時代とリンクしたのか新たなボンド誕生、『007 慰めの報酬』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『007 慰めの報酬

【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】マーク・フォースター

【主演】ダニエル・クレイグ

【製作年】2008年


【あらすじ】

 恋人ヴェスパーを失ったボンドは、彼女を死に追いやった組織に食いつく。その過程で家族を殺害された過去を持つ女性カミーユと知り合い、カミーユを通じ組織の大物グリーンに迫る。グリーンから反撃を受け、更にはイギリス諜報部から撤収を命じられるが、ボンドは自身の狩を執拗に続ける。


【感想】

 ジェームズ・ボンドの愛飲するカクテルとして有名なのが“ウォッカ・マティーニ”。シリーズ作品の中で、何度もカクテルを飲み干すシーンが登場する。普通、マティーニにはジンを使用するものだが、ボンドの飲むマティーニのベースはウォッカ。しかもシェイクするようオーダーする。


今回も当然のようにマティーニを飲むシーンが出てきたが、驚いたことにベースにはジンとウォッカを2:1の割合で入れていた。もちろんシェイクして冷やすのはいつもと同じ。影響されやすい性格のせいか、ミーハー気分そのままに早速バーでこのボンドのマティーニをオーダーしてみた。味はまあまあといった感じだったが、やはりマティーニはステアーの方がいいような気がした。シェイクすると鋭さが消える。


 さて映画の方は、男っぽさを増量した「007」になっていた。今までの流れを予想しながら観ていると意表を突かれる。エレガントなスパイだったジェームズ・ボンドが、今回は冷徹な殺し屋になっている。「007」シリーズにあった温泉気分は姿を消した。陰のある厳しいボンドが、怒りを隠し獲物を追いつめる。


 雰囲気としては、大人の振る舞いを身に付けた“ジェイソン・ボーン”といった感じがしなくもない。明らかに「ジェイソン・ボーン」シリーズを意識したアクションシーンもあったし。ただ、たまには華やかなジェームズ・ボンドではなく、こういう獣のようなジェームズ・ボンドも斬新で魅力的に思える。「007」シリーズが進化し、新たな局面に突入したのかもしれない。


 人気シリーズといえども、時代から乖離して存続できるわけではない。経済環境が悪化して甘い空気が吹き飛んだ現在、優雅な遊びを許容するムードは皆無といってもよさそう。鋭さを増したジェームズ・ボンドを登場させ、今後どういう展開を見せるのか興味をそそられる。今回ストーリーが分かり難かったものの、大きな変化を目の当たりにした気がした。次回作はストーリーでも魅せて欲しいし、ダニエル・クレイグの暴れ振りにも期待したい。自己再生する楽しみの尽きないシリーズだと思う。