4月から保険診療での体外受精がはじまりはや5ヶ月となりました。

 

新しい保険のシステムに自分自身も少しづつ慣れてきたところです。

 

 

 

この保険のシステムの一つの特徴は、保険適応治療保険診療と組み合わせて実施可能な自費診療である先進医療の2つがある点です。

 

 

現在不妊治療ではいくつかの先進医療が認められています。(→厚労省HPより;不妊治療における先進医療の状況

 

 

先進医療とは今後保険適応とするか審議している治療法で、保険適応治療に準じる重要な治療法といえます。

 

 

 

今回この先進医療の中で、成熟精子を選別して顕微授精をおこなう「PICSI」という方法について書かせていただきます。

 

 

 

 

PICSIとは

 

 

PICSI(physiological, hyaluronan-selected intracytoplasmic sperm injection)は成熟精子がヒアルロン酸に結合できるという性質を利用して、成熟した精子を選んで顕微授精(ICSI)する方法1)です。

 

 

成熟した精子を選ぶための製品はいくつかありますが(SpermSlow™、HBA® assay、PICSI® Dish)1)、例えば当院でも使用しているSpermSlow™(下図)の場合、この培養液にヒアルロン酸が含まれているため、精子が培養液を通過する際に成熟した精子はここに吸着するので、この中からICSIする精子を選別するという使い方をします。

 

 

 

 

成熟した精子を使うメリットは?

 

 

成熟した精子染色体異数性(=染色体の数に異常がある)のある割合が少なく精子DNAの損傷(SDF)の割合が低い1)(→SDFについて)ことが分かっています。SDFが高い精子がICSIされた場合、妊娠率の低下や流産率が上昇し2)、また未熟な精子でのICSIは胚発育の停止や流産の原因となる場合があります1)。

 

これらの点で成熟した精子でICSIすることは重要です。

 

 

 

 

PICSIの効果は?

 

 

「PICSI=成熟した精子使った顕微授精」となりますが、この効果についてどのような報告があるでしょうか。

 

以下にあげた論文ではPICSIにより受精率・良好胚獲得率・妊娠率が上昇し、流産率が低下したと報告しています。

 

 

 

・PICSI(73例)と通常のICSI(82例)で比較したところ、受精率は69.9%(51/73)vs 61.0%(50/82)とPICSIで高い傾向がみられ、Day3での良好胚率は62.7%(32/51)vs 48.0%(24/50)とやはりPICSIで高い傾向を認めた。3)

 

 

・男性因子(運動精子濃度1500万/ml以下)に絞った場合、SpermSlow™使用のPICSI群と通常ICSI群でら,胚盤胞到達率(68.8%vs 52.1%),良好胚盤胞到達率(30.2% vs 25.5%)、妊娠率(69.3% vs 48.6%)、流産率(8.3% vs 29.2 %)と,胚盤胞到達率,妊娠率,流産率に有意な差を認めた。4)

 

 

・PICSI® Dishを用いてPICSIをおこなった 16 施設でランダム比較試験を行った(通常ICSI:1,371 、PICSI:1,381 症例)ところ出生率は 通常ICSI 群 25.2%、PICSI 群 27.4%で有意差はなかったが、流産率は 通常ICSI 群 7%,PICSI 群 4.3%で PICSI 群が有意に低かった5)1)

 

 

 

これらの報告に加えて説明が必要な点が2点あります。

 

1点はPICSIは患者様の身体に負担をかけずに妊娠率の上昇や流産率の低下が期待できるという技術であるという点、2点目はこの技術が先進医療として4月以降保険診療と組み合わせて実施可能という点です。(当院でも先進医療の認可が下りており実施可能です。)

 

 

 

 

 

☆彡まとめ☆彡

 

 

PICSI=成熟した精子使った顕微授精(ICSI)

 

・成熟精子がヒアルロン酸に結合できるという性質を利用しておこなうICSIであり、SpermSlow™などPICSI用のいくつか

 の製品がある。

 

・PICSIにより受精率・良好胚獲得率・妊娠率が上昇し、流産率が低下したという報告がある。

 

先進医療として保険診療と組み合わせて実施可能

 

 

となります。

 

 

 

当院でも先進医療の許可をいただいており顕微授精をおこなわれる患者様にはスパームセパレーター(←スパームセパレーターについてはまた別の機会にブログで書かせていただきます。)を併用したPICSIをお勧めしております。

 

 

 

 

 

文献】

1)清水 勇聡 他 ヒアルロン酸結合能による精子選別 PICSI の有用性 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系 臨床婦人科産科 76巻4号 (2022年4月)

2)Borini A etal:Sperm DNA fragmentation: paternal effect on early post-implantation embryo development in ART.Hum Reprod.21, 2876-2881.

3)相澤嘉乃 他 ヒアルロン酸結合精子を用いたphysiological-ICSIに関する検討 Journal of Mammalian Ova Research 27(2): S18-S18, 2010.

4)宮田広敏 他 ヒアルロン酸結合能を利用した精子選択はICSI後の成績を改善できるか? Journal of Mammalian Ova Research 39(1): S27-S27, 2022.

5)Miller D, et al : Physiological, hyaluronan-selected intracytoplasmic sperm injection for infertility treatment
(HABSelect): a parallel, two-group, randomised trial. Lancet 393 : 416-422, 2019