Thu 081225 シューカツで大企業を目指すな 株式会社・学究社の英断について | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 081225 シューカツで大企業を目指すな 株式会社・学究社の英断について

 昨日に続いて就職活動に書くことにするが、2年近くも就職活動に取り組んで「大企業に行きたがる」というのも、既に少なからず時代遅れのように思う。「国際舞台で活躍」などというのは、大企業の中でもエリートに属するごく一部分、ちょっとやそっと「語学が得意」などというのは、超一流企業なら、ほぼ社員全員がそうである。せっかく大学3年4年の2年間を犠牲にして超一流企業に選んでもらっても、昨日書いたOB訪問の「中堅社員さん」みたいに、自分のもっていると信じる才能や能力を会社側に正当に評価してもらえず、身近な営業でドブ板回りの一生を送る人の方が圧倒的に多いのだ。


 大企業にこだわるのは、一昨日書いた(081223参照)「建物の立派さで予備校を選ぶ」という、典型的な20世紀的行動の一例かもしれない。要するに本社ビルをみて、それが西新宿や六本木やお台場にあって、30階だか40階だかの美しい高層建築で、だから行きたいと思うのだ。そういう本社なら「安定していて」「年収も高くて」「福利厚生もしっかりしていて」「潰れる心配もない」と信じているのである。OB訪問や模擬面接で自分が口にしたマニュアル的志望動機と、どれほどかけ離れているか、一度考えた方がいい。そういう発想は、六本木ヒルズやヒルズ族とともに、20世紀やミニバブルの向こう側に消えてしかるべきものである。


 今や、ソニーやトヨタやキャノンみたいな「日本の屋台骨」のような企業でさえ、あっという間に冷酷なリストラ計画を発表し、いとも簡単に内定取り消しを考える時代である。本社ビルがどれほど瀟酒で立派でも、したくない仕事に一生を費やすことがほとんど目に見えていて、しかもいったん金融危機が起こればあっという間にリストラ計画を発表するような会社を選ぶのは、そろそろヤメにした方がいい。もともと安定や安心を最大の目標にして生きる時代ではないのだ。


 日経平均は下がっても、下がったのはあくまでも平均である。しかもその平均は「日本経済を代表する企業」の平均であって、ジャスダックやヘラクレスをよく研究してみれば、金融危機の最中に株価をむしろ大きくあげ続けた企業だって少なくない。本社ビルが少しぐらいみすぼらしくても、少しぐらいダサイ場所にあっても、そういう企業は、人材を活用しなくては成長できないから、然るべき人材をチャンと活用してくれる。もし、これからOB・OG訪問に励もうとするなら、その方向への方針転換を早めに考えるのも1つ必要なことのように思うが、どうだろうか。

 

0961
(ネコは柔軟である 1)


 12月18日の朝日新聞朝刊をめくっていたら(なぜ今頃12月18日の朝刊をめくっていたかはともかくとして)、嬉しいニュースが掲載されていた。ジャスダック上場「学究社」が、派遣ギリで大企業を追われて行き場のない人たちに、4ヶ月間だけとはいうものの、仕事を提供し救済の手を差し伸べるというのである。


 学究社がジャスダックに上場したのは、すでに30年以上前のことで、当時はまだ「ジャスダック」という名前さえなかった。当時は「国立学院予備校」の経営が主力、今は「ena」の経営が主力、業態は学習塾である。12月18日現在での株価は300円ほど。学習塾として、30年前の勢いは全く感じられない。しかし、それでも河端真一社長以下、役員会が一致して「冷酷な派遣ギリに遭った人のために、たとえ貧者の一灯であっても、救済に立ち上がりたい」と意を決して、今回の行動に出る。雇用は100人、4ヶ月、確かにこの不況下で、その規模は大きいとは言えないが、まさに喝采すべき決断である。確かに、塾の仕事には、それほど経験や熟練の必要のない仕事も多くある。そういう仕事から順番に取り組んでもらえばいいのである。


 大学3年の夏や初秋からスーツを着込んでシューカツの努力をするのであれば、「グローバルにビジネスを展開する」とか言っておきながら、いったん危機がやってくると我先にリストラだなんだと言い出す超一流企業には首を傾げなくてはならない。近いうち詳しく書きたいのだが、今回の件は、国民全体として、決して忘れてはならない行動だと思う。巨大客船が沈みかけた時、エリートを自任する人間こそ、最後まで船内に留まって弱者を守り、救命ボートに残されたわずかなスペースを、弱い者たちに与えるように力を尽くし、自らは冷たい海水に浸かってでも歯を食いしばって救助を待つ、そういう態度をとるべきである。しかし今回彼らは、国民が注視する中、まさに真っ先に、遥かに弱い者たちも悲鳴をあげずに耐え忍んでいるというのに、誰よりも先に「助けてくれ」と叫び、弱者をまず船から追い落とし、「オレが死んだら、他の者も死ぬんだ。派遣社員にボートに乗っている資格はない。法律上も問題はない。どけどけ」と言いながら救命ボートにドカドカと乗り込んでいくのだ。


 11月半ば、「厳しい、このままではやっていけない」の叫びを皆が我慢している最中に、彼らは率先して悲鳴を上げた。それを目撃して、もちろん「不買運動」などという過激な手段に訴える必要はない。それは一種の暴力であって、現代国家ではあってはならない行動である。しかし、これほど苦労してバカバカしい就職活動に励んでいる学生諸君や、来年再来年の諸君、さらに彼らや彼女らを今後長年にわたって指導する就職カウンセラーの皆さんは、今回の事態を決して忘れてはならないし、就職の選択肢から真っ先に外す方向性を考慮するのが賢明である。しっかり言っておくが、社会の批判を浴びたら慌てて撤回するようなリストラ、つまり努力次第でしなくても済むリストラを、された人間が一番困るような時期に、軽率きわまりないやり方で発表したのが、彼らなのである。

 

0962
(ネコは柔軟である 2)


 ジャスダック上場の企業に就職しても、親戚は褒めてくれないかもしれないし、友人も羨んでくれないかもしれないし、別れた彼氏や彼女が戻ってきてくれることもないかもしれない。しかし、就職ということは、親戚や友人の絶賛を浴びたり、彼女や彼氏を取り返すためにするものではない。前出の学究社は、現在57歳の河端真一社長が慶応義塾大学の学生のときに、教師4人と生徒7人で始めた学習塾「国立学院」が前身。最初は零細企業もいいところ。しかし、その数年後には首都圏14校舎、さらにその数年後には校舎数は70校舎、ニューヨークやロンドンやシンガポールにも校舎を設立して一気に拡大、ジャスダックに学習塾が次々に上場する先鞭をつけた。周囲の人間はヨダレを流して羨んでくれなくても、こういう企業こそ、就職した学生の力を目一杯引き出してくれるのではないか、少なくとも私はそう思う。


 なぜこんなに詳しいかというと、私自身アルバイト気分でこの会社に在籍していた時代があったからである。電通をさっさと辞めてしまったあと、30歳間近でまさに30歳まで秒読みの状況。仕方なく「まあ塾で先生でもやるか」と思ってこの会社に入り、春日部勤務。あっという間に「せんげん台校校長」「南浦和校校長」というのをやらせてもらい、あっという間に、ほとんど走り抜けるように、退社に至った。「校長」といっても、せんげん台は部下の正社員ゼロ、南浦和も部下の正社員3人。まさに「名ばかり管理職」の草分けをやったわけだし、それが不満で「あっという間退社」をし、それが逆に幸いして駿台や代ゼミで花を咲かせてもらったわけだが、もし本気で働くなら、こういう会社の方がやりがいが非常に大きいと思う。あれからもう長い時間がたって、学習塾として絶好調というわけではないし、むしろ縮小路線にあるのかもしれないが、それならそれで、今回のことをきっかけにして立ち直ってくれればいい。久しぶりに会社名を新聞記事で発見して、あまりにも嬉しかったので、少し興奮しながら書かせていただいた。