新年あけましておめでとうございます

 

 

 

昨年最後のブログ記事(→子宮筋腫と妊娠の関係は【○○と妊娠シリーズ⑦】)で公約させていただいたように、今年は更新頻度を上げることを目標に頑張りたいますので、お付き合いいただけたらありがたいです!

 

 

 

 

 

さて今年最初の内容ですが、今までも2回ほど書かせていただいた反復着床不全に関連する「ERA®(子宮内膜着床能検査)」についてまとめてみたいと思います。

 

反復着床不全に関する過去の記事→ 反復着床不全とは?【子宮内膜スクラッチについて】、 慢性子宮内膜炎とは?【反復着床不全について②】

 

 

 

 

 

 

☑ 反復着床不全とは?

 

 

おさらいになりますが、一般的には体外受精において良好な受精卵(胚)を複数回移植しても妊娠が成立しない場合反復着床不全とされます。

 

 

 

具体的な反復着床不全の定義はいくつかありますが、代表的な定義は「1つあるいは2つの良好胚を3周期以上胚移植しているのにも関わらず妊娠成立しない状態、または卵子提供患者で2回以上の胚移植で失敗している状態」 1)です。

 

 

 

この原因として

①子宮側の問題 ②胚側の問題 ③胚に対する免疫寛容の問題(胚に対する拒絶反応が起こってしまうなどがある2)ということも以前に書かせていただきました。

 

 

 

①の子宮側の問題の一つが慢性子宮内膜炎であり、当院でも反復着床不全例に対しては子宮内膜組織検査(CD138陽性子宮内膜炎検査)および子宮鏡検査を用い慢性子宮内膜炎の有無を確認しています。

 

 

 

 

その他、反復着床不全を起こす①と②に関連する問題として、着床ウインドウのずれという問題があるとされます。この着床ウインドウのずれとは一体どういったものでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

着床ウインドウのずれとは?

 

 

 

 

子宮内膜が胚の着床を受け入れる期間は月経周期の中で限られておりこの期間のことを着床ウインドウ着床の窓)」といいます。この「ウインドウ」が開いている期間に胚が移植されると着床が起こりやすく、逆に開いていない期間に移植しても妊娠は成立せずこのようなケースのことを「着床ウインドウがずれている」といいます。

 

 

 

 

自然排卵周期では着床ウインドウはは排卵6日目から4~5日続くといわれていますが3)4)、ウインドウが12時間程度と非常に狭い例がある4)など、子宮内膜の着床ウインドウの長さや時期には厳密に調べると個人差があるといわれています。

 

 

 

例えば

 

・原因不明の反復着床不全の症例では約1/4着床ウインドウのずれがあり、個別化した胚移植により着床率を改善することができた5)

6)7)

 

といった報告があります。

 

 

 

 

 

 

ERA®(子宮内膜着床能検査)とは?

 

 

 

ERA®(子宮内膜着床能検査、子宮内膜受容能検査ともいわれます)とは、子宮内膜の着床ウインドウを個別化して調べて、着床しやすい移植のタイミングを決める検査のことです。

 

 

 

その原理は、着床ウインドウは黄体ホルモン(プロゲステロン)が上昇して開くため、その上昇から一定期間経過した後に子宮内膜の着床に関連する238個の遺伝子発現を解析し(マイクロアレイ)4)、その結果から黄体ホルモン上昇から着床に適したタイミングがどの期間に起こっているかを判定するというものです。

 

 

 

 

 

 

 

ERA®の検査方法は?

 

 

 

ERA®の実際の方法ホルモン補充周期、あるいは自然周期で体内の黄体ホルモン(プロゲステロン)が上昇した後に子宮内膜を採取するという流れでになります。

 

 

 

検査方法については非常によくまとまっている文献7)(森本義晴先生他 ERA®(子宮内膜着床能検査)  高齢不妊診療ハンドブック   医学書院)がありますので、こちらから引用させていただきます。

 

 

 

ホルモン補充周期の場合

・エストロゲン(エストラーナやプレマリンなど)の投与を開始する。

 

・子宮内膜が7mm以上になったことを確認後、プロゲステロン(ルテウム、ワンクリノン、ルティナス、ウトロゲスタンなど)の投与を開始する。

 

・5日間(約120時間)プロゲステロン投与を行った後、プロゲステロン投与5日後に子宮内膜を採取する。(例:水曜日にプロゲステロン投与開始→翌週の月曜日に子宮内膜採取)

 

 

 

 

 

自然周期の場合

・月経11日目頃、卵胞径を測定し15mm以上であれば尿中LH測定を開始する。

 

・尿中LH陽性(LHサージ)となった日、あるいはHCG製剤を投与した日から7日後に子宮内膜を採取する。(例:LH陽性が月曜日→翌週の月曜日に子宮内膜採取)

 

 

 

 

ここで書かれている子宮内膜採取とは子宮の中に器具を入れて子宮内膜の細胞を取ってくる方法のことです。技術的には子宮体癌の検査をおこなう方法とほぼ同一ですが、陰圧をかけて細胞を吸引する器具(Pipelle®)が用いられることが多いようです。

 

 

 

子宮の奥(体部)に器具を挿入する必要があるため、採取の際には痛みがともなう可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

ERA®の検査結果は?

 

 

 

検体は国内の会社を通じてスペインに国際輸送して検査されています。(将来的には日本でも検査可能になる見込みがある4)とのことです。)

 

 

 

検査結果は検体郵送から2-3週間で報告されます。

 

 

この結果で個人の着床ウインドウを知ることが出来て、個別化した胚移植が可能となるという理論です。

 

 

 

 

実際の結果は

1)①Receptive(受容期)、②Pre-Receptive(受容期前)か③Non Receptive(非受容期)かに分類され、

 

 

2)それぞれの分類は、

 

Receptive(受容期)の中では

 

・Receptive(受容期):ERA検査に利用した方法と同じ方法で胚移植が推奨

 

・Early Receptive(受容期ではあるが早期):ERA検査で子宮内膜採取した12時間後に胚移植を行うことを推奨

 

・Late Receptive(受容期ではあるが後期):ERA検査で子宮内膜採取した12時間前に胚移植を行うことを推奨

 

 

 

 

Pre-Receptive(受容期前):ERA検査で子宮内膜採取した1日後に胚移植を行うことを推奨、再検査は不要

 

 

 

 

Non Receptive(非受容期)の中では

 

・Post-Receptive(受容期後、非受容期):ERA検査で子宮内膜採取した1日前に再検査を行うことを推奨

 

・Pre-Receptive(受容期前、非受容期):ERA検査で子宮内膜採取した2日後に再検査を行うことを推奨

 

 

とさらに細かく分類されます。

 

 

書いていても混乱するくらいなので、御一読いただいてもすぐ把握するのは難しいと思いますが、端的に書くと

 

 

 

①と②は移植のスケジュールを再検討して移植可能、③は再検査が必要」ということになります。(下図参照↓

 

 

 

 

 

 

ERA®に基づく胚移植の効果は?

 

 

 

ERA®自体が比較的新しい検査ですので、ERA®に基づく胚移植の効果については今後報告が増えていくことが予想されます。

 

 

 

現在までに発表されている報告としては、

 

 

 

・胚移植を2~22回行ったことのある12症例でのERA®の結果Receptive(受容期)が8例(66.6%)Pre-Receptive(受容期前)が3例(25%)Post-Receptive(受容期後、非受容期)が1例(8.3%)であった4)

 

 

 

 

ERA®を行った凍結融解胚移植88症例を後方視的に分析したところ、ERA®の結果で胚移植を個別化しておこなった場合には着床率(73.7 vs. 54.2%)および 臨床的妊娠率 (63.2 vs. 41.7%)がいずれも高率であった8)。

(※注 この報告では88例中49例(55.7%)がReceptive(受容期)、39例 (44.3%)がNon Receptive(非受容期)であり、その74.4%がPre-Receptive(受容期前)、10.3%がPost-Receptive(受容期後)であったとしています。)

 

 

 

 

 

反復着床不全50症例ERA®を行ったところ、12例 (24%)が Non Receptive(非受容期)であった。Receptive(受容期)例とNon Receptive(非受容期)例についてERA®の結果で個別化した胚移植を行ったところ、Non Receptive(非受容期)例の方が臨床的妊娠率が高い傾向であった。 (50% vs. 35.3%)

 

 

 

などといったものがあります。

 

 

 

 

 

 

ERA®のメリット・デメリットは?(私見)

 

 

あくまで自分個人の意見ですので、以下は参考程度としていただけたらと思います。

 

 

<メリット>

着床ウインドウについて検査出来る唯一の方法である着床ウインドウのずれに着目した画期的な検査で、ERA®のみが現在この点について検査出来る方法です。

 

 

 

<デメリット>(繰り返しになりますが私見です)

 

・子宮内膜採取した周期と同様のタイミングで常に着床ウインドウが開いているのか

 

①プロゲステロンの種類によって内膜遺伝子発現に変化はない、②5年以上経過しても、第2子であっても同様のプロゲステロン投与期間ならERA結果は変わらない4)、とされていますが、実際それが正しいのかどうか個人的には興味があります。

 

 

・費用が高額である。

 

 

・内膜採取にともなう痛みがある。

 

 

 

以上が自分が考えるメリット・デメリットです。

 

 

 

 

 

☆彡まとめ☆彡

 

 

 

・子宮内膜が胚の着床を受け入れる期間は限られており、この期間のことを「着床ウインドウ」という

 

 

・着床ウインドウが開いていない期間に胚移植が行われても妊娠は成立せず、これを「着床ウインドウのずれ」という

 

 

・ERA®は個人の着床ウインドウを調べることで、着床ウインドウのずれがないかどうか検査できる方法である

 

 

ERA®の結果で個別化した胚移植を行い妊娠率が上昇したという報告がある

 

 

ERA®黄体ホルモン(プロゲステロン)が上昇した後に子宮内膜を採取するという方法で行われる

 

 

・反復着床不全の方はERA®を検討する価値があり、メリット・デメリットもある。

 

 

以上となります。

 

 

 

 

 

当院でも反復着床不全の患者様に個々の経過やご希望に沿ってERA®検査をはじめとする反復着床不全の検査を勧めさせていただいております。(→当院でのERA®検査について

 

 

 

 

文献】

1) 大石元 子宮内膜スクラッチによる着床促進. 産科と婦人科 85(3): 299-303, 2018

2)竹田省 他 . 不妊症・不育症治療. メジカルビュー社 2017 p.357-359.

3)Bergh PA:The impact of embryonic developnlent and endometrial maturity on the timing of implantation、 Fertil Steril
1992;58:537-542.

4)久須美真紀他 子宮内膜胚受容能診断 産科と婦人科 85(3): 294-298, 2018.

5)Ruiz-Alonso M et al. The endometrial receptivity array for diagnosis and personalized embryo transfer as a treatment for patients with repeated implantation failure. Fertil Steril. 2013 Sep;100(3):818-24

6)Blesa D et al. Clinical management of endometrial receptivity. Semin Reprod Med. 2014 Sep;32(5):410-3.

7)森本義晴他 ERA®(子宮内膜着床能検査)  高齢不妊診療ハンドブック   医学書院 2019 p.103-107.

8)Tan J et al. The role of the endometrial receptivity array (ERA) in patients who have failed euploid embryo transfers. J Assist Reprod Genet. 2018 Apr;35(4):683-692.