Sat 091003 1800人を目の前に演説中、靴の底が70%剥げてしまった思い出話など | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 091003 1800人を目の前に演説中、靴の底が70%剥げてしまった思い出話など

 そういうわけで(スミマセン、一昨日と昨日の続きです)、人生設計はあの辺から大きく崩れていった。天才、秀才、せめて「知的な人間」として、一切のケチをつけられることなく胸を張って生きていく、子供時代のそういう人生設計はことごとく消えて、「鼻水を垂らし、常に鼻水を拭い、口でハアハア息をしている、クシャミの止められない、数学77点の人間」という現実を、15歳の今井君は受け入れざるをえなくなった。まあそれでも、中学校の勉強、中学校での生徒会、高校入試、そういう話なら、少しぐらいクシャミが止まらなくても、少しぐらいの鼻水を垂らしていても、何とか切り抜けてきたのである。


 生徒会代表で全校生徒1800人を体育館に集めて挨拶する、などという晴れがましい舞台でも、まあハンカチかティッシュ(ちり紙)一束を握りしめていれば足りた。昔の秋田市土崎中学校は、学区内に「秋田湾地区新産業都市」をかかえ、日本石油、帝国石油、日本国有鉄道など、大きな工場で働く人々の子弟が大量に通っていて、1学年12クラス600人が詰め込まれていたのである。


 3学年1800人が集合した体育館は壮観。そこで挨拶するのは爽快。ただし、鼻水とクシャミが常に心に引っかかっていて、挨拶の途中でクシャミが始まること、鼻水が止まらなくなること、それが心配で緊張すること限りなし、そういう状況である。その経験があるから、予備校の授業で500人詰め込まれた教室に入っていく時も、講演会で1000人集まってもらっても、鼻さえ大丈夫なら、緊張することもないし、上がって手が震えたりすることもないのである。

 

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(箱にひそむ奇妙な生物)


 ただし、全校生徒が集まった体育館で演説したとき、その直前に右側の靴の底がベリッとはげてしまったことがあって、あの時はさすがに緊張した。今井君は舞台袖にいて、その日だけは鼻の調子もたいへん良くて、「おお、爆笑と拍手喝采を今日もまた勝ち取ろう」、そう思って友人たちとふざけあっていたその瞬間に、右足の靴の底がつま先から約20cmほど、ということは2/3、いや3/4がベロッと剥げてしまったのである。


 あまりのことに、クシャミが始まった。鼻水が垂れはじめた。だってあと5分か10分で全校生徒1800人を相手に挨拶なのである。教職員だって、校長&教頭先生をはじめ全員が挨拶を聞きにやってくる。それなのに、肝腎の今井君は、当時はまだ「ズック靴」と呼んでいた右足の靴の底が、ものの見事に剥げちゃっているのである。


 早速、セロテープで修理。何のことはない、足の指の付け根あたりのところをセロテープで5回も6回もぐるぐる巻きにして、それで事態を乗り切ろうと考えたのである。今井君自身以上に、セロテープ作戦を考えついた生徒会代表の諸君が、入り乱れて爆笑している。舞台裏の爆笑の声が、生徒たちや先生方に聞こえてしまうぐらいの爆笑である。セロテープをぐるぐる巻きにした足を見おろしつつ、自分自身も笑いと鼻水とクシャミが止まらない。

 

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(ミミック・ニャゴロワは何を目指しているか)


 こうして、満身創痍の今井君は1800人+α(先生方の分)の前のステージに上がった。ごく自然に右足を引きずっていることは言うまでもない。最前列の生徒たちがまず気づき、すでに腹を抱えて笑いこけている。しゃがみ込むヤツまでいる。うお。笑いは激しい上げ潮になって、「何だ」「どうした」「何なんだ」という秋田弁の囁きが広がっていく。


 こういう場面では、テレビドラマでも映画でも、主人公が真っ赤になって逃げるように退場するか、泣き出すか、誰か剛毅な先生や仲間が演説を引き継ぐかして、それで何とか事態を収めることになっている。しかし、それをそんな平凡なことで終わらせないのが今井君である。むしろ「せっかくこんなに受けてるのに、黙って終わらせてなるものか」という、特殊な盛り上がり方をする。あのとき今井君は、前代未聞の激しい身振りとともに激しい演説に夢中になり、その激しさのために足のセロテープは見事に千切れ、右足の裏2/3なり3/4は、再び靴本体から離脱してしまった。


 いや、むしろ完全に離脱したなら、まだ収拾の余地があったのだ。それはカサブタと同じことである。カサブタだって、100%の離脱は、むしろそのほうが好ましいので、10%や20%が未練たらしく本体に固執してブラブラぶら下がっている事態が、最も収拾困難なのである。1800+α人の前で、クシャミを抑え鼻水を抑えるのに躍起である今井君の前に、「つま先から70%が離脱した靴底への対処」という難題が突きつけられた。それでも見事に演説を最後まで完遂したのだから、その危機対処能力、恐るべしである。

 

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(ミミック・キャットが手本とした生物)


 で、問題は「引き際」である。演説しながら、後ろ向きにジワジワ退場するか。当時の歌謡曲やポップスでは、フェードアウト大流行中。演説のフェードアウトも悪くなかった。しかし、バカ正直にも今井君はキチンと演壇中央で演説を終え、1800人が固唾をのんで見守る中、靴底を見事にペッタンペッタンさせながら、つまり、右足だけをキックするように大きく前に踏み出しながら、ゆっくりと、悠然と、慌てることなく舞台袖に降りた。どれほど喝采を浴びたか、後から教師たちにどれほど叱責されたか、ここで言い表すのは不可能である。
 

 オリンピック2016年東京落選、ふて寝からの目覚め、クロックムッシュへの無謀なコショウ攻撃、コショウの逆襲、クシャミ大発生(すべて一昨日の記事参照)から、私の脳裡に蘇ったのは以上のような記憶である。こういう記憶を、剥げかけたカサブタよろしくブランブランさせながら、小田急に乗り、新宿で埼京線に乗り換え、赤羽で京浜東北線に乗り換えて、南浦和に向かった。

 

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(天才ニャゴロワでも上手くマネられない)


 なお、昨日の記事にアフィリエイトがついている。これはわざと載せたので、間違いではない。ただ、「この商品を買ってほしい」という推薦のつもりはサラサラないから、誤解してはならない。筆者がブログ記事をアップしようとすると「おすすめアフィリエイト」「これでお小遣い稼ぎ」というピコピコ広告が画面に出てくるのである。どれほど見当違いか、それを見てほしい。以前「Ads by Google」が余りにも滑稽だったので、そのことについて書いたことがあるが(Thu 090915参照)、一昨日の記事に対してもAds by Googleは「鼻づまり、イチゴ鼻、鼻うがい」。何なんだ、イチゴ鼻って? これほどブログが普及したのだ、機械の皆様にも、もう少しだけ進化してほしい。