。映画全体が暗い酒場といった感じ。
皮肉に満ちたストーリーは、思わぬ方向に弾んでいく。善悪の判定基準が示されたりもするが、決して後味がいいものではない。しかし爽快感とは無縁のラストながら、どこか現代を象徴しているようでもありついニヤリとさせられる。薬とは毒であり、毒こそが薬であると言えそう。行き場を失ったヒーローたちの後姿はどこか物悲しい。