今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba -4543ページ目

Fri 080711 向ヶ丘遊園講演会 メナッジョへの旅

 午後から東進・吉祥寺1号館で授業収録2本。「B組」2008年版の2学期が全て終了した。深夜には2学期用確認テスト3パターンも完成。この講座は1学期・夏期講習・2学期を通じて絶好調であり、私としてもこの数年で最も満足のいく出来上がりである。長文読解の基礎完成講座として、東進に通うできる限り多くの高校生に受講してもらいたいと思っている。


 19時から、向ケ丘遊園で講演会。向ヶ丘遊園は、明治大学や専修大学では「生田キャンパス」と呼んでいる大学生の街であって、町田や吉祥寺のように受験生のたくさん集まる街ではない。実際、駅前で目立つのはライフ・文教堂書店・大学生向きの安い飲み屋だけであり、塾が林立するような状況は全くない。東進・向ヶ丘遊園校はこのような立地の悪さに加え、目立たない雑居ビルの3階ワンフロアだけで頑張っている。1階が喫茶店(シャノアール)、2階と4階が小中学生向けの塾、5階は生命保険(フコク生命)の事務所である。古いエレベーターで3階まで昇るのだが、昇りながら今日の講演会の苦しさを予感した。


 しかし、それでも講演会を大盛況にしてしまうところが、東進スタッフの素晴らしさである。参加者は100名に迫る勢い。もともと50人しか入らない中教室が会場だったが、その机を撤去してイスだけを並べ、私の予想をはるかに超える数の参加者を何とか全て収容した。もちろんそんな状況だから、講演会会場の環境としては、確かにあまり褒められたものではない。空調もなかなか思うようにならず、暑すぎたり寒すぎたりするのをうまく調整しながらの進行になったし、講演する私もいろいろに苦労せざるをえなかった。

 

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 写真は、会場の様子。講演会終盤の、盛り上がりが最高潮に達した場面である。120分にわたって爆笑の連続で、受講者はすでに少なからず疲れていたが、あんなに暑くあんなに狭苦しい環境の中で、よく最後まで講演についてきてくれた。こういうきわめてアットホームな講演会というのも(いつもこれでは困るけれども)たまのことなら非常に嬉しく、また非常に楽しく心に残るものである。頑張って最後まで付き合ってくれた受講生諸君と、大盛況にしていただいた校舎スタッフに大いに感謝する。


 講演終了21時15分。ちょっと休んでから帰る。夜9時半の向ヶ丘遊園駅前は、酔っ払った大学生集団でいっぱいである。考えてみれば、大学はちょうど前期試験が終わったところ。夏休み前の「打ち上げ」の季節である。「打ち上げ」などという習慣がまだ大学生の中に残っているのも、嬉しいことである。酔った大学生集団の中に、昔なら必ず白髪の混じった教授の姿が混じっていたものだったし、気さくに2次会に誘うのはむしろ教授の役目だったはずだが、見渡したところそういう教授の姿は見えない。昔ほど大学教授がヤンチャでなくなったのか、それとも研究が忙しすぎてサッサと帰ってしまうのか、それともそもそも学生たちの打ち上げに呼んでもらっていないのか、とにかく少し寂しい光景である。


 寂しいので、飲んで帰ることに決めて、向ケ丘遊園から乗った急行電車を下北沢で降りた。弱い雨がポツリポツリ降り始めている。下北沢のいいところは、夜22時を過ぎると年齢層がグッと上がってくることである。それまでは大学生になりたての若々しい諸君や、場合によってはそれ以上に若い諸君の天下なのであるが、夜22時を境に客層は大きく入れ替わる。とは言っても「社会人になりたて」の諸君に代わるだけで、私だけ突出して年上なのはいうまでもないが、それでもいくらかは落ち着いて酒が飲める。雨にもなったし、いちいち店を探すのも面倒なので、半月前に下北沢の講演会のあとで入った南口の「土間土間」でいいことにする。あのときもらった500円のサービス券を、まだもっていた。こういうのを無駄にするのは、お酒を飲む人のエチケットに反するのだ。


 ホッケ・イカ丸焼き・カラアゲ、そういう基本のつまみと、瓶ビール2本・日本酒(一の蔵)2本で、ちょうどいい気分になった。若い人向きの安い飲み屋ではあるが、「土間土間」は他の居酒屋と比べると店員の対応が格段にいいようである。10日ぐらい前、テレビ東京「ガイアの夜明け」で居酒屋の店員不足・アルバイト不足の深刻さを特集していたが、少なくともこの「土間土間下北沢店」は状況が違う。私のテーブルの横を、気持ちいいほどいくらでも、店員ばかりゾロゾロ歩き回って、いつ声をかけても必ず即座に対応してくれる。調理場のアルバイトでさえ、目が合うとニコニコというよりニヤニヤして挨拶してくれる。こういう気持ちのいいところなら、私は別に安い居酒屋で十分なのである。

 

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 帰宅すると、まずニャゴロワどんが猜疑心でいっぱいの表情で寄ってきた。「うお。またお酒ですか。つきのわさんは、そもそも参考書を書きあげる気があるんですか。予定を10日過ぎても、進んでいる様子ではありませんねえ」「うるさいな。授業収録2本と、講演会1本。クマだって疲れるの。そんなに参考書参考書って、しつこく言わなくてもいいだろ」「でも、ほら、ね。ナデシコどんは完全に呆れて、そっぽ向いてるでしょ」「わかりました。明日から書きます」「さっき、講演会で高校生たちに『明日やろうは、馬鹿野郎』とか、カッコいいこと言ってたクセに」「あれは『プロポーズ大作戦』の受け売り。自分でなかなか出来ないことを、他の人に勧めるのが講演会の本質」「うにゃ。よくわからないこと言い出した。あたしゃ、もう寝ます」「今までだって、寝てただろ」「うにゃ」。というような会話の後で、ネコとともに朝8時半まで惰眠をむさぼった。

 

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 5月17日のベラッジョ小旅行と、5月18日のメナッジョ小旅行。あれから2ヶ月も経過すると、さすがにあの2日の区別は曖昧になるようである。ほぼ同じように朝のシャンペンを堪能して、外は同じように大雨が降り続き、湖面は暗く、湖岸の山々も暗く、山には白い雲が低く垂れ込め、船着き場は人もまばらで、人々はみな肌寒い風と激しい雨を避けて船室のテーブルに肘をついたまま、小さく丸まって目的地を目指した。それは17日のベラッジョも18日のメナッジョも、全く同じことだったのだ。

 

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 ベラッジョBellagioとメナッジョMenaggio、土地の名前も「ふざけたのか」と思うような類似。ガイドブックの中でもほとんど同じ「変わり者なら行きなさい」という扱い。2~3軒のVillaと狭い街以外には、特に訪れるべき観光地も見学先も学ぶべきこともない平凡な街。細長い湖の対岸の街なのだから、もともとマトモな人間なら1日で両方サッサと訪れて終わりにするところなのである。


 では何故私がこの2つの街を2日に分けて訪れたかといえば、その答えはきわめて単純なのであって、要するに私がマトモではないからだ。ホテルの朝食で出されるシャンペンを一人で1本まるまる堪能すれば、どうしてもその後は昼までじっくり寝ていたくなる。昼まで寝ているとすれば、頻繁に行き来しているとは決して言えない船では、とても2つの街を1日で回りきれない。そういうことである。そのために朝食のシャンペンを断念して、心に悔いをいだきながら、サッサと効率よく観光を処理していくようなバスツアーのようなことをするなら、最初からイタリアなんか来たくない。まあそういうわけで、17日と18日は、ほぼ同じ(というか全く同じ)ルートで、ほぼ同じ(というか全く同じ)長い船旅を往復4時間心ゆくまで堪能し、ほぼ同じ(というか全く同じ)風景に浸り、最終的にはすっかりウンザリして帰ってくることになった。


 メナッジョは、何度も書くようだが「人」の形をしたコモ湖の股間にあたるベラッジョから、左の方向に湖面を10分ほど横切ったところである。船着き場は閑散として、降りる人も乗る人もほとんどいないし、歓迎する人は皆無。係員さえほとんど皆無で、船の人も「なんでこんなところで降りるんだ」という怪訝な顔で去っていった。何軒か立派なホテルもあるが、ホテルの従業員たちも同じ表情である。客が来ないことが前提になっていて、だからホテルの中のレストランでもカフェでも「来ないよね、まさかね、入ってこないよね」というスタンスで客にプレッシャーをかける。それどころか「ほお、こんなところへ来ましたか、何か用件でも?」という顔つき。しかし、そんな顔をされても困るのだ。コモ湖についてのガイドブックでも、コモ湖畔の代表的な街として、コモ、トレメッゾ、ベラッジョとともに立派に紹介されているのである。悪いのは私ではない。仕方がないので、今日もまた途方に暮れつつとにかく先に進むことにした。

 

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 雨が止んでくれただけでもよかった。これで昨日のような激しい雨が続いていたら最低である。見るところも、寄るところも、休むところもない。まあ観光客はいるが、ほぼ例外なく途方に暮れて、何かすることはないか、どこか休むところはないか、イヌでもいい、ネコでもいい、次の船までの時間を何とかやり過ごす材料がほしい、そういう顔をして向こうに3人、こちらに4人、仕方なしに間抜けな笑い顔をつくりつつ、いったい誰が一番間抜けなのかの探り合いをしている。そのとき冷たい強風が吹き抜けて、その拍子にコモ湖の向こうに雪の残ったアルプスの山が見えた。サンモリッツもすぐ近くなのだ。おそらくサンモリッツであろう雪山を見上げ、写真を撮り、感激し、3分儲けた。

 

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 いかにも古びた店の古びた看板を眺めながら、閑散とした街を歩く。レストランもジェラート屋も、看板は昭和の香りに満ちている。

 

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 その香りを楽しみながら坂道を上っていくと、向こうから5歳ぐらいの男の子が自転車を飛ばして走ってくる。ものすごい勢いでハンドルを左右に切りつつ、舌なめずりをして坂を降りてくるのだ。おお、あんなに幼いのに驚くべき曲乗りの練習か、と思った瞬間、彼は頭から地面に激突した。何のことはない、ブレーキの掛け方を習う前に彼は坂道を激走してしまったのである。あの時から、私にとってメナッジョは、古びた看板と自転車曲乗りの街である。


1E(Cd) Candy Dulfer:LIVE IN AMSTERDAM
2E(Cd) Courtney Pine:BACK IN THE DAY
3E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 1/6
4E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 2/6
5E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 3/6
6E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 4/6
7E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 5/6
8E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 6/6
11D(DvMv) 300
total m144 y484 d484