不妊症の原因のひとつ着床障害があります。卵管で受精した受精卵は分割して胚盤胞となり子宮内に到達して、着床するわけですがこの着床が何らかの理由で障害される場合を着床障害と言います。

 

 

 

例えば以前ビタミンD不足が着床障害の原因となる(→ビタミンDは重要です!)と書きました。

これ以外にも粘膜下筋腫(子宮内膜に突出するタイプの筋腫)、子宮内膜ポリープ中隔子宮(子宮奇形の一種)など子宮側に何らかの原因があり、着床障害を引き起こす場合もあります1)。

 

 

 

しかしこれらの原因がはっきりせず、原因不明であるものの着床が起こらない場合があります。

 

 

 

 

まず前提として、不妊の原因は様々なので原因がその方の不妊原因が着床障害かどうかを判断する必要があります。

 

 

 

着床障害と最も判断し易いのは体外受精の場合です。

 

 

 

体外受精の場合受精卵を子宮内に移植しますので、良好な受精卵(胚)を移植しても妊娠が成立しない場合着床障害が疑われるということになるからです。このため着床障害については体外受精についての報告が多く見られます。

 

 

 

代表的な例は体外受精における反復着床不全 (reccurent implantation failure) という概念です。この概念の定義としては 「1つあるいは2つの良好胚を3周期以上胚移植しているのにも関わらず妊娠成立しない状態、または卵子提供患者で2回以上の胚移植で失敗している状態」 2)などとされます。(定義は何種類かあります。)

 

 

 

 

そこである患者さんが原因不明の反復着床不全と診断された場合、その治療法の一つに「子宮内膜スクラッチ」という方法があります。

 

 

 

以下この「子宮内膜スクラッチ」という方法について述べさせていただきます

 

 

(子宮内膜スクラッチについては、大変良くまとまった文献( 2) 大石元 先生. 子宮内膜スクラッチによる着床促進. 産科と婦人科 85(3): 299-303, 2018)がありますので、この文献を中心に引用させていただきます。)

 

 

 

 

 

☑ 子宮内膜スクラッチとは?

 

 

「子宮内膜スクラッチ」とは「原因不明の反復着床不全に対して、前周期に子宮内膜に局所的損傷(器械的な刺激)を与えることで着床率を改善ささせる方法」3) とされます。

 

 

もう少し分かりやすく説明すると、子宮内膜を生検用のブラシ(内膜細胞診などで用いられるもの)や子宮鏡意図的にこすることで、子宮内膜に局所的損傷を加える方法2)です。

 

子宮内膜の生検は子宮体がん検査などで一般的な婦人科外来で用いられる方法ですが、これを着床障害の治療に応用しようという考え方です。逆に言えば手技としてはそれほど特殊なものではないとも言えます。

 

 

 

 

 

 

☑子宮内膜スクラッチの効果は?

 

子宮内膜スクラッチがどのような患者さんにどの程度効果があるかは完全に定まってはいませんが、効果があるという報告では

 

 

 

 

① 「子宮内膜スクラッチは、胚移植において生産率、臨床的妊娠率を上げるが、流産率には影響しなかった」 4)(レビュー)

 

 

・移植前周期の月経7日目から移植周期の月経7日目までの間に子宮内膜スクラッチをおこなった13の研究を検討した。

 

・胚移植あたりの生産率はスクラッチを施行しない場合の1.42倍(オッズ比)、臨床的妊娠率1.21倍上昇するものの流産率は差がなかった(オッズ比0.99倍)

 

 

 

 

 

② 「採卵前周期において子宮内膜生検法、子宮鏡何れの方法でスラッチをおこなっても、臨床的妊娠率、生産率が上昇した」 3)(レビュー)

 

 

7つの研究にいて子宮内膜スクラッチをおこなった2062名反復着床不全患者さんを調査対象とした。

 

・採卵前周期にスクラッチをおこなった群とおこなわなかった群で臨床的妊娠率、生産率、着床率などについて比較した。

 

臨床的妊娠率は、スクラッチを子宮内膜生検法でおこなった場合2.32倍(オッズ比)、子宮鏡でおこなった場合1.51倍に上昇した。生産率生検法2.11倍子宮鏡2.67倍上昇した。

 

 

 

 

 

③ 「顕微授精由来胚での治療で、子宮内膜スクラッチは着床率、臨床的妊娠率、継続妊娠率を上昇させた」 5)

 

 

・顕微授精(ICSI)由来の胚で、4回以上の新鮮胚移植または12個以上の新鮮胚移植で臨床的妊娠が成立しなかった120症例を対象に、

スクラッチによる臨床的妊娠率、継続妊娠率等について検討した。

 

40歳以上、BMI> 29 kg/m2卵巣低反応(月経3日目のFSH値>12mIU/Lまたは、採卵周期でHCG投与時の卵胞数が4個未満)

の症例は調査対象から除外した。s

 

スクラッチの方法は(少し具体的すぎる記載ではありますが、、)

 

 ・生検用カテーテル(Pipelle®)を子宮底部(子宮の一番奥)まで挿入するし、子宮内腔の子宮口より奥の位置でカテーテルを2~3cm動かしスクラッチする。全周囲スクラッチするため360回転も加える。

 ・この操作を最低4回おこなう。

 ・スクラッチするタイミングは自然周期の場合月経周期21および26日目の2回ロング法の場合卵胞ホルモンと黄体ホルモンを補充して14日目と19日目の2回でおこなった。

 

 

・スクラッチ群と非スクラッチ群で、着床率11% vs 4%)、臨床的妊娠率30% vs 12%)、継続率妊娠率22% vs 8%)のいずれもスクラッチ群が高率であった。

 

 

 

 

以上の3つは、体外受精周期でのスクラッチの効果についての報告ですが、タイミング療法での治療効果についても報告があります。

 

 

 

 

 

④「クエン酸クロミフェンでの排卵誘発によるタイミング療法で、子宮内膜スクラッチが治療成績を向上させた」6)

 

 

クエン酸クロミフェン(=クロミッド®)による排卵誘発をおこなった110症例(年齢20~35歳)をスクラッチ群55例、非スクラッチ群55例に分けて比較した。

 

・スクラッチ群では排卵誘発前周期の黄体期(月経周期15~24日目)にカテーテルを用いてスクラッチをおこなった。

 

・スクラッチ群は臨床歴妊娠率、継続妊娠率、生産率ともに有意に高かった37% vs 13%、33% vs 9%、37 % vs 11%)。 自然流産率および多胎妊娠率には有意差がなかった(11% vs 29%、11% vs 14%)。

 

・両群とも処置や排卵誘発に関連する合併症は認めなかった。

 

 

 

 

 

 

☑ 子宮内膜スクラッチがなぜ着床率を上げるのか?

 

 

子宮内膜スクラッチが着床率を上昇させる要因として、例えば以下のような報告があります。

 

 

・子宮内膜の損傷治癒過程で出る物質が着床を促進する2) : サイトカインと言われる物質(LIF、IL-11など)が、スクラッチにより子宮内より分泌されるため着床し易くするという説があります。

 

 

 

・子宮内膜脱落膜化を促進し、子宮内膜幹細胞を活性化する 1) : 排卵周期にあわせて子宮内膜は脱落膜化という変化をおこしますが、スクラッチがこの変化を促進するという報告や、子宮内膜のおおもとである幹細胞という細胞を活性化させるといった説があります。

 

 

 

 

 

 

一方でスクラッチに対しては否定的な意見もあります。

 

 

・スクラッチには痛みや、迷走神経反射、性器出血などの欠点がある。2) : 迷走神経反射とは痛みなどのストレスで一時的に血圧が低下し、脳への血流が低下することで気分不快などの症状がでることです。それほど多くはないものの実際に外来で、内膜生検の際にこの症状が起こる患者さんはいらっしゃいます。

 

 

 

・スラッチ効果があるというデータは現時点では不十分である。7) : この論文の筆者はスクラッチに関する論文を検討して、その効果について明確なエビデンスがないとしています。 

 

 

ただこの論文が発表されたのが2014年で、その後先ほど紹介した2015年に発表されたレビュー( 4))では着床率等向上しているという報告が出ているため、今後効果あるという報告が増えるかどうかでスクラッチの評価がより定まると思います。一方で評価が定まることを待つという事はそれだけ患者さんに時間的ロスを生むことにもなりますので、必要と思われる方には勧めるべきだうと個人的には考えています。

 

 

 

 

 

 

☆彡まとめ☆彡

 

 

不妊原因の一つとして着床障害がある。

 

 

・体外受精において良好胚を複数回移植しても妊娠しない状態を「反復着床不全」という。

 

 

・原因不明の反復着床不全の治療方法の一つに「子宮内膜スクラッチ」という方法がある。

 

 

・子宮内膜スクラッチの方法は内膜生検用のブラシや、子宮鏡で意図的に子宮内膜をこする方法である。

 

 

・スクラッチは体外受精、一般不妊とも妊娠率を高めるという報告がある。

 

 

・一方で痛みを伴うといった問題や、効果がないのではという報告もある。

 

 

 

 

 

 

 

当院でも子宮内膜スクラッチは、安易におこなわないよう注意しながらも、お勧めされる状態と判断した場合には患者さんに提案し、同意を得た場合に内膜ブラシ、あるいは子宮鏡を使用したスクラッチをおこない治療成績の向上につとめています。

 

 

 

 

 

 

 

文献】

1)竹田省 他 . 不妊症・不育症治療. メジカルビュー社 2017-03-31

2) 大石元 子宮内膜スクラッチによる着床促進. 産科と婦人科 85(3): 299-303, 2018

3) Potdar N et al.  Endometrial injury to overcome recurrent embryo implantation failure: a systematic review and meta-analysis.Reprod Biomed Online. 2012 Dec;25(6):561-71.

4) Nastri CO et al. Endometrial injury in women undergoing assisted reproductive techniques. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Mar 22;(3):CD009517. 

5) Raziel A et al. Favorable influence of local injury to the endometrium in intracytoplasmic sperm injection patients with high-order implantation failure. Fertil Steril. 2007 Jan;87(1):198-201.

6) Helmy MEE et al. A randomized trial of local endometrial injury during ovulation induction cycles.Int J Gynaecol Obstet. 2017 Jul;138(1):47-52. 

7) Simón C et al. Scratching beneath 'The Scratching Case': systematic reviews and meta-analyses, the back door for evidence-based medicine. Hum Reprod. 2014 Aug;29(8):1618-21.