Fri 080704 ブログ開設1ヶ月 ヴィラ・デステの庭園 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 080704 ブログ開設1ヶ月 ヴィラ・デステの庭園

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 あれま、ニャゴロワどんがいきなりバンザイを叫んでいる。なぜバンザイなのかといえば「ブログ開設1ヶ月、連続更新達成」を祝ってくれているのである。おお、いいネコである。毎晩毎晩(というより早朝に)酒を注ぎに2階に上がってくる私に心配そうに視線を投げ「そんなに飲んで大丈夫ですか」と問いかけ、問いかけながら既に諦めきったように大欠伸してアゴをはずしかけてくれたネコだけのことはある。ま、とにかくよかった。ニャゴロワはついでに1回転して、もう1度バンザイを叫んでみせた。

 
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 おそるおそるブログを開設して、今日で1ヶ月が経過する。ほぼ完全に水平飛行に入り、初日に「10年間毎日更新する」とした宣言も、難なく実現できそうである。文字情報の多さについては驚きの声が上がっているが、この程度の量は私としてはごく当たり前。記録魔であり記憶魔である本領は、これからいよいよ発揮されていくのであって、文章量は今後増えることはあっても減ることはない(と思う)。一般のブログとの違いもここにあるので、およそブログ的でない文体で、およそブログ的でない分量を、これからも継続して書いていきたい。
 

 驚いたのは、ブログを書くことによって生活の充実度が急激に高まったことである。確かに以前からある程度の充実はしていたし、初回ブログ(Thu 080605参照)でも自分の充実ぶりを「オヤジの悪戦苦闘」と表現しておいた。しかしあれから1ヶ月、唯一「参考書執筆」の進行状況のみが言語道断に遅れていることを除けば、読書でも何でも、その達成度は以前よりも格段に上昇している。大学受験生に例えて言えば「まだ数字になって成績上昇に現れてはいないが、計画表以上に学習が進んでいて、基礎学力は着実に向上している」とほめてもらえる場面である。そういう受験生にもし私がアドバイスするとすれば「成績上昇を焦ってはならない。着実に継続することこそ重要。模試や実力テストで成績が向上する前触れとして、まず定期テストで満点近い得点が2~3回連続することが多い。いまは、それを目指して、とにかく毎日必ずブログを更新し続けることが大切」である。


 「一日に写真1枚」とも宣言したが、写真の数は予想外に増え、現在は1日につき4~5枚になっている。このことについては反省がなくもない。特にネコたちには謝罪しなければならない。ナデシコどんによると、毎日カメラを向けられるのは緊張しすぎるというのである。「つきのわさん、ネコの身にもなってください。安心してしっぽもクネクネさせられない。ツメを噛んでもいられない。いっつも両手をそろえてお行儀よくしているのは、たいへんなんですよ。南里サンのビデオでも「シャイ猫」の代表として紹介されてたくらいですから」とのことである。なお「南里サンのビデオ」というのは、有名なキャットシッター・南里秀子さんによる猫とのつきあい方についてのビデオ。タイトルは忘れてしまったが、3年ほど前の夏に発売され、ナデシコは「シャイ猫」ニャゴロワは「フレンドリー猫」の代表例として出演している。もっとも、出演中にナデシコはシャイ猫の役柄を忘れてしまい、ビデオの中ではニャゴロワ以上に飛び回り走り回って激しい活躍を演じていた。「ニャゴねえさんは、のんきな性格だから写真を撮るにもどんどんニャゴニャゴよってくるでしょうが、私は内気なんですから、ゆっくり居眠りもしていられません。第1、これからもそんなに勤勉でいられるんですか?」ナデシコどんは疑いに満ちた表情で人の顔をじっと見ている。「悪かったのお、ナデシコどん。ま、もうしばらく我慢して見ていてくんろ。まだまだがんばれそうなんじゃ。」

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 5月15日、Villa D’Esteに着いてそのあたりをウロウロしていたら、いつの間にかウェイターに勧められてテーブルについてしまった。ただのベンチだと思って見くびっていたら、そこはカフェだったのである。何を飲むか尋ねられ、今度はオロオロしていたら、いつの間にかSpremuta D’ananchaを注文したことにされていた。曇っていても日差しはあってイタリアらしくない蒸し暑さだったから、ここはどうしても陽気に「生ビール!!」と世界の中心に向かって叫ぶところだが、そこはさすがVilla D’Esteのウェイターである。日本のTVに出演しているどんな「イケメン」も全く足もとにも及ばないような美形男子の笑顔と優雅な身のこなしは、そもそも次元が違うのだ。自分が自信を持ってオススメするものを、万が一にも客が拒絶して別のものを注文するようなら「神はお許しになりませんよ」という迫力に満ちた頬笑みである。テーブルの脇にスックと立って、自信満々にSpremuta D’anchaと発音されれば、アジアの果てから来た短足ケムクジャラの東洋人がツベコベ抗弁する余地はない。これは命令であり、神のお告げである。私の生ビールは、その一瞬で宇宙の彼方に泡と消えた。
 

 ウェイターが去って、薄曇りのコモ湖とその対岸をぼんやり眺めた。とうとう来てしまった。昨年9月、すぐお隣のマッジョーレ湖に10日間滞在して、その印象が余りに強かったものだから、知名度ではそのマッジョーレをはるかに凌ぐコモ湖も近いうち必ず訪れようと決めていたのだ。こんなに早く実現するとは思ってもいなかった。しかも、今回の旅行を決断したのは、5月1日。あれからたった半月でこんな場所に座っているとは、まさに夢のようである。
 

 コモ湖の第一印象は「意外に地味で大人しい」である。まず、イタリア国鉄の車窓からはコモ湖の姿は全く見えなかった。初めてコモ湖が目に入ったのはタクシーの中からである。マッジョーレのときは、電車が湖畔の街ストレーザに到着する30分も前からマッジョーレ湖が車窓右側に姿を現し、乗客はみな窓を全開にして濃い藍色の湖を写真に収め、私の後ろのボックス席では20代後半のイタリア人カップルが肩を抱き合って湖を見つめていた。それに対してコモ湖は、あくまで控えめにあくまで上品に、最後まで姿を隠していたのである。
 

 そして今、目の前にコモ湖がある。「人」という漢字を毛筆で書けばコモ湖の形になる。だから、たいへん細長い。コモ湖を縦に旅すれば高速の船でも半日以上かかるが、向こう岸に横切れば30分もかからない。対岸はすぐ近く、手に取るように見える。この光景は、日本の大河に似ている。最上川、吉野川、北上川、筑後川。対岸の傾斜が大きくて、赤い屋根の家々が険しい山の斜面にやっとのことではりついているのと、湖水が深いせいで(深いところで400m、このあたりでも200mはある)水の色が濃い藍色であることを除けば、これはまさに大河の光景である。
 

 もう一つ、マッジョーレとの大きな違いがあって、この湖は騒々しさをほぼ完全に拒絶しているのだ。マッジョーレには、観光地にはおあつらえ向きの3つの島が浮かんでいた。ベッラ島、ペスカトーレ島、マードレ島。そのそれぞれにハッキリした特徴があって、島を巡る観光船がストレーザから30分おきに出ており、湖面には常に4隻か5隻の船が行き交い、人々は騒々しく船着き場に並び、船の切符売り場には列ができ、列はおだんごに変わり、ドイツ語・英語・フランス語・スペイン語がイタリア語に混じって、「これぞヨーロッパ」という活気に満ちていた。船着き場のそばからは、標高1500mの山(モンタッローネ)に登るロープウェイも出ていたし、湖畔の散歩道を歩いていれば、ヘミングウェイ「武器よさらば」の舞台になる美しいホテルを見ることもできた。


 それに対して、コモ湖には「まったく何にもない」のである。名所、旧跡、それを目指して押し寄せる観光客、誇張ばかりの大袈裟なガイドブック、スピーカーのアナウンス、そういう「熱海・箱根的なもの」「日光・草津的なもの」をすべて排除することからスタートしている。白鳥ボート、焼きトウモロコシ、鮎の塩焼き、チョコバナナ、そういうものたちとは、世界も宇宙も次元もかけ離れている。あくまでも静かな湖面があり、対岸には赤い屋根が連なり、優雅で豪華なVillaが点在し、しかしそこにあるはずの生活の匂いは全く感じさせず、頻繁に航行する観光船もなく、ガイドブックを見ても特にmustと思われる観光スポットは存在しない。湖には、波さえ立っていない。半年前、マッジョーレ湖での初日は、とても湖とは思えない激しい波と波しぶきと、その波しぶきに戯れている人々の陽気な笑顔と笑い声で彩られていた。しかし今日のコモ湖は、藍色の蜜を流したように濃厚に静まり、どこまでも静寂が広がっていく。テーブルでSpremutaを待ちながら、やがて私は「大河の風景」との違いをも実感するようになった。それは(余りにも当たり前なのだが)「流れる水」と「流れない水」の違いである。この湖は、水の流れるわずかな気配さえも拒絶しているのである。写真は庭園から見たコモ湖対岸の風景。

 

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 スプレムータ・ダランチャとは、要するに今そこでオレンジを3~4個を搾って作ったオレンジの生ジュースである。本当に「今そこで搾ってきた」という生々しさがあるのがスプレムータ。普通のオレンジジュースは「スッコ」と呼んで、生々しさでしっかり区別され、この2つはイタリアでは全く別の飲み物なのである。ヨーグルトと牛乳ぐらい、あるいは焼酎と日本酒ぐらいの違いだと思えば間違いはなくて、本当にオレンジが好きかどうかが試される。ファッサーノとかアマルフィとか、南イタリアの素朴なスプレムータは濃厚この上ないもので、日本人には「ちょっと濃すぎるかな」というか、喉にひっかかりを感じるほどの濃さであり、その日の調子によっては(つまり二日酔いの朝には)ちょっと水で薄めたくなるぐらいである。


 しかし、さすがVilla D’Esteはスプレムータまで上品。曇った蒸し暑い今日の天候にあわせて、あるいは実は生ビールが恋しかった私の気持ちに合わせて、軽い飲み口にしてくれた。うーん。この心遣い。たかがオレンジジュースで8ユーロもするだけことはあるねえ。8ユーロ、円安ユーロ高のせいもあって、何と1300円。こんなミカン汁に1300円も払ったと知ったら、12年前に亡くなった私の父なんかガッホガッホ豪快に笑いながら、驚きでひっくり返ってしまっただろう。1300円もあれば、高田馬場の駅前や新宿の地下街で枝豆&チクワ付きの「晩酌セット」ぐらい、余裕で注文できるはずだ。


 と思っていたら、やっぱりさすがにVilla D’Esteであって、新宿や高田馬場に負けてはいない。枝豆&チクワの代わりに夢のような量のオリーブの山とナッツの山が出てきた。まずオリーブは、その1個1個がスーパーで売っている普通のオリーブの2倍か3倍の大きさ。オリーブというより、イモみたいな感覚である。その種入りのイモのようなデカいオリーブが、銀色の器に(「銀色」というより銀そのものだったと思うが)20個も満載されている。ナッツのほうは「これは昼食ですか、それともお弁当ですか」と聞きたくなるほどの量。おお。それをテーブルに並べつつ、さっきのウェイターがおよそウェイターというものに許される限りの優雅な表情で微笑んでいる。


 ということになれば、日本人には意地があって、このオリーブとナッツを全て平らげなければならない。威張るわけではないが、というか、むしろ威張るのであるが、1300円も払うのだ。しかもあの恋しい生ビール君が犠牲になったのだ。ここはハッキリ仇をとってやらなければならないだろう。イモのような巨大オリーブ20個、弁当のような大量のナッツ、貴金属のギラギラした器、そういうものでおどかそうとしても、アジアの果てからここにたどりついた日本のツキノワグマが負けるわけにはいかないのだ。そういう悲壮な決意のもと、オレンジジュースとオリーブ、オレンジジュースと大量のナッツ、そして何よりもオレンジジュースとツキノワグマという完全なミスマッチの対決が始まった。隣のテーブルからはロシア語を話すロシア人(当たり前か)の中年カップルが珍しそうにこの対決を眺めているし、例のイケメンウェイターは何度もテーブルの横を通って様子見をしている。「にやにや」と「にこにこ」の中間の実に微妙な笑顔を保ちつつ、上品に、あくまで上品に、「Villa D’Esteのウェイターは、どんなお客様でも受け入れます」というスタンスを崩さない。ただし100%間違いなく1時間後の休憩のとき「クマみたいな激しい日本人がきて、オレンジジュース1杯であのナッツ全部食って、あのオリーブ全部食って、それでも平気な顔で去っていったぜ。すごくない? というか、おかしくない?」というようなネタの一つになっていたはずだ。


 全てを平らげ、皿の上には巨大オリーブの種20個を残して、アジアのクマはテーブルを去る決心をした。日本でこういうことをすると、クマが襲ってきた証拠として写真を撮られ、「地元の猟友会」の人たちが手に手に猟銃を抱えてクマを追跡し、最後にはクマは無惨にも「射殺」されることになる。「駆除」とか、きわめて失礼な言葉を遣う。この間わざわざ上野動物園まで出かけ、2頭のツキノワグマの昼食後の怠惰な様子を1時間飽きずに眺めてけれども、あれは「射殺」「駆除」の対象ではない。「駆除」だなんて、スズメバチみたいな言われ方は許しがたいものを感じる。腹を下にして岩の上に横たわり怠惰に涼んでいる様子は、少なくともパンダよりはるかに可愛らしく、まさに尊敬すべきオジサマたちなのである。


 というわけで、クマさんは何だかオレンジジュースですっかり酔っ払ってしまい、いい気分で早速Villa D’Esteの庭園を散歩することにした。コモ湖で1番有名なヴィラの、1番有名な庭園である。日本の書店に並んでいるガイドブックの中には、コモ湖についてはこの庭園についての記述しかないものさえあるぐらいだ。雲が切れて、青い空も少しだけのぞき、5月の爽やかな風が渡って、庭園の散歩にはこれ以上望めない天候になった。ブログのトップページの写真では、自分でもほれぼれするぐらい気持ち良さそうな顔をしているが、油断してはいけない。このクマの腹の中では、スプレムータにまみれた大量のナッツとオリーブが今まさに着々と消化されつつあるのだ。写真は、庭園を下から撮ったもの。

 

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 なお、明日から福岡と熊本に出張する。ブログも、講演会と歓迎会(要するに飲み会)の合間に、ホテルで執筆することになる。慣れない環境で苦手なパソコンをいじるわけだから、執筆の遅れと更新の遅れが予想される。あらかじめここに記しておく。


1E(Cd) Human Soul:LOVE BELLS
2E(Cd) Patricia Barber:NIGHTCLUB
3E(Cd) Jochum & Bavarian Radio:MOZART/THE CORONATION MASS
4E(Cd) Kremer:MOZART/VIOLINKONZERTE Nos. 2 & 3
5E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.1
6E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.2
7E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.3
10D(DvMv) THE BOURNE IDENTITY
13D(DvMv) THE BOURNE SUPREMACY
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