Wed 210331 猫マタと靴マタ/哲学の道の思ひ出/靴マタとの最後の会話(4017回) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 210331 猫マタと靴マタ/哲学の道の思ひ出/靴マタとの最後の会話(4017回)

 誰でも同じだと思う。古文の時間に無理やり「徒然草」を読まされ、先生が盛り上がって「すごいだろ?」「すごいだろ?」と畳みかけてくるけれども、どう考えてもちっともスゴいとは思えない。

 

「もし21世紀に同じような世捨て人がいて、同じようなツブヤキを連日繰り返したとして、『いいね』をつけてくれる人がいったい何人いるだろうか?」「そもそもこんなの、わざわざ読もうとする人がいるだろうか?」

 

 例えば有名な第89段「猫また」を読んでみたまえ。いやはや、今井君も吉田兼好の時代に生まれていれば、日本史上最も優れた作家なりエッセイストの一人として、そこいら中すべての文学全集のヒーローになっていたんじゃないかと、余りの悔しさに満月に向かって遠吠えし、ついでにもう1杯のウィスキーをグラスに注ぐのである。

 

「高名の木登り」でも「8つになりし年」でも、第236段「獅子&狛犬、背きて後ろさまに立ちたりければ」でも、国語の先生たちにはマコトに申し訳ないが、151617歳の青少年の大切な時間を意地でも削ってまで、読ませなきゃいけないほどの価値があるとはどうしても思えない。

(お話もする靴マタ君、いよいよホントに卒業だ。16年間を過ごした懐かしい玄関で卒業写真を撮影)

 

 しかしまあ諸君、そう言いなさんな。第89段に登場する「猫また」、実はこの今井君の身近にも、ホンの2年前までは存在したのである。徒然草では「実は飼い犬が暗闇で激しくジャレついてきただけだった」というオチになっているが、なでしこも、ニャゴロワも、10歳を過ぎる頃からハッキリと人語を解し、人間の言葉を話し始めた。

 

 猫も、犬も、馬も牛も羊もラクダも、人との付き合いが10年を過ぎれば、人間の言葉を話すのである。それは猫や犬やラクダの側の変化ではない。人間の方で、いつの間にか犬&猫の側にグイッと擦り寄っていくのである。ニャーと言おうがワンと吠えようが、長く共に暮らす人間の方で、そのニャーやワンに深い意味を見出し始めるのである。

 

 13歳のなでしこの落ち着いたアルトの「ナー」の挨拶も、16歳のニャゴロワの生まれたばかりの子猫のような甲高い「ミー」という不満の声も、一緒に10年以上暮らした頃から、エゲツないほどハッキリ具体的な愚痴や要求を伝えてくるようになった。

 

「暑いからクーラー入れてくんろ」「こんな柔らかいゴハンはイヤだ。もっと歯ごたえがあるのをくんろ」「あまりベタベタしないでくんろ」「床が冷たいから、床暖房のスイッチ入れてくんろ」。2匹の要求は、まさに人語として、驚くほどハッキリ人間に伝わってきた。

 

 つまり猫マタというのは、猫の側で変わるのではない。人間の方で猫にグイッと接近するのである。「猫マタは尻尾が2つに分かれます」とか、そんな馬鹿げたことを言っててどうすんだ? 尻尾が2つに分かれたからと言って、何がどう珍しく、何がどう恐ろしいんだ? むしろ「コミュニケーションが双方向になる」ということなんじゃないか。

(京都・哲学の道。16年前の7月、夕立に濡れながらこの道を歩いた)

 

 同様の変化は、無生物の場合にも発生するのである。ワタクシは2匹の猫との付き合いが17年にも及んで、10年目からは猫との人語によるコミュニケーションを経験したが、冬のコートと30年、春秋のスーツと25年、黒の革靴と16年、そんなに長く付き合っていれば、「服や靴が人語を話し始める」という瞬間を知っている。

 

 今回、2005年の夏から履き始めた革靴との別れを経験することになった。チャーチ社製のごく基本的な黒の革靴であって、2005年6月、東急百貨店の渋谷本店で購入。最初は「こりゃ外反母趾の製造機だな」と思うほど、強烈に硬い靴で、授業の収録に履いていくにもコワくてコワくてたまらなかった。

 

 しかし諸君、いつの間にか「この靴じゃなきゃ外出できない」というぐらい、素晴らしい戦友になった。2007年からは今日まで、ほとんどあらゆる授業収録と出張に付きあってくれた。あんまり履き心地がいいから、2008年には同じ形のチョコレート色バージョンも購入。弟分として大活躍してもらった。

 

 ちょっと改まった場面には、必ずこの黒靴が同行。ワタクシだってそれなりに高級な店にも出入りするから、例えば京都・大阪・神戸などで高級レストランに行く予定があれば、東京の自宅から意気揚々とこの靴を履いて出かけた。

 

 だから2007年7月17日、ちょうど祇園祭・山鉾巡行の日に京都への出張があって、仕事の翌日に「哲学の道」を散策した時にも、この黒靴を履いていた。夕暮れの散策を終えようとしていた頃に激しい夕立になって、道に迷っていたアメリカ人女性に遭遇した。予約した宿屋が見つからなくて、夕立の中を右往左往していらっしゃった。

 

 あの頃のワタクシは、まだ京都の街の詳細を知らないから、彼女を助けようにも宿屋がどこにあるのかサッパリ分からない。仕方がないから自分の宿泊先のウェスティンホテルまで同行。雨の中、通りかかったタクシーにお乗せし、ウェスティンホテルのコンシェルジュにお願いして、彼女の宿泊先に連絡してもらった。

     (哲学の道「大豊神社」から東山を仰ぐ)

 

 あの時の靴と、いよいよお別れするのである。今月に入って靴マタ君との別れを決意し、名古屋のホテルや広島のホテルで卒業写真も撮影した。予定では3月25日、2021年早春シリーズの最後にこの靴に付きあってもらって、それを最後に断捨離と考えていた。

 

 しかし3月25日、早春シリーズのラストは東京・北千住。いやはやそれでは余りに普通すぎて、卒業とか断捨離のクライマックス感が全く感じられない。

 

 そこで今井君は一計を案じ、「よし、それでは桜満開の京都にコイツを連れていこう」「15年前の夏、激しい雨に濡れながら人助けした思い出の『哲学の道』を、最後に一緒に歩いてこよう」と決めたわけである。

 

 晩メシに「山ばな 平八茶屋」を選んだのも、実は靴マタ君の卒業を思ってのことである。今やワタクシが食事に行くと、若女将だけではなく大女将までが丁寧に挨拶に来てくれる老舗料理屋だ。中居さんに、心を込めて靴マタ君をキチンと揃えてもらいたい。卒業の思い出として、靴マタ君にこれ以上の晴れ舞台は考えられない。

(これからは、まだ3年目のこの「旅するカバン君」を道連れとして、また果てしない旅を続ける)

 

 やがて酒と食事が済んで、京都発21時半の新幹線に乗り込み、3月26日深夜、哲学の道の思い出を胸に、ともに東京に帰ってきた。最寄り駅に到着、2330分。日付がまもなく変わろうとする駅からオウチへの懐かしい夜道を、すでに16年の年月を共にした靴マタ君と、一歩一歩ゆっくりと歩いた。

 

 あんなこともあった、こんなこともあった。靴マタ君は、16年の記憶を1つ1つ、ポツリポツリと語りかけるのである。靴や猫が妖怪に変ずるのではない。人間の方で靴や猫の気持ちが痛いほど理解できるようになるのだ。2005年から2021年までの16年の歴史が、深夜の帰り道の10分ほどでマコトに鮮やかに蘇った。

 

 まもなく、静まり返ったオウチの玄関にたどり着いた。かつては帰宅のたびにこの靴にジャレついたニャゴもなでしこも、すでに久しく天国の住人である。

 

「ホントにお疲れ様でした」と声を出して言ってみると、ウソでも何でもない、熱い涙が自然に流れ落ちた。これでもう2度と、この靴マタ君の世話になることはない。しっかり靴供養もしてあげなきゃいけない。

 

 だって16年、ワタクシの旅は常にこの靴に支えられたのである。日本国中どんな仕事に出かけるにも、いつでもこの靴がお供してくれた。カカトを取り替えること十数回、「オールソール」つまり靴底の皮を全て取り替えること3回。「まだ履ける」と意地を張ったが、両足の小指部分に深い亀裂が入っては、さすがにもう意地は張れない。

 

 気がつけば、今日は年度末だ。明日からは全てが新年度で新しく切り替わる。ならば諸君、16年にわたって足許で慎ましくワタクシを支え続けてくれた愛すべき靴マタ君に、涙&涙の別れを告げるのに、これほど相応しい1日は他に考えられない。

 

「明日が入社式だ」という諸君、諸君も同様に長い子供時代という靴マタ君と別れようとしている。「明日が入学式だ」という諸君も、長い長い過去の靴マタとついにお別れだ。是非ワタクシと同じように、懐かしい過去に熱い涙を流し、明日からの激しい世界に備えてくれたまえ。

Thu 130307 入社式直前の1日をどう過ごしたか とりあえずワイシャツ5枚買いに行く

 

1E(Cd) Carmina QuartetHAYDNTHE SEVEN LAST WORDS OF OUR SAVIOUR ON THE CROSS

2E(Cd) Alban Berg QuartettHAYDNSTREICHQUARTETTE Op. 76, Nr. 2-4

3E(Cd) BernsteinHAYDNPAUKENMESSE

4E(Cd) Fischer & BudapestMENDELSSOHNA MIDSUMMER NIGHT’S DREAM

5E(Cd) Coombs & MunroMENDELSSOHNTHE CONCERTOS FOR  PIANOS

6E(Cd) LET’S GROOVE 

7E(Cd) BarenboimMENDELSSOHNLIEDER OHNE WORTE 1/2

8E(Cd) BarenboimMENDELSSOHNLIEDER OHNE WORTE 2/2

9E(Cd) Barenboim & ChicagoSCHUMANN/4 SYMPHONIEN 1/2

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