今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba -4545ページ目

Fri 080627 ポピーのような花 ブレーシャ

 今年の春、そこいら中の駐車場や空き地にオレンジ色のポピーに似た花が咲いていた。ポピーかもしれないし、おそらくポピーである可能性が高いのだろうけれども、何故そんなに突然ポピーばかり咲き始めたのか見当もつかない。しかも、おそらくポピーであろうその花が、みんな何だか色褪せているのがイヤな感じである。オレンジ色ならオレンジ色でしっかりオレンジ色をしていてほしいのだが、空き地に咲く「たぶんポピー」の色は、いかにも温暖化と環境汚染に疲れてヘソを曲げてしまったとでもいうような、段ボール箱の中で10日放置された温州ミカンみたいな色ばかりだったのである。ついでに言わせてもらえば、ポピーなら「色とりどり」なのが正しいはずだ。本来色とりどりであるべきものが、何故か「褪せたオレンジ一色」というのは、これもまた何だか嫌味だった。
 

 あれは、ポピーだったのだろうか。褪せた色は、酸性雨のせいなのか、または黄砂のせいなのか。茎の上でヘラヘラ笑っているような軽薄な感じの首の振り方は、環境問題の深刻さを訴えていると考えるには余りにも軽薄。もっとじっくり、冷たく、落ち着いて訴えかけてくれないと、その褪せた花の色とともに不気味さを増すばかりである。あの花は、来年も咲くのだろうか。来年の春はもっと爆発的に増えるのだろうか。とすれば、日本中のスーパーの駐車場や、日本中のマンション建設予定地には、軽薄なヘラヘラ笑いに似た嫌らしい首の振り方で風に揺れる、褪せたオレンジ色の花に占領されるのだろうか。


 仕事が休みだったから、ゆっくり眠って昨日の疲れを回復した。冷蔵庫をひっくり返していたら、ずっと奥の方から、誰だったか忘れたが5年以上前に人からもらったカリフォルニアワインがゴロンと出て来た。おお、隠れていたか。ちょうど家中の酒がなくなったところだったし、怠け放題怠けた後でコンビニに酒を買いに行くのさえ億劫だったので、期待に震えながらワインを開けた。


 98年産と書かれているから、何と10年ものである。グルメさまなら瓶を割って捨てるところだろうが、私にはこの「腐っているか否か」という酒をだらしなく開け、だらしなく舐めて味見し、だらしなくニヤニヤして「まだまだ飲める」とだらしなく判断する瞬間がたまらないのだ。実際にワインはとても旨かった。ただ単に古くなったからなのだろうが、濃厚な黄金色。10年にわたる酸化を乗り越えた芳醇な香り。おお、「干し草の香り」でも「ラズベリーの香り」でもない、単なる古びた冷蔵庫の香り。私が求めるのは、まさにこれである。古酒独特の深いあまみも感じられる。おお、「あまみ」である。


 捨てられずにすんだワインを、だからこそ大切に飲むのは、死にそうな野良猫をなでてあげるのに似ている。半月前に江ノ島で出会った全身アカトラの猫、一昨日の昼に城ヶ島で出会った半身だけアカトラの猫、野良猫の背中はなでているとみんなちょっとベトベトする。それをベトベトするといってなでてあげないのはイヤだ。まあ、このワインだってまずくないことはないが、まずいまずいと言ってそれでもだらしなく最後まで飲むのがうれしいのだ。


 まずいワインを飲みながら、陸上競技中継を見る。女子10000メートルの決勝が激しいレースになって、最終的には渋井陽子が優勝したのだが、最後までデッドヒートを渋井と演じた赤羽選手に感動して、一人涙を流した。事前には福士と渋井の一騎打ちのように報じられ、民放ならさぞかし渋井と福士のプロフィールを花々しく紹介して「メダルは確実」のような演出をするのだろうが、NHKで本当に助かった。400mのトラックを30周近くするレースで、途中8000m付近で福士がスパートするが、2選手が力走してついていく。ついに最後の一周まで3選手がほぼ並走。最後の一周でスパートした赤羽を最後の100mで渋井が抜きさるという展開。28歳の赤羽選手が最後に抜き去られてしまったけれども、それでもオリンピック出場の可能性は残っている。ぜひ出場させてあげたいと思う。
 

 ニャゴロワとナデシコはテレビ前でレスリングをしながらレースを観戦。重量級のニャゴロワが軽量級のナデシコを押さえ込み、ナデシコが反則技スレスレの激しい反撃に出るという、いつもの展開になった。涙を拭きながら渋井と赤羽の熱戦を見る私に驚いて「あなた、大丈夫ですか。年のせいか、ずいぶん涙もろくなりましたねえ」と声をそろえた。

 

0062


 心配しなくても、5月13日のイタリア国鉄はちゃんとブレーシャBresciaに到着する。しかし、今日の冒頭「ポピーみたいな花」に言及したのは、車窓に広がるポピーだらけの風景に大きな不安を感じたからである。今回のイタリア旅行中、電車の窓からの風景はこの「ポピーみたいな花」に占領されていた。この花が、日本とは違って、すべて血のように真っ赤なのである。鉄道に沿って、とにかくどこまでもどこまでも大量の血のような真っ赤な花が、一斉に首を軽薄にフラフラフラフラ降りながら風に揺れている。小麦畑も、河川敷も、のどかな駅構内も、みんなその花の血の色に染まっている。


 鉄道沿線に爆発的に勢力を伸ばすのは、外来植物に決まっている。セイタカアワダチソウだってそうだったし、天敵のいない新天地で貨物列車からこぼれた種が一気に勢力を拡大するのは珍しいことではない。小麦の畑の周囲を囲み、畑の小麦の中にどんどん侵入しつつある赤い花の勢いに、私は少なからずめまいのような不安を感じた。つい1ヶ月前に、茨城県のどこかでアフリカ原産のケシの一種が大量に花を開いて問題になったばかりである。イタリアも、日本も、同じ外来種に一気に征服されつつあるのではないのか。そう思うと、赤い花の赤い色が、ただ単に可愛い赤い色というよりも、取り返しのつかない侵入者の赤にしか見えなくなるし、そのヘラヘラした首の振り方も、侵入と征服を成功させつつある者の冷笑・失笑・嘲笑にしか見えなくなるのだった。

 

0063


 ブレーシャ到着14時。上の写真はブレーシャの駅である。目的のロッジアは工事中で中には入れず、外から写真を撮るだけに終わる。それでもカップケーキ君は可愛らしくて十分に満足。昼食時も終わって閑散とした市内を歩き回り、旧Duomo・昨日写真で示したロトンダなどを回る。とにかく、誰もいない。いや、私のように遊んでいる人は誰もいない。そういうこともあるのだろう、明らかに移民の労働者と分かる人たちが、アジアから来たヒマな日本人を激しい目つきで睨んでくる。特にアジア系の移民の目がきついようだ。きつすぎて、まともに歩いていられないほどである。仕方がないから、その辺の駐車場にいた野良猫を写真にとってごまかすことにする。

 

0064


 15時半、紀元73年に建てられたというカピトリーノ神殿(写真下)に到着。驚いたことに、ここでも遠足の中学生集団に遭遇。彼らはいったいいつになったら帰宅するのであろうか。引率の教師は大いに盛り上がって、カピトリーノ神殿についての説明の熱中している。子供たちは誰一人としてそんな退屈な話は聞いていない。しかし、驚くべきは中学校や小学校の拘束時間である。15時半で、まだ教師のこの熱中ぶりは驚異的である。日本なら帰りの反省会の時間なのに、イタリアの生徒は、まだまだ解放してもらえそうにない。ゆとり教育とかいうのは、思い上がった日本人の幻想に過ぎないのだ。

 

0065


 16時までいて、ミラノに帰ることにした。暑さと、小学生集団&中学生集団のプレッシャーと、移民労働者の激しい視線とに、あえなく敗退。いや、ヒマ人が誰もいないことのプレッシャーに敗退したのである。ミラノ着18時。あいかわらずポプラの種の白い羽毛が大量に舞う中、Hotel Splendidoの4日目が終わる。


 この日、画期的な事件が起きた。ついに、持参したパソコンの電源を入れ、参考書の執筆を再開したのである。ただし、酒はいつもと同じに飲んだ。ビール4缶を飲んで、オリーブもいつも通り1瓶まるまる食べて、パルマハム、チーズを口にくわえたままベッドで気を失うところまでは昨夜と何ら変わらない。しかし、午前3時からの私は別人になった。神の声に答えるようにベッドから飛び出した私は、そのまま午前7時まで執筆。ま、人間の出来が違うのかもしれない。


1E(Cd) Brian Mcknight:BACK AT ONE
2E(Cd) Bill Evans:GETTING SENTIMENTAL
3E(Cd) George Duke:COOL
4E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 8/11
5E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 9/11
6E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 10/11
7E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 11/11
10D(DvMv) THE DAY AFTER TOMORROW
13D(DvMv) THE MUMMY RETURNS
total m300 y300 d300