stay home” をしているとメディアから飛び込んでくるニュースは大半が新型コロナウイルス感染に関するもので、みなさんもあまりこれ以上触れたくない話題かと思います。

 

 

 

 

以前2月4日にコロナウイルス感染症について書かせていただいたブログでは(→新型コロナウイルスと感染症について)、「2月3日時点国内16例の感染報告」と記載されており、その時点では自分自身現在までの感染拡大を全く予測していませんでした。(5月12日時点でPCR検査陽性者15,874例:厚生労働省発表)

 

 

 

 

以前ブログを書かせていただいた時と状況は大きく変わっています。

そのためあまり耳障りの良くない話題ですが、昨今の状況を考えると産婦人科医からの情報発信はやはり必要と思います。

 

 

 

 

妊娠を考えている方あるいは妊娠されている方はコロナウイルス感染症とどう向き合っていくべきなのでしょうか。感染に注意が必要なのは述べるまでもありませんが、実際の妊娠に対する影響はどうなのでしょうか?

 

 

 

 

こういった観点から再度新型コロナウイルス感染症と妊娠の関係について、自分なりにまとめさせていただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

感染により注意しなくてはいけないケースは?

 

 

 

 

新型コロナウイルス感染については、感染し易いまた死亡率が高い方の背景が徐々に判明してきています。

 

 

ニュースなどで目にされたこともある情報かと思いますが、妊娠に対する影響を検討する前に、まず一般的にどのような背景の方がより感染に注意すべきかまとめてみました。

 

 

 

 

 

①男性・・・男性は女性に比べて、感染率・死亡率ともに高いとされています。

 

 

・「ニューヨーク市ではコロナウイルス感染による死亡率が女性に比べて男性は2倍高かった」1)

 

このニューヨークタイムズ紙の記事では10万人あたりの死亡者数は女性23人に対して、男性が43人で約2倍高かったとしています。その他感染者数および感染に伴う入院者数も10万人あたり男性712人/女性932人、男性228.7人/女性140.3人といずれも男性が高率としています。

この記事では男性の感染率や死亡率が女性に比べて高い傾向は中国やイタリアでも認められたと書かれています。

 

 

 

 

 

② 肥満・・・肥満の方がコロナ感染のリスクという報告があります。

 

 

・「60歳未満の肥満患者はコロナウイルス感染によって入院する危険因子であった」2)

 

ニューヨーク市において60歳未満の患者で非肥満であるBMI<30と、肥満であるBMI30-34、BMI≧35患者で緊急入院および

ICUに入室する割合を比較したところ、BMI30-34患者で2.0倍および1.8倍、BMI≧35患者で2.2倍3.6倍非肥満患者に比べて高率だったとしています。

 

 

 

 

 

 

③ 高齢(特に60歳以上)・・・年齢別にみると高齢者の方、特に60歳以上で重症化しやすいとされます。

 

 

 

中国の感染症情報システムより抽出したデータ(2020年の2月11日時点)の分析では、44,672人の感染者の年齢別の死亡率0~59歳まで0~1.3%であったのに対して、60~69歳3.6%、70~79歳で8.0%80歳以上14.8%と高齢になるほど死亡率が上昇していると報告されています3)。

 

ちなみにこの報告でも死亡率は男性2.8%に対して、女性1.7%と男性の死亡率が高いとしています3)。

 

 

 

 

 

④その他:基礎疾患がある、喫煙者である・・・こういったことも感染重症化の危険因子とされています。

 

 

 

先ほどお示しした中国の感染症情報システムのデータでは、持病のない方の死亡率0.9%であったのに対して、基礎疾患として心血管系疾患のある方は10.5%糖尿病7.3%高血圧6%など高い死亡率を認めたとしています3)。

 

 

その他喫煙歴があるとコロナウイルス性肺炎の重症化するリスク14倍に上昇する4)といった報告もあります。

 

 

 

 

ここからは自分個人の分析ですが、これら①~④の危険因子を妊娠を考えている女性、あるいは妊婦さんに当てはめると、女性かつ高齢でない(60歳未満)という時点で①と③は確実に当てはまりません。その他②、④に関しては個人によって異なると思いますが、

決して当てはまる割合が高くはないと考えられます。

 

 

 

つまり妊娠を考えている女性、あるいは妊婦さん自体の背景としては、コロナウイルス感染の危険度は高くないというのが自分の私見です。

 

 

 

ただしこれはあくまで危険因子が当てはまりにくいという事であって、妊娠自体がコロナウイルス感染とどう関係してくるかは加味していません

 

 

 

以下にこの点についてまとめてみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

妊娠に対するコロナウイルス感染の影響

 

 

 

 

 

1)妊娠中の感染について


コロナ感染が妊娠にどのような影響を及ぼすか現在各国でデータ収集されている段階で結論は出ていません。

ただ現段階でもいくつかの報告があります。




「9人のコロナウイルス性肺炎妊婦の経過は非妊婦と同様であり、子宮内感染も認めなかった」5)


武漢で9例コロナウイルス感染性肺炎妊婦を調べたところ、全例帝王切開で分娩となったが肺炎が重症化したり死亡した例は認めず、またうち6例を検査したところ羊水、臍帯血、新生児の咽頭および母乳からコロナウイルス(SARS-CoV-2)は検出されなかった(=子宮内感染は認めなかった)と報告されています。






「33例のコロナウイルス感染妊婦のうち3例で子宮内感染を認めた」6)



武漢でコロナウイルス感染妊婦33例中3例子宮内感染を認めた。40週で分娩となった2例の新生児は肺炎となったが重症化せず、31週で分娩となった1例重症肺炎および敗血症となったが徐々に改善したとこの報告では記載されています。





・「42例のコロナウイルス感染妊婦のうち20例に間質性肺炎を認め、7例がICU管理となったが短期間で退室可能だった。」7)


イタリアにおいて約7000分娩例のうち42例でコロナウイルス感染を認め(0.6%)20例(48%)間質性肺炎を発症し、また7例(35%)ICUに入室にて呼吸器管理が必要であったが、一般的なコロナウイルス感染のICU入室期間である10-15日より短期間で退室可能だったとしています。また胎児死亡や新生児死亡は認めなかったとも報告しています。





症例数がまだ少ない段階ですので今後のさらなる報告が待たれるところですが、現時点まででは



妊娠中であってもコロナウイルス感染が重症化するとはいえない

胎児への子宮内感染の可能性はある(報告では0~11%)が、出産後新生児のコロナウイルス感染が必ずしも重症化するとはいえない




という報告が多いようです。
 

 

 

 

 

 

 

2)妊娠を考えている方、不妊治療中の方に対して




コロナウイルス感染は新型感染症であるため、妊娠初期に感染した場合の影響については今後時間の経過とともに徐々に判明してくるというのが現時点で言えることになります。


ただし



現時点では新型コロナウイルス感染によって、胎児の異常、流産、早産、死産のリスクが、高くなるという報告はありません

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について 妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ 日本産婦人科感染症学会 声明抜粋> 



妊娠初期・中期に高率に流早産や胎児奇形を来す可能性は少ない

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第三版) 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本産婦人科感染症学会
抜粋>



と各学会の報告にあるように、現時点で必ずしも妊娠初期の感染が流早産や胎児奇形のリスクであるとはされていません

 

 

当然先に書かせていただいた通り今後の報告には注意すべきなのは言うまでもありません。

 

 

ただこれらの報告と、今後完全にコロナウイルス感染症が根絶される見込みがなく、ある程度コロナウイルと共生していかなけばならない状況が予測される状況を合わせて考えると、妊娠するタイミングを単純に先延ばしにすれば良いとは言えないと個人的に考えています。

 

述べるまでもありませんが、妊娠するタイミングを先延ばしにするということは加齢に伴う妊娠率の低下を引き起こします。特に年齢の高い女性や卵巣機能が低下している女性にとってこの先延ばしの影響は多大です。
 

 

 

 

※5月18日追記

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する日本生殖医学会からの通知(2020年5月18日版)」が日本生殖医学会より発表されました。

概要は各不妊治療施設コロナウイルス感染拡大の対策をおこないながら、地域ごとの感染動向患者さんごとの背景や感染した場合のリスクなどを個別で判断した上で不妊治療を実施するよう求める内容です。

以前4月13日に出た通知は不妊治療続行に慎重な内容でしたので、これと比べると不妊治療について各施設の裁量で行って良いという緩和された内容になっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

3)産婦人科学会の声明

 

 

 

まとめとして妊婦の方向けに産婦人科の2学会が声明を発表していますので、ここでご紹介します。

 

声明はいずれも一般的な感染予防措置をとることを勧めた上で、

 

 

現時点では妊娠中の新型コロナウイルス感染の情報は限られていますが、妊娠中に感染すると妊婦さん自身の症状は(妊婦でない方に比して)重くなるということはなさそうです。赤ちゃんへの感染を疑う報告はわずかで、明らかなリスクは報告されていません。(判明次第、情報を追加します)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について(7 報)  日本産婦人科医会  2020年4月8日発表 抜粋>

 

 

 

 

妊婦の皆様へ

 ・妊娠中に新型コロナウイルス感染症にかかる率は一般の方と同じです。
 (手洗いや人との距離をとる(3 密を防ぐ)などの注意も同じです。日本より多数の感染者を出している国々で、妊婦が特別にこのウイルスにかかりやすい、という報告はありません。)


・幸い、妊娠中の重症化率も一般の方と同じかむしろ低い値が報告されています。(集中治療室入室率なども、人口当たりになおすとむしろ低めの報告がなされています。 )

妊娠中の皆さまへ 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会   2020年4月7日発表 抜粋>

 

 

 

と声明を発表しています。

 

 

 

学会発表は妊婦さんの感染リスクは妊娠されていない方と同等なので、通常の感染予防策をとっていただくことは必要ですが、妊娠されているからといって過度に不安を持つ必要はないという趣旨になっています。

 

 

自分もこの学会の趣旨に賛成しています。標準的な予防策をとるのは当然ですが、過度に妊娠をリスクとしてとらえるような風潮(例えば妊婦さんは免疫力が低下してあらゆる感染症にかかりやすいといった不正確な情報など)は患者さんの不安をあおることになり厳に慎むべきです。

 

 

 

 

 

なおブログ読者の方であれば既に承知されていると思いますが、家庭用の空気清浄機や免疫力増強をうたうサプリメントや特定の食品、民間療法、デトックス、子宮温熱、ホメオパシーやアロマセラピー、血液クレンジング、プラセンタ、ビタミン剤大量点滴などには新型コロナウイルス感染症の治療および予防何の効果もありません8)のでご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆彡まとめ☆彡

 

 


・新型コロナウイルス感染は男性肥満高齢基礎疾患がある、喫煙者重症化リスクが高い

 

 

 

・これらのリスクは妊娠を考えている方、あるいは妊婦さんに一般的に当てはまりやすいリスクではない

 

 

 

・妊娠中の感染が重症化するというデータはない

 

 

 

・妊娠中の感染で子宮内感染が起こる可能性がある(0-11%の報告)が、出産後新生児のコロナウイルス感染が必ずしも重症化するとはいえない

 

 

 

 

・妊娠初期の感染が流早産や胎児奇形のリスクであるとは現時点でされていないが、今後の報告に注目する必要がある

 

 

 

・妊娠の先延ばしに伴う妊娠率低下のデメリットあり、特に高齢の方や卵巣機能が低下している方

 

 

 

・コロナウイルス流行下でも過度に妊娠をリスクとしてとらえるような風潮は厳に慎むべきである(エビデンスがない)

 

 

 

 

 

 

1) Roni Caryn Rabin. In N.Y.C., the Coronavirus Is Killing Men at Twice the Rate of Women The New York Times  April 7, 2020

2)Jennifer Lighteret al. Obesity in patients younger than 60 years is a risk factor for Covid-19 hospital admission. Oxford University Press for the Infectious Diseases Society of America

3)Zhonghua Liu et al. The epidemiological characteristics of an outbreak of 2019 novel coronavirus diseases (COVID-19) in China

4)Liu, Weiet al. Analysis of factors associated with disease outcomes in hospitalized patients with 2019 novel coronavirus disease
Chinese Medical Journal: 

5)Huijun Chen et al. Clinical characteristics and intrauterine vertical transmission potential of COVID-19 infection in nine pregnant women: a retrospective review of medical records. The Lancet

6)Lingkong Zeng et al. Neonatal Early-Onset Infection With SARS-CoV-2 in 33 Neonates Born to Mothers
With COVID-19 in Wuhan, China Research Letter JAMA Pediatr. Published online March 26, 2020.

7)Ferrazzi EM et al. COVID-19 Obstetrics Task Force, Lombardy, Italy: executive management summary and short report of outcome. Int J Gynaecol Obstet. 2020 Apr 8. 

8) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について  妊娠中ならびに妊娠を希望される方へ 日本産婦人科感染症学会