前回ゴナドトロピン製剤の、一般不妊治療(タイミング療法や人工授精)における使用方法を書かせていただきました。

 

今回は体外受精における使用方法についてになります。

 

 

体外受精における卵巣刺激方法は、患者さんの状態(ご年齢、FSH基礎値AMH、過去の治療結果など)や、治療施設の方針などによって様々な方法が選択されます。

 

 

体外受精において、1個の卵胞(卵子)に頼ると、採卵、移植、妊娠成立までの成功確率が低いと考えるのが一般的です。(堤 治他 産婦人科の実際 61/11 2012年10月臨時増刊号 産婦人科の薬剤使用プラクティス:病態別処方―婦人科編 1706-13.)したがってある程度複数個の卵子を獲得する目的で、卵巣刺激を行います。

 

 

 

体外受精における卵巣刺激方法は大きく分類すると

 

1.クロミフェン+ゴナドトロピン法(またはクロミフェン単独)

2.アンタゴニスト法

3.アゴニスト法

 

の3つに分類されます。突然また耳慣れない単語を羅列してしまいましたが、概要を書きたいと思います。

 

1.クロミフェン+ゴナドトロピン法(図1)

以前経口剤の排卵誘発剤として、クエン酸クロミフェン(クロミッド®)について書きましたが、まず月経3日目からこのクロミフェンを内服し、その後月経5~8日目頃よりhMG製剤やrFSH製剤を投与する方法です。( 1)日本生殖医学会(編):調節卵巣刺激法.生殖医療の必修知識. 日本生殖医学会, 2014 :273-77) 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などの刺激に伴う副作用が起こりにくく、かつ複数の卵子獲得が期待できることや、rFSHを使った在宅自己注射での刺激が可能である点などから、当院ではこの方法を治療の中心に考えております。

 

 

2.アンタゴニスト法(図2)

ゴナドトロピン製剤(hMGやrFSH製剤の総称です。)を使って卵巣を刺激すると、卵胞が発育して卵胞ホルモン(エストロゲン)が上昇します。エストロゲンの上昇が刺激となって、脳の下垂体という部分から黄体化ホルモン(LH)が急激に上昇し(LHサージといいます。)、排卵が起こります。体外受精の採卵は排卵前に行う必要がありますので、このLHサージを抑える必要があります。

これを抑える方法には

① GnRHアンタゴニスト法=セトロレリクス(セトロタイド®0.25mg,3mg)、ガニレリクス(ガニレスト®0.25mg) を使用する方法

② GnRHアゴニスト法=酢酸ブセレリン点鼻薬(スプレキュア®、ブセレキュア®など)を使用する方法

の2種類があり、

①のGnRHアンタゴニストを使用した刺激方法を「アンタゴニスト法」や「GnRHアンタゴニスト法」といいます。

 

方法は、月経3~4日目からゴナドトロピン製剤を投与し、投与6日目(fixed protocol)または卵胞径が14~16mmに達した時点(flexible protocol)からアンタゴニストを使用するものです。1)  flexible protocolの方が、ゴナドトロピンやアンタゴニスト製剤の使用量を抑えることが出来ますが、妊娠率には差がないと報告されています。( AI-Inany et al. Optimizing GnRH antagonist administration: meta-analysis of fixed versus flexible protocol. Reprod Biomed Online. 2005 May;10(5):567-70.)

 

 

 

3.アゴニスト法(図3)

②のGnRHアゴニストを使用した刺激方法を「アゴニスト法」や「GnRHアゴニスト法」といいます。

方法は刺激前の高温相から(ロング法)または月経開始とともに(ショート法)アゴニストである点鼻薬を開始し、月経周期3日目よりゴナドトロピン製剤を投与する方法です。

 

 

☆彡まとめ☆彡

それぞれの刺激方法の特徴を図4にまとめました。

ひと言で卵巣刺激といっても、このようにいくつかの種類があり患者さんの状態に合わせた治療法の選択が最も重要になります。