Tue 220920 ちむどんへの違和感と苛立ち、謎が解けた/朝ドラ「フルール」の夢 4269回
お風呂の中で浮力の原理を発見した日、アルキメデスは「ユリイカ!!」「ユリイカ!!」と叫んで風呂から飛び出し、完全マッパでシチリア・シラクーサの街を駆け回ったのだという。
ワタクシがシラクーサを旅したのは、もう6年も7年も昔のことになってしまったが、2022年9月19日、このイマイメデスもまたお風呂の中でハタと膝を叩いて「ユリイカ!!」と連呼し、正確な発音は「エウレーカ」であるらしいが、思わず完全マッパで豪雨の中を駆け出しそうになった。
この日の朝の東京渋谷区は、線状降水帯モドキが南からかかり、午前9時から正午近くまで、カンロ飴ぐらいの大きさのデカい雨粒が屋根や地面を激しく叩き続けた。万が一ユリイカ今井なんかがマッパで駆け出せば、巨大なカンロ雨の雨粒に打たれて、命さえ危うくなっていたかもしれない。
では諸君、いったいイマイメデスが何を発見したかといえば、他でもないNHK朝ドラ「ちむどんどん」が、どうしてこれほどの違和感や苛立ちを国民に感じさせたのか、その原因と今後の解決策である。いやはやイマイメデスの原理、あまりにも卑小すぎて自分でも情けない。
「ちむどん批判のその後で」を書いたのは、ホンの3日か4日前である。震度1というか火山性微動というか、ごく小規模にバズった形跡のあるその記事をまだ読んでいない人は、まあ後でもいいから、読んでみてくれたまえ(Thu 220915 「ちむどん」一斉批判のその後で/朝ドラに、プラス志向のご提案 4266回)。
(京都・長岡京「フルール」のナポリタングラタン。オイシューございました)
そして9月19日、「イヤだな」「見たくないな」とベッドでグズっていた今井君も、接近する台風14号と線状降水帯の気配にどうしてもガマンならず、ガバッとベッドを飛び出して、いつもの習慣通り冷たい炭酸水をグビグビ、続いてコーヒーをちびちび、すると午前8時になって「ちむどん」が始まっちゃった。
すると諸君、驚きの急展開というか、タイムトンネルを新幹線で駆け抜けるがごとき非常識な展開があって、0歳の子は30秒で1歳に、1歳の子が30秒で2歳に、次の1分か2分で4歳に成長した。一寸法師に勝るとも劣らない打ち出の小槌ぶりに、日本中の視聴者が腰を抜かした(はずだ)。
その4年のうちに、沖縄料理店「ちむどんどん」は一気に軌道に乗り、積み重なっていた借金の返済は滞りなく完了し、反社会的な世界からの借金にまみれていた「にーに」も、莫大な借金返済を済ませ、精神的にもすっかり成長して、落ちついた中年紳士に変身していた。
(京都長岡京「喫茶・軽食 フルール」の勇姿 1)
コリャ何なんだ?「反省会」の人々に、あえて弱みやツッコミどころをたっぷり与えて盛り上がらせ、その上で大逆転でも狙っているのか?
前回書いた通り「ミラクル」「奇跡」「大逆転」の類いがあんまり好きではないワタクシは、首を傾げながらマッパになり、いつも通りの90分の長風呂を始めたのである。
いまお風呂で読んでいるのは、20世紀初頭のドイツで活躍した作家カロッサの「ドクトル・ビュルゲルの運命」。カロッサの本業は医師であり、医師としての深く濃厚な苦悩をナマのまま作品に書き込むから、「ちむどん」との落差があまりに大きく、一種の解毒剤としても働いてくれる。
で、「ユリイカ!!」ないし「エウレーカ!!」の瞬間がやってきた。マッパで大汗をかきながら、ボクチンは「コント並みの大失敗の日々を延々と5ヶ月半も見せられるより、コドモが生まれてからの4年間をじっくり見たかったな」と考えていた。
「今日の冒頭5分のナレーションで終わった彼女の歴史を、せめて2ヶ月、できれば4ヶ月、じっくり描いて欲しかった」というわけだ。例えば早稲田大入試の英作文問題で取り上げられるほどの成功を収めた「マッサン」は、そうじゃなかったか。
(京都長岡京「喫茶・軽食 フルール」の勇姿 2)
若い時代の大失敗ばかり延々と5ヶ月半。「またか!?」と視聴者みんながウンザリするような相似形の大失敗を、繰り返し繰り返し「これでもか?」「これでもか?」と続けるよりも、苦労して開店した沖縄料理店を、誠実な苦労を重ねながらじっくり成功させる姿を見たかったじゃないか。
視聴者の苛立ちや違和感やの原因は、そこなのだ。大失敗の連続から立ち直って、落ち着いたオトナとして一歩一歩誠実に成長していく姿を、若干のユーモアを交えて描いてほしかった。
そう期待してテレビを眺めると、オトナとして立ち直る前のコドモっぽいドタバタばかりが、「手をかえ品をかえ」ならまだいいが、「手もかえず品もかえず」、相似形どころかほぼ同じ形で繰り返し見せつけられる。
今井君ぐらいの年齢にならないと分からないかもしれないが、だれでも人生30歳ぐらいまでは、よほどの天才でもない限り、その生活はコント並みの滑稽きわまりないエピソードの繰り返しだ。
後から思い出してみると、「ギャッ」と叫んで舌を噛んで死んじゃいたくなるぐらいの恥ずかしい大失敗でいっぱいなのだ。友人関係でも、受験のことでも就職のことでも、彼氏や彼女との関係でも、学校や職場での日々も、その多くが10年後には「ギャッ」「ギャッ」の対象になる。
(京都長岡京「喫茶・軽食 フルール」の勇姿 3)
そういうコントなみに滑稽で中身のない「ギャッ」「ギャッ」の体験ばかり、毎朝スクリーンに拡大して見せつけられてみたまえ。視聴者がひっくり返るほどの違和感と苛立ちを感じて当然だ。思わず自らの10代20代を思い起こし、「やめてくれ」「いい加減にしてくれ」「ギャッ」ということになる。
だって朝ドラの視聴者には、時間帯から考えても、志向から考えても、10代20代の若者は少ない。大多数は30代から50代、70代や80代が主流だろう。
(京都長岡京「喫茶・軽食 フルール」の勇姿 4)
ならば朝ドラで見たいのは、コントの連続みたいなドタバタした若い時代をようやく過ぎ、30歳に至ってようやく地に足をつけ、大関正代みたいな爪先立ちを卒業して(前回の記事を参照)、いよいよ一歩一歩力強く大地を踏みしめながら、たゆみない努力を開始した後の5年、いや10年、30歳から先の日々なんじゃないか。
その一番見たい5年を、ナレーションわずか5分で通過する。子育てしながらレストランの経営を軌道に乗せ、苦労に苦労を重ねて15年、ついに借金を返済する。問題の「にーに」の社会的更生も、しっかり成長したオトナの妹としてのヒロインの、30歳から先の10年をチャンと描かなきゃならない。
要するに視聴者が見たいと思っているのは、30歳から先のそういう充実の日々。しかし今回「ちむどん」が描いたのは、それ以前のコント連続の日々。見たいものと見せたいものがこれほど乖離すれば、見る側の失望と苛立ちは大きい。
(前々々回から再掲載、「フルール」のナポリタン。ホントにオイシューございました)
やっぱり、「6ヶ月」というスパンが明らかに長すぎる。いやもちろん、30歳以降の充実の日々を真剣に描こうとすれば、6ヶ月でも足りないぐらいだ。
しかし、ヒロイン役の女優の実年齢に合わせ、10代のセーラー服姿やら体操服姿やら、そういう世界もお決まりで外せないし、恥ずかしい失敗満載の20代を長々と描こうと考えれば、相似形のコントとエピソードを延々と繋げることになる。
だからヒロインはほぼ同じ内容の失敗を何回でも繰り返すし、別の登場人物も同じ失敗をいくらでも繰り返す。「ちっとも成長しない」という批判が出るのも当たり前だ。
人はそんなにカンタンに成長するものではないから、30歳前までを5ヶ月半も延々とドラマにすれば、ヒロインの成長なんか描けるはずがない。いきなりナレーションの5分で終わり、オトナの成長のプロセスは闇の中だ。
(8月24日、またまた訪問した「フルール」のスペシャルランチ。サイコーでございました)
そこで今井君としては、やっぱりプラス思考でいろんな提案をしたいのである。提案はすでに前々々回の記事でもしておいたが、どうだろう、今回こんなに「失敗だ」「大失敗だ」「歴史にツメアトを残した」とまで批判の大合唱を受けたんだ、まずはスピンオフ的な大挽回を図るべきじゃないか。
ワタクシは、9月19日の放送のナレーション5分ですっ飛ばした「空白の4年間」を、例えば90分ドラマ1回、あるいは30分ドラマ5回、そのぐらいの気合いを入れて、じっくり描いてみてほしいのだ。「ツメアト」は消えなくても、話題にはなるだろう。
(フルール「スペシャルランチ」拡大図。また10月中に訪問する予定でござるよ)
そしてやっぱり、女の一生を描くとしても、6ヶ月は長すぎる。20歳そこそこの女優を選択して、朝ドラ後半3ヶ月は40歳50歳60歳の女性を演じさせ、「どうみても息子より若い」「どうみても息子のヨメの同級生にしかみえない」というのは無理がある。
テレビドラマ草創期なら別のこと、やっぱり「6ヶ月」という作り方を改めるべきだ。一作 → 長くても4ヶ月、出来れば3ヶ月。東京と大阪の制作にこだわることなく、福岡・京都・名古屋・札幌、那覇・松山・広島・金沢・仙台、3ヶ月から4ヶ月なら地方局に任せて、地方のキャストやスタッフの発掘や成長を促すのもいい。
(この店を舞台に、コントの少ないオトナの朝ドラを作りたい)
今ワタクシが夢見ているのは、京都局制作の朝ドラ「フルール」の実現である。あんまりたくさんの客が詰めかけると店の迷惑になるが、京都長岡京市、阪急電車の長岡天神駅前に、昭和44年創業の老舗喫茶店「フルール」がある。
フランス語で「フルール」は英語のflower、おそらく創業者にはフランスに対する思い入れが深くあったのだろう。昭和44年創業なら、もう50年を超える老舗だ。アポロ11号の月面着陸の頃、大阪万博の頃。ちょうど「ちむどんどん」の開業と同時期だ。
2022年、創業50年の「フルール」は、間違いなく地元の超人気店。ランチの時間帯にはすべてのテーブルが埋まって、女性だけ6〜7人で切り盛りする。店内の活気は、銀座や祇園や梅田の店でもなかなか見られないほどだ。
店内の装飾も、マコトにクラシック。詳しくは実際に行って見ていただくしかないが、窓も照明も装飾も、50年経過してますます味わいが深く、ちっとも古びたところがない。水槽には元気に金魚が泳ぎ、外にはテラス席もある。
(京都長岡京「フルール」店内。クラシックというかシックというか、落ち着いてランチが楽しめる)
陽気でよく気のつくマダムが、何と言ってもこの店の中心的存在。訪れた客が最も楽しく過ごせるであろうテーブルに素早く案内し、規定のメニューから少しずれる注文でも、可能な限り客のワガママも受け入れてくれる。こういう洋食屋さんが近所にあったら、こんな幸せなことはない。
こんな店こそ、朝ドラにふさわしいんじゃないか。それも子役時代とコント時代をサッサと数週間で切り上げて、残った本編はすべて、ようやく開店したお店を、どんな苦労にも打ち勝ちながら軌道に乗せ、ついには押しも押されもせぬ地元超人気店に導く日々を、じっくり描きこんでいく。
8月中旬のワタクシは、店の名物「スパゲティ・ナポリタン・グラタン」(本日の写真1枚目)を勢いよく貪りながら、この店の成長の20年30年40年を楽しく描いたドラマだったらどんなにいいだろうと、思わず熱い溜め息をついたのだった。
1E(Cd) Kazuhiko Komatsu & Saint Petersburg:貴志康一/SYMPHONY ”BUDDHA”
2E(Cd) Akiko Suwanai, Dutoit & NHK響:武満徹 ”FAR CALLS” ”REQUIEM FOR STRINGS”etc
3E(Cd) Amalia Rodrigues:SUPERNOW
4E(Cd) Mehta&London:BERLIOZ/SYMPHONIE FANTASTIQUE
7D(DPl) 文楽:菅原伝授手習鑑④「天拝山の段」竹本伊達太夫「北嵯峨の段」豊竹嶋太夫「寺入りの段」「寺子屋の段」先代 竹本織太夫「大内天変の段」豊竹英太夫
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