前々回のブログで妊娠前の健康管理として「プレコンセプションケア」が重要であると書かせていただきました。(→プレコンセプションケアって?)
一方で現在外来で2人目あるいは3人目希望として来院される方も増えており、こういった方を対象に妊娠と妊娠の間に提供されるケアとして「インターコンセプションケア」があります。
今回はこのインターコンセプションケアについて書かせていただきます。
☑インターコンセプションケアとは?
インターコンセプションケアは「女性およびその次児の転帰を改善するために妊娠と妊娠の間に母親に提供されるケア」と定義されます。1)
もう少し分かりやすく説明するならば
インターコンセプションケア=産後ケア+プレコンセプションケア=妊娠間のケア(interpregnancy care)とも定義づけできます。2)
インターコンセプションケアの目的は、次の妊娠時の母体の健康を改善し,次児の健康転帰を改善することであり、さらにその健康改善効果によって女性の長期的な健康状態を改善することです。3)
インターコンセプションに関するチェックリストを下に掲載します。
☑インターコンセプションケアが重要な場合
基本的にインターコンセプションケアの内容はプレコンセプションケアとほぼ同じであるため4)、次回の妊娠を検討されている方には皆さん必要なケアになりますが、特に前回の妊娠中に以下のような合併症があった場合には、それぞれの疾患の再発リスクが高いことが知られており、このケアが特に重要になります。
再発リスクが高い合併症は、
①妊娠高血圧症候群(HDP;以前の妊娠中毒症)・・・前回妊娠で妊娠高血圧腎症(PE)・妊娠高血圧(GH)を発症した場合、次回妊娠時のHDP再発リスクはそれぞれ6.6倍、7.5倍となる。4)
②妊娠糖尿病(GDM)・・・GDM 既往女性の次回妊娠時の再発率は43 〜72%とされ、再発リスク因子として前回の妊娠前BMI 30 kg/m² 以上,新たな妊娠前BMI 25 kg/m² 以上、糖尿病家族歴、前回妊娠インスリン治療などがある。4)
③早産・・・前回妊娠で前期破水からの早産であった場合、次回の妊娠では前期破水のリスクが20倍、早産のリスクがほぼ4倍増加したと報告されている。5)
などが挙げられます。
☑妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産既往に対してのインターコンセプション
前回妊娠時に上記①~③の合併症があった場合には、その再発リスクが高いためよりインターコンセプションが重要となると述べましたが、それぞれに対しての具体的なインターコンセプションを書かせていただきます。
①妊娠高血圧症候群(HDP)既往がある場合のインターコンセプション
・血圧や蛋白尿が正常化してからの妊娠を勧め、産後もそのまま降圧薬の内服を継続する場合には、妊娠時にも内服可能な薬剤を使用する。1)
・再発予防のため妊娠成立時の低用量アスピリン内服が考慮される。4)投与は妊娠12~16週からが推奨されている。6)
・BMI を減少させることで再発率を低下させうるとの複数の報告がある。英国国立医療技術評価機構(NICE)では再発予防のためにBMI を18.5 以上25 未満に維持することを推奨している。4)
②妊娠糖尿病(GDM)既往がある場合のインターコンセプション
・血糖コントロールが良好であることを確認してからの妊娠を勧める。1)
・分娩後6~12週に75gOGTTを施行し、その後は3ヶ月~1年毎のフォローアップが推奨される1)
③早産既往がある場合のインターコンセプション
・早産リスクの高い妊婦に、Lactobacillusを含むプロバイオティクス製剤の投与を行うことで妊娠維持機構が安定し、早産を回避できると推測される。実際に後方視的研究ではあるが、妊娠32 週の早産を有意に減少したとする報告や、反復する自然早産が有意に減少したとした報告がある。7)
・妊娠間隔が6か月より短い場合、早産リスクが40%増加するとされるため米国産科婦人科学会(ACOG)と米国母体胎児医学会(SMFM)の合同ガイドラインでは「妊娠と妊娠の間隔を6ヶ月は空けるべき(強い推奨;strong recommendation)、18ヶ月以上空けることが望ましい(弱い推奨;weak recommendation)」としている。1)
☑妊娠間隔について
妊娠間隔と不妊治療の成績については明確なデータがありませんが、一方で妊娠間隔は早産をはじめとする産科合併症のリスクに影響するとされます。以下にいくつかの報告を記載します。
・妊娠間隔が6か月より短い場合、早産のリスクが40%増加するのに対し、59ヶ月より長い場合は早産のリスクが20~43%増加する。1)
・帝王切開後の妊娠に関してACOGとSMFMの合同ガイドラインでは「妊娠間隔が18~24ヶ月以下と短い場合は子宮破裂のリスクが上がり、6か月以下で母体の生命予後が悪化し、輸血率が上がることを指導するべき」としている。1)
・厚生労働省では「帝王切開後の妊娠は最短でも1年は空ける」ことを推奨している。1)8)
不妊治療の観点で付け加えると、治療再開する場合には何らかの薬剤を投与し、薬剤は母乳移行しますので、離乳が完了していることが治療開始の条件となります。平成27年の調査では離乳の完了時期は13~15カ月が割合として最多で9)であることを考えると、分娩様式に関わらず不妊治療の再開は分娩後1年が目安になると思います。
☆彡まとめ☆彡
・インターコンセプションケアとは妊娠と妊娠の間に提供されるケア
・ケアの内容はプレコンセプションケアとほぼ同じ
・前回の妊娠で妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産を発症した場合には再発リスクが高いためインターコンセプションケアがより重要
・妊娠間隔と不妊治療の成績については明確なデータはない
・妊娠間隔が6か月より短い場合、早産や帝王切開後の子宮破裂のリスクが上昇する
・厚生労働省では「帝王切開後の妊娠は最短でも1年は空ける」ことを推奨している
・不妊治療再開は、分娩様式に関わらず不妊治療の再開は分娩後1年が目安
以上になります。
当院でも上記の方針に従って第2子、第3子希望の患者様の治療にあたらせていただいております。
文献】
1)荒田尚子ほか プレコンセプションケア メジカルビュー社
2)荒田尚子 04 インターコンセプションケア ペリネイタルケア 44(2): 144-149, 2025.
3)荒田尚子 プレコンセプションケア・インターコンセプションケア 月刊地域医学 39(5): 526-531, 2025.
4)田中幹二ほか インターコンセプションケアから産後長期フォローまで~主に妊娠高血圧症候群, 妊娠糖尿病について~日本周産期・新生児医学会雑誌 60(4): 701-705, 2025.
5)前田隆嗣ほか 早産既往妊婦に対する戦略 前期破水 周産期医学 54(4): 475-478, 2024.
6)川端伊久乃 低用量アスピリン療法 周産期医学 54(10): 1367-1371, 2024.
7)米田哲ほか 乳酸菌と早産予防 小児内科 55(11): 1803-1806, 2023.
8)厚生労働省 性と健康の相談支援に向けた手引書 2022
9)厚生労働省 「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会 授乳・離乳の支援ガイド 2019 年3月
