Tue 081223 大井町、藤沢、高円寺講演会 東進の良さと先見性について | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 081223 大井町、藤沢、高円寺講演会 東進の良さと先見性について

 何日か連続して妙に真面目になってしまい、自分の自堕落な生活を棚に上げ、大いに偉そうな演説を書き続けて、何だかひどく恥ずかしい思いである。そうこうしているうちにもう年の暮れも近づいてしまったが、やはり身辺のことも記録しておかなければならない。12月12日、大井町で講演会。出席者50名弱。12月13日、藤沢で講演会、出席者120名強。12月14日、高円寺で講演会、出席者70名弱。すべて高1高2生に絞ったもので、しかも駅前の雑居ビルが会場である。受験学年以外の生徒を対象にしたこの時期の小規模な講演会で、よくこれだけの受講生が集まったものだと思う。特に藤沢は絶好調で、まもなく校舎に人が入りきれなくなる状況とのこと。是非とも早めにもっと新しい大きな校舎にして、「せっかく東進に入学しようと思ったのに、満員で閉め切られていた」などという可哀想な生徒が出ないように準備してほしい。藤沢以外にも、そういう校舎は少なくないはずだ。去年の秋に講演した北習志野とか、今年の秋に講演した八千代台とか、その他私の知らない校舎でも「もうパンパンになりかけている」「もっと広い教室にしないとまずい」という、昔風の表現でいえば「嬉しい悲鳴」の校舎も多いだろう。是非是非、満員締め切りになる前に対処をお願いしたいところである。
 

 もちろん、大井町、高円寺も非常によく努力していると思う。もともと、校舎としてはあまりいい条件ではないのだ。高円寺は駅から離れている。大井町は目立たないし、雑居ビルもいいところ、下の階は小学生対象の塾だし、何より驚くのは1階が飲食店だという点である。さらに、どちらの街も予備校文化が強く根付いた街ではない。立川・津田沼・柏・大宮や、最近なら町田・南浦和・川越のように、予備校の林立する地域ではないのだ。こういう場所で孤軍奮闘を続ける東進の若いスタッフ諸君には、本当に頭の下がる思いである。


 東進に移籍してきてまもなく4年が経過するが、最初の頃は私もこういう校舎の立地や環境に首を傾げたものだった。首都圏の中でも、常識としては大学受験予備校の校舎があるとは思えないような場所、例えば錦糸町・向ケ丘遊園・湘南台・新松戸・取手・金町・上福岡・西新井・綾瀬・北千住・巣鴨・鶴見・蒲田・大森・下北沢・三軒茶屋、そういう駅前の雑居ビルにどんどん校舎ができる。しかもその雑居ビルは、駅の真正面にはなくて、駅に降りても、そこからすぐには見つからない。横浜や津田沼や藤沢や柏のような、従来の予備校なら「拠点校」として、巨大な自社ビルか、それが無理でもしっかりした一棟借りのビルを校舎にして、建物の立派さで生徒や父兄の信用を勝ち取ろうとするような場所ですら、校舎はやっぱり駅から見えない雑居ビルの一室にある。

 

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(今日も毛布が好き 1)


 東進移籍前の予備校ではどこでも(要するに駿台でも代ゼミでも)殿様扱いされるのにすっかり慣れていた私としては、最初のうち相当の違和感があったのは当然である。私だけではない、普段本校で授業している駿台や代ゼミの講師が地方の校舎に出かければ、どんな若手講師でも、または不人気講師でも、同じような殿様扱いをしてもらえるのだ。「地方校舎」と言ったって、やはり校舎は総合病院並みの立派さだし、どこの駅前でもその界隈で最も目立つ、まさに偉容を誇る美しい巨大なビルである。講師室もまた立派。高い天井、一流企業の役員室にあってもおかしくないようなデスクとチェア、講師室だけのために雇用されている女子社員の丁寧な挨拶、お茶にコーヒーに紅茶。校舎に入るだけで誇らしく、講師室に入っていくだけで「自分は今VIPかも」と勘違いするような待遇が待っていた。
 

 ところが東進は違う。要するに正反対なのだ。まず、降りる駅からして違う。特急や快速や準急の止まらない、各駅停車の駅だったりもする。降りると、そこはまさに庶民の街の夕暮れ、ビジネスマンより、買い物の主婦の姿のほうが目につく。駅前のスーパーには焼き鳥やダンゴの出店が出て、パチンコ屋、チェーンの飲み屋、宝くじ売り場、要するに雑踏である。事前に渡された校舎の地図を見ても、そう簡単には校舎は見つからない。「洋服の青山」の2階、「クスリの福太郎」の2階、樋口眼科医院の4階、セブンイレブンの3階、和民の4階、セントラルスポーツクラブの7階。そういう雑居ビルの、古びた小さなエレベーターに乗って、やっとのことで校舎に到着する。
 

 しかし、そこには「講師室」などというものは存在しない。普段生徒たちが使っている「音読ルーム」のイスを片付けて、折りたたみの机にパイプ椅子2~3脚を並べて、臨時の控え室が準備されているだけである。その臨時控え室さえないこともある。近くの喫茶店で待っていてほしい、とか、清掃会社のオジサンたちの更衣室で1時間待っていたこともある。しかもその更衣室の2つの蛍光灯のうち一つが壊れていて、雨の中をさまよって濡れたスーツが何だかとても惨めに感じられたのを記憶している。出されるお茶はペットボトル、グラスさえないこともある。おしぼりは紙のおしぼり、古くなってカサカサに乾いていたこともある。講師室がないのだから、講師室担当の女子職員がいるはずはない。


 だから、最初の頃の私は非常に不機嫌だった。不機嫌というより、寂しかったのである。予備校講師程度のクセに、長いVIP扱いのせいで、VIP扱いされないと不機嫌になるクセがしみついていたのかもしれない。不機嫌が過ぎて、ほとんど「ダダをこねた」「あばれた(もちろん暴力ではなくて)」ことさえ何度かあって、最近は大いに反省し、ダダをこねたのは今になってみると恥ずかしくてたまらない。予備校講師にVIP扱いなんかいらないし、「高給で優遇」されているのだから、VIP扱いがよかったら自分でそういう場所に出入りしていればそれでいいのだ。

 

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(今日も毛布が好き 2)


 今思うのは、こういう東進のあり方こそ、塾や予備校の本来あるべき姿だということである。新幹線が止まるようなターミナル駅の駅前に大きな建物を建てて、建物が大きいから立派です、立派な建物だから商品も信頼できます、だから、いらっしゃいいらっしゃい、そういう姿勢は既に時代遅れである。小売り業界なら、高島屋・そごう・三越がそれだった。しかし、そういう「新幹線停車駅タイプ」の経営は20世紀のもの。そごうは1度破綻を経験したし、三越は池袋も横浜も閉店である。それを引き継いだのは「急行停車駅タイプ」の営業。私鉄の急行や準急が停車する駅の中途半端な駅前に中途半端なビルをたて、スーパーなんだかデパートなんだかよくわからない中途半端な経営をする。ダイエー・ヨーカドー・西友である。しかしこれも行き詰まっているのは、ダイエーが破綻したことでも明らか。今はディスカウント合戦で消耗戦になってしまっているが、これを予備校に当てはめると、かつてSKYと呼ばれた3大予備校が「新幹線停車駅タイプ」、その後からどんどん立ち上がった新興の予備校が「急行停車駅タイプ」。その「ディスカウント合戦」とは何を意味するのか、あまり考えたくはないが、要するに講師と授業の質を犠牲にした消耗戦である。


 東進の先見性は、そういうディスカウント合戦に参戦することを拒絶し、あくまで授業の質を確保しながら、サービスの向上を可能な限り進めていることである。消費者としての生徒たちは、さすがに賢い。彼らも、彼女らも、既に建物の立派さに引かれて予備校を選ぶことをしない。もちろん、どこかの大きい予備校が素晴らしい新校舎を駅前に作って授業を始めれば、始まった当初だけはそちらに流れる子供たちも少なくはない。しかし、子供たちはあっという間に戻ってくる。ディスカウント合戦に気づくからである。


 だからこそ、大井町でも、高円寺でも、八千代台でも、「ええっ、高1高2だけでこんなに来たの? ターミナル駅でもないのに?」と、講師自身が驚くほどの受講生が集まるし、調布でも「ええっ、ついこのあいだ大きな予備校の調布校が出来たばかりなのに、誰も行かなかったの?」というほどに受講生が来てくれた。藤沢では、校舎関係者が「ああいうのは、競争相手にはなりませんね」という余裕の微笑みをもらしていたりもする。


 これから、2月3月と講演会ラッシュに入るが、どこの校舎に行くのも大いに楽しみである。2月には鹿児島・熊本・佐賀・宮崎・豊中・茨木など、首都圏以外の校舎にもたくさんお邪魔することになるが、実は最も時代遅れなプライドに悩まされていたのは、講師である私自身だったのかもしれない。生徒たちは、どんな小さな駅の校舎でも、それがどんな雑居ビルの校舎でも、成績さえキチンと上がり、授業さえチャンとしていれば、心から楽しみにして講演会を待っていてくれるのである。