前回プレコンセプションケアについてまとめさせていただきました。(→「プレコンセプションケアって?

 

 

プレコンセプションケアに関する項目はいくつかありますが、栄養は一つの重要なポイントとなります。

そこで今回は栄養の中のサプリメントについて書かせていただきます。

 

 

サプリメントはご存じの通り多種にわたりますので、今回は当院で取り扱いのあるサプリについてまとめてみます。

 

 

以前のブログでいくつかのサプリについて記載しましたが、(→「妊活」に役立つサプリメントとは?) まずはまだ解説していないメラトニンについて書かせていただきます。

 

 

 

メラトニン

 

メラトニンとは脳の松果体という部分から分泌されるホルモンで、睡眠と覚醒に関係しています。具体的には日中に日を浴びると分泌が減り、夜に暗くなると分泌が増えて脈拍数・体温・血圧を低下させて睡眠へと誘う働きがあります。1)

 

メラトニンの特長の一つに強い抗酸化作用がある点があげられます。

私たちの体では、ストレスなどが原因で「活性酸素」という物質が発生しますが、この活性酸素は、細胞を傷つけたり、老化や病気の原因になります。抗酸化作用とは、この活性酸素の攻撃から体を守る仕組みのことをいいます。
メラトニンは、抗酸化作用があるとされるグルタチオンの約5倍、ビタミンEの約2倍強い抗酸化作用を発揮します。1)

 

一方でメラトニンが卵巣機能にも影響することが分かっています。

ヒトの卵胞液中にはメラトニンが高濃度に存在しており、卵胞の発育に比例して増加します。2)メラトニンの卵巣内の作用として、メラトニンがこの卵胞液内で、上述した抗酸化作用で酸化ストレスを減させ、卵子やそれを栄養する細胞(顆粒膜細胞)を保護しているといわれています。2)

 

実際、卵子や胚の質が不良な体外受精症例にサプリメントとしてメラトニンを使用した場合、卵胞液中の酸化ストレスが軽減し、卵子が保護され,卵子および胚の質が改善されたという報告があります。1)3)

 

例えば、

体外受精胚移植が不成功で受精率が50%未満だった症例に対して、22時にメラトニン3mgを1カ月間内服後に、再度体外受精を施行したところ、受精率は20%程度から50%程度まで有意に改善妊娠率も10%程度から20%程度へと有意に改善した。6)

という発表があります。

 

摂取による副作用は眠気が翌朝に残る程度でほとんどない1)、とされます。

実際使用されている患者様の感想をお聞きすると、摂取しても自覚症状としてはほとんど変わりないという方と、少し眠気が増えたという程度の方が大半という印象を受けます。

 

 

 

その他すでにまとめた内容になりますが、当院で取り扱いのあるサプリについて以前のブログ記事を一部改変して再掲致します。

 

 

 

ビタミンD(以前のブログ→「ビタミンDは重要です!」)

 

以前ビタミンDについてまとめた内容は以下で、

 

 ・ビタミンDは卵巣機能や着床をなどに影響するため、妊娠を考えている方には特に重要なビタミン

 

・ビタミンDをは経口摂取で取り入れる方法と、紫外線にあたることで皮膚から合成される2種類の方法がある

安定してビタミンDを体内に取り込むには、食事やサプリメントが重要

・ビタミンDが足りているかどうかの基準は血中25(OH)Dが30ng/ml以上

・採血でビタミンD濃度を測定し、不足している場合には1000IU=25㎍/日またはそれ以上の摂取がお勧め

と書かせていただきました。

 

また最近ビタミンD不足が流産と関係するという報告もあり、

ビタミンD充足群(≧30ng/mL)と比較して、流産率が<30ng/mL群では1.6倍、<20ng/mL群では1.9倍高かった4)5)と発表されています。

 

一方妊娠中継続的に内服する明確なメリットは現時点で認めておらず4)、私見ですが流産率の低下を目的として妊娠12週程度までの内服が一つの目安ではないかと考えています。
 

 

 

 

DHEA(以前のブログ→「妊活に役立つサプリメントは」?)

 

DHEAとは男性ホルモンの一種で、女性ホルモンの原料になる物質です。このホルモンは年齢とともに低下することが分かっていて、このホルモンが卵巣の反応性を高めたり、妊娠率を向上させるという報告があります。

 

DHEAは卵巣機能が低下している場合によりお勧めとなり、効果のある投与期間は評価が定まっていないので、体外受精などの治療と並行して投与するのがお勧めになります。

 

 

 

 

レスベラトロール(以前のブログ→「レスベラトロール~卵巣機能改善効果について~

 

レスベラトロールとはポリフェノールの一種で、卵巣機能改善効果があるとされています。そのメカニズムは①抗老化遺伝子といわれるサーチュイン遺伝子(SIRT)が活性化する、②ミトコンドリアが活性化することと言われています。

 

最近の報告では、レスベラトロールを含んだマルチビタミンの内服で、採卵数、受精率、胚盤胞到達数が有意に上昇した4)6)と発表されています。

 一方でレスベラトロールは子宮内膜脱落化を抑制するため4)、胚移植前には中止する必要がある点には注意が必要です。
 

 

長文となってしまうため、その他のサプリについては過去のブログを参照していただければと思います。

 

葉酸+マルチビタミン(→「悪玉アミノ酸=ホモシステインとは?
葉酸と妊娠率の関係は?」「妊活・妊娠に必要な栄養素は?

 

プロバイオティクス(→「子宮内フローラについて~着床不全との関連は~
EMMA/ALICEって~子宮内フローラ検査について」)

 

男性用抗酸化サプリメント(→「精子の酸化ストレスとは?~抗酸化サプリメントについて~」)
 

 

 

☆彡まとめ☆彡

 

・当院で取り扱いのあるサプリは主に、

 葉酸+マルチビタミン(エレビット®)、

ビタミンD、DHEA、レスベラトロール、

プロバイオティクス、男性用抗酸化サプリ(メネビット®)

 

・期待される効果によってお勧めされるサプリが異なるので、オーダーメイドの処方が必要

 

・使用推奨期間も妊娠初期までや妊娠成立までなど異なるため確認が必要

 

 

となります。

 

当院で主に取り扱っているサプリメントを表にまとめました。(下表)

外来でお勧めされるサプリを、患者様毎に個別化して提案させていただくようにしています。

 

 

 

文献)

1)五十嵐敏雄 9. 生活習慣, 環境と卵巣機能 産科と婦人科 88(8): 945-951, 2021

2)田村博史 メラトニン 産科と婦人科 90(9): 941-947, 2023.

3)Tamura H et al:Importance of Melatonin in Assisted Reproductive Technology and Ovarian Aging. Int J Mol Sci 2020;21:ll35.

4)女性で必要な栄養素・サプリメントの知識90 メジカルビュー

5)Tamblyn JA et.al Vitamin D and miscarriage: a systematic review and meta-analysis.Fertil Steril. 2022 Jul;118(1):111-122. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.04.017. Epub 2022 May 28.PMID: 3563702

6)Gerli S et al.Biological and clinical effects of a resveratrol-based multivitamin supplement on intracytoplasmic sperm injection cycles: a single-center, randomized controlled trial.J Matern Fetal Neonatal Med. 2022 Dec;35(25):7640-7648. doi: 10.1080/14767058.2021.1958313. Epub 2021 Aug 1.PMID: 3433811