新年あけましておめでとうございます。(遅ればせながら)

 

年明け皆さまいかがお過ごしでしょうか。

 

当院でも年明け通常の診療体制となり、すこしずつ慌ただしくなっております。

 

 

 

当院では先進医療として反復着床不全に対する検査としてERA®子宮内膜着床能検査)をおこなっており、以前ブログにも書かせていただきました。(→ERA®(子宮内膜着床能検査)とは?【反復着床不全について③】

 

 

ERAに関しては最近効果の有無について色々な報告がされていますが、当院でもERA®に関するデータが集まってきたので、ERAの成績について今回はまとめてみました。

 

 

 

 

ERAとは(おさらい)

 

 

子宮内膜が胚の着床を受け入れる期間は月経周期の中で限られており、この期間のことを「着床ウインドウ(着床の窓)」といいますが、ERA検査は子宮内膜の着床ウインドウを個別化して調べて、着床しやすい胚移植のタイミングを決める検査のことをいいます。(詳細は以前のブログを参照お願いします。)

 


結果は着床の窓がずれていないreceptive(受容期)ずれのあるNon-receptive(非受容期)に分類されます。さらにNon-receptiveはずれのタイプによりPre-receptive(24h以上遅い)、Early-receptive(12-24h遅い)、Late-receptive(12-24h早い)、Post-receptive(24h以上早い)の4つに分類されます。

 

 

ERAが妊娠率を上げるという報告は多数ありますが、一方で効果に対して否定的な報告もあります。それぞれの代表的な報告を挙げてみたいと思います。

 

 

 

 

ERA検査に肯定的な報告

 

 

2020年の発表では、37歳以下の458症例をERA施行群と非施行群(凍結/新鮮胚)に分けて移植を施行したところ、累積妊娠率(93.6 vs 79.7/80.7 %) 、累積生産率( 71.2 vs 55.4/48.9 %)、初回移植妊娠率(72.5 vs 54.3/58.5%)などいずれもERA施行群で有意に好成績であった1)としています。

 

国内の報告では2回以上の反復移植不成功45症例について、移植前後の臨床的妊娠率を比較したところ、妊娠率はERA後の移植で上昇したが、receptiveおよびNon-receptive間では差はなかった(57.1 vs 41.9%)2)としています。

 

 

 

 

ERA検査に否定的な報告

 

 

2022.11月に発表されたシステマティックレビューおよびメタ解析では、8つの研究で2784例のERA施行例と1953例の未施行例で、生産率、着床率、化学的妊娠率、臨床的妊娠率、流産率の何れにおいても有意差は認めなかったため、ERAが妊娠率向上につながるかどうかは不明だ3)と報告しています。

 

 

2022.7月に発表されたコホート研究では、移植が1回不成功だった症例で、自己胚移植3239周期(うち255周期がERA施行)および提供卵子2133周期(うち319周期がERA施行)で比較したところ、生産率、着床率、臨床歴妊娠率はERA非施行群の方が高く、ERAは治療成績を上げず、むしろ低下させる可能性があると報告4)しています。

 

 

 

 

これらの報告を踏まえ、以下当院での結果をご報告致します。

 

 

 

 

当院でのERA結果および胚移植の成績当院培養室解析データより)

 

 

1)ERAの結果について

 

当院で施行したERA施行の32症例(平均年齢:35.6±4.2歳、ERA検査前の移植回数中央値:2.5回)の結果はPre-receptive1例(3.1%)、Early-receptive2例(6.3%%)、receptive17例(53.1%)、Late-receptive2例(6.3%)、Post-receptive10例(31.3%)となっています。(図1

 

 

Igenomix社発表の全国の施設での結果に比べるとreceptiveの割合はほぼ同等ですが、Post-receptiveが当院では高率(当院31.3%、全国4.1%)となっています。(図1

この原因については、使用している黄体ホルモンの種類により移植の推奨時間が短くなる(=着床の窓が早く開く)という報告があるのが1点と、当院の症例数が増えると全国平均に近づく可能性があるという2点あるのではないかと考えています。

 

 

 

今後ERA症例数が増えた際の更なるデータ解析や、その結果によっては当院の移植スケジュールの再検討を考えています。

 

 

 

2)ERA後の胚移植成績について

 

 

ERA前後の移植周期数別妊娠率

 

ERA前後での臨床的妊娠率を移植周期数で検討したところ、ERA前が3.3%(妊娠数/移植周期数=3/91)、ERA後が33.3%(妊娠数/移植周期数=19/57)となっており、ERA後の移植で妊娠率が上昇しています。(図2

 

ただし妊娠率が上昇しているのは確かですが、反復着床不全でERAを施行する例がほとんどですので、比較対象であるERA前の移植あたりの妊娠率が低いのは当然であり、その点は割引いて考える必要があると思います。

 

※2023.1月時点でERA後移植施行していない例も含まれています。

 

 

 

 

 

ERA後2回目移植までの妊娠率 

 

ERA直後あるいは2回目までの移植での症例数別妊娠率については、ERA直後が28.5%(症例数/妊娠数=28/ 8)、ERA2回目までで(1回目と2回目の累積) 60.7% 28/17)となっており、移植2回目までを含めると約6割で臨床的妊娠が成立しています。(図3

 

 

さらにERAの結果別に妊娠率を解析すると、直後周期についてはreceptiveで1.4%(14/3)、Non-receptiveで35.7%(14/5)、また2回目まででreceptiveで57.1%(14/8)、Non-receptiveで 64.3%(14/9)となっており、Non-receptive症例の方が妊娠率が高い傾向があり、ERAによる移植時間の補正で効果が出ていることが分かります。

 

 

 

 

妊娠例におけるreceptive/Non-receptiveの割合

 

移植3回目までの妊娠例をreceptive/Non-receptiveの割合別に解析したデータでは(図4)、Non-receptiveの割合が、直後周期で62.5%(妊娠数/Non-receptive数=8/5)、2回目周期で50%(10/5)、3回目周期で0%(2/0)となっており、妊娠例のうちNon-receptive症例が移植初回、2回目で効果が出ている割合が高く、これもERAの結果で補正した効果が出ている考えられます。

 


 

 

 

先に書かせていただいたように、ERAの効果については様々な報告がありますが、現在までの当院のデータではERA後の移植で妊娠率上昇を認めているため、特に複数回移植をして妊娠成立しないような方にはERAをお勧めするようにしています。

 

 

今後は更にデータを蓄積して再評価をおこなっていく予定です。

 

 

 

☆彡☆彡まとめ☆彡☆彡

 

・ERAにより妊娠率が上昇するかどうかは、賛否何れの報告もある。

 

 

・当院でのデータではERA後の移植で妊娠率が向上しており、ERA後2回目までの移植でおよそ6割に臨床的妊娠が成立している。

 

 

・当院ではERAの結果で着床の窓がずれている(Non-receptive)場合、ERAの効果が出やすい傾向がある。

 

 

・今後データを集めて再評価はおこなっていく。

 

 

【文献】

1)Simon C et al.A 5-year multicentre randomized controlled trial comparing personalized,frozen and fresh blastocyst transfer in IVF. Reprod Biomed Online.2020;41:402-15.

 

2)赤松純子他.反復着床不成功例に対するEndometrial Receptivity Analysis (ERA) の有用性について 日本受精着床学会雑誌 38(1): 70-75, 2021.

 

3)Arian SE et al. Endometrial Receptivity Array Before Frozen Embryo Transfer Cycles: A Systematic Review and Meta-analysis. Fertil Steril. 2022 Nov 19:S0015-0282(22)02039-8. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.11.012. 

 

4) Cozzolino M et al.Use of the endometrial receptivity array to guide personalized embryo transfer after a failed transfer attempt was associated with a lower cumulative and per transfer live birth rate during donor and autologous cycles. Fertil Steril. 2022 Oct;118(4):724-736. doi:10.1016/j.fertnstert.2022.07.007. Epub 2022 Sep 6.