Tue 090811 奈良漬けグマ物語 「御用、射殺、腹を裂く」 富士宮ヤキソバについての訂正 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 090811 奈良漬けグマ物語 「御用、射殺、腹を裂く」 富士宮ヤキソバについての訂正

 さて、「訂正」であるが(すみません、昨日の続きです)、ついつい好きなほうに話がそれていくクセは、今井君ぐらいの年齢になればカンタンに修正することは出来ないから、もう放っておくしかない。今だって、本当は一昨日の記事の訂正に入らなければならないのに、秋田に現れた「奈良漬け大好きクマ」の一件について、突然どうにも我慢ならないほど、書きたくてたまらない。せっかくだから、忘れないうちに「奈良漬けクマ」について話しておく。


 この夏は関東でもそうだが、東北では特にマトモな夏の日照が見られず、日照が足りなければ作物も実らず、木の実も激減して、クマさんたちは食べるものがなくてみんな困っている。困ったクマさんたちから、私のケータイにたくさんのメールが届いている(もちろんそんなことはない)。クマさんたちからのお手紙もひっきりなしに届いて、郵便受けから溢れるほどである(もちろんそんなことはない)。


 そこでクマさんのうちの一頭は、体重60kgにまで痩せ細ったところで、「このままではイヌかネコみたいになっちゃう、人里に下りて、何か旨いものをもらってこよう」と考えた。映画HACHIにあれほど号泣する日本人のことだ(HACHIの上映館では、館内全体が雪崩を打つような号泣ぶりとのこと、これほどの号泣は「初恋のきた道」以来、「火垂るの墓」以来、久しぶりだろう)、山を下りたクマさんに野菜ぐらいは恵んでくれるだろう、キュウリ1本、トマト1個、キャベツ1玉でいい、食べ残したお魚でもおまんじゅうでも、何でもいい、恵んでもらって山に帰ろう、そう考えた。


 クマさんとしては、大きさもそっくりな人間たちなんだから(だって、体重60kgだ)、友人の家にちょっと頼みごとに出かける、そういう気楽な気持ちだったのである。体型だって、今井君なんかだと「身長172cm、座高100cm」という情報が入っている。足の長さだってお腹のポコン具合だって、似たようなものじゃないか。おせんべいにコーラぐらい飲ませてもらってもいいじゃないか。実際に冷蔵庫を開けて、冷蔵庫のドアに片手を置いて、1リットルのペットボトルからコーラを飲んでいるところを写真に撮られ、写真が新聞に掲載された優しいクマどんもいるぐらいである。

 

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(優しく見守るクマのフランク。立って水を飲む不思議な白ネコ、見守るナデシコ)

 人間と、そういう親しい付き合いになれたら。クマさんは目を輝かせ、鼻歌を歌いながら、山を下りてみた。すると、1軒のおうちの小屋から、何だか甘いお酒のいい匂いがする。引き戸を開けてみたら、漬け物の樽があって、「何だ、奈良漬けだ」。樽を開けてみると、酒粕の中で茶色くいい色に染まったたくさんのウリが、「ウリふたつ」のウリが2つではなくて8つも9つも、20も30も、「ボクたちおいしいよ、クマどん、キミも1個どうですか?」と微笑んでいる。この状況で、気のいいツキノワグマどんが漬かったウリ1個に手を伸ばさなかったら、そのほうが不思議というものである。


 あまりにおいしかったので、ツキノワどんは明くる日も、また明くる日も、かかさず小屋に通ったとさ。ごんぎつねより勤勉に、ハチ公以上の忠誠心で、奈良漬けのウリに会いに通ったとさ。毎日小屋を訪れて、奈良漬けのウリどんたちに挨拶したとさ。きっと、小屋の中にのんびり座って、両手でウリを旨そうに抱え込んで、3コも4コも、続けざまに平らげたに違いない。それが、よほど人間たちの気に障ったらしくて、人間たちは奈良漬け小屋にワナを仕掛けたとさ。気のいいツキノワさんは、ものの見事にワナにかかりましたとさ。ワナにかかっても、きっとまだ奈良漬けのお礼ぐらいはニコニコ笑いながら言うつもりだったに違いない、今井君はそう確信するのである。


 ところが、早速小屋に集められたのは地元「猟友会」。合法的に銃をぶっぱなすことに飢えたこの人々は、奈良漬けに酔っ払ってヘロヘロの気のいいクマさんに、有無を言わさず猟銃を向けましたとさ。で、イタリア・ローマの「ぼったくり」事件ではあれほどしつこく(朝日新聞紙上だけでもすでに6回、AERAにも入り込んで1回)報道する朝日新聞さんの記事は、突然、クマどんの死後に言及し「クマの腹を裂いてみると」、と大きく飛躍。「クマはあえなく御用。猟友会が射殺して、腹を裂いてみると」である。ありゃりゃ、ずいぶん冷酷な報道である。
 

 で、「腹を裂いてみると、腹の中は空っぽ。体重はたった60kg。同情の声も上がった」というのである。おお、人間は恐ろしい。「同情」って、こんなの、ただの虐殺じゃないですか。麻酔銃で撃って、どこかものすごく人里離れた場所に運搬して、たくさん餌も与えて、元気になったらそこで解放、そういうのって不可能なんですか? 奈良漬けをおいしそうに食べてくれたクマさんに、何の感謝の気持ちもないのかい? HACHIは可愛いが、奈良漬けグマは「御用、射殺、腹を裂く」ですかい? うお、うおうおうお。

 

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(人間の恐ろしさに怯える)


 さて、「訂正」であるが、こんなにいろいろ頭をよぎる情報があると、いったい何を訂正するのだったか、記憶力がいくらすぐれていても、ついうっかり忘れてしまう(もちろんそんなことはない)。ちょっと天国の奈良漬けグマさんにメールして「私は何を訂正するのか忘れてしまいました。お礼に奈良漬けを送りますから、教えてくれませんか」と尋ねてみた(もちろんそんなことはしない)。クマさんからは絵文字やデコメ満載の女子高生メールみたいなのが戻ってきた(そんなことあるわけなくね?)。文面をそのまま紹介しよう(絵文字&デコメは省略する)。


「あなたは、富士吉田の名物『富士吉田うどん』を紹介する時、『あれれ、富士吉田名物って、焼きそばじゃなかった?』と書いてましたが、焼きそばが名物なのは、富士吉田ではなくて、お隣の富士宮です。あなたの日本地理感覚も、当てになりませんね。いつか『四谷大塚の小学生に社会を教えてみたい』とか大胆なこと言ってたようですが、富士吉田と富士宮が混ざるようじゃ、ま、その資格はありませんね。ヒグマとツキノワグマとマレーグマの区別もつかないんじゃねえの? がおお」


 以上、クマどんの助言にしたがい、訂正し、お詫びいたします。なお、奈良漬けグマさんからは、以下のような指摘もあった。
「あなたは、6月中旬から下旬にかけてずいぶん熊の肉を食べていませんでしたか(Sat 090613Tue 090623参照)。そういう行動を棚に上げて、あまり他人を批判するようなことはしないほうがいいんじゃありませんか。」


 ま、正しい指摘である。しかし、そんなことを言っていたら、天然ウナギもダメ、カツオもダメ、牛も豚も羊もダメ、とにかくみんなダメ、そういうことになってしまう。今井君が言いたいのは、奈良漬けを食べられるのは被害でも何でもない、「お客さんに来てもらった」ということであって、お客さんを「御用、射殺、腹を裂いてみる」では、何だか山姥伝説みたいだ、そういうことである。


 ついでだから言っておくと、だからこそ私は熊の肉を食べる時、1切れ5分もかけてじっくり噛みしめたのだ。低級なグルメ番組みたいに、ナマ焼けのアブラ肉を口に入れて「やわらかーい。あれ、とけちゃった」みたいな態度で食べるべきものではないのである。