山の音
1954年 日本映画
監督 成瀬巳喜男
脚本 水木洋子
原作 川端康成
出演 原節子
山村聰
上原謙
初老の男が息子の嫁にほのかな思いを寄せる、川端康成の小説「山の音」を成瀬巳喜男監督が映像にしました。
⚫︎あらすじ
鎌倉の古い一軒家、老境に差し掛かった実業家の尾形信吾(山村聰)は、妻の保子、長男の修一(上原謙)、そしてその嫁である菊子(原節子)と暮らしている
信吾は最近、裏山から不気味な地鳴りのような「山の音」を聞くようになり、それを自らの死の予兆ではないかと恐れていた
信吾の悩みは尽きず、息子の修一は、可憐で献身的な菊子を顧みず、外に愛人を作って放蕩を繰り返していた
さらに、結婚に失敗した実娘の房子が二人の子供を連れて出戻り、家庭内の空気はぎすぎすと波立っていた
信吾は、修一の身勝手な振る舞いに心を痛め、不遇な境遇にある菊子に、実の親以上の愛情といたわりを注ぐようになる
そんな中、菊子が修一の子を妊娠するが、修一の浮気が解消されない絶望感から、彼女は信吾たちに相談することなく密かに中絶をしてしまう
その事実に衝撃を受けた信吾は、自分が嫁に抱いていた淡い恋慕にも似た情愛が、彼女を追い詰めていたのではないかと自問する
やがて菊子は、修一との生活に見切りをつけ、尾形家を去る決意を信吾に告げる
冬の日、新宿御苑の広場で再会した二人は、静かに語り合う
⚫︎感想
川端康成の小説「山の音」の映画化だと知って観てみました。少しコメントを読んでいたため、死期を感じている初老の父が息子の嫁にほのかな恋心を持つ話なんだなと思っていました。
ですが小説と映画は少し違っていて、山村聰が、現代風の長男・上原謙の嫁・原節子に恋心を持っているようにはあまり見えず、自分には「大きな父性愛」のように感じました。
でも、川端康成の小説は、女性を視姦するようなところがあるんです。
小説「眠れる美女」では、すでに立たなくなった老人男性だけが入れる秘密クラブが描かれています。16歳の娘を薬で眠らせて、添い寝するだけの老人クラブなんです。決して手を出してはいけないのが、このクラブのおきてなんです。
小説「片腕」では、主人公の「私」は、女性から預かった生身の右腕を自分の部屋に持ち帰ります。彼はその腕に語りかけ、慈しみ、最終的には自分の右腕を外して彼女の腕と付け替えるという、背徳的かつ夢幻的な一夜を過ごします。
川端康成の文学において、若い女性に対する「性行為を伴わない愛」や「純潔性への憧憬」は非常に重要なテーマだそうです 。
多くの作品で、肉体的な関係を超越した精神的な結びつきや、対象を美術品のように観賞する耽美的な視線が描かれています 。
そう言われてみると「伊豆の踊り子」も若い踊り子を視姦しているような感じもしますよね。
そして「雪国」では芸者の駒子を↓
川端康成(1899-1972)
日本人初のノーベル文学賞を受賞した作家であり、その人物像は深い孤独と鋭い美意識に象徴されます。
幼少期に両親、祖父母、姉を次々と亡くし、15歳で孤児となりました。この過酷な体験は、彼の性格を内向的で孤独なものにし、作品に漂う死生観や虚無感の根源となりました。
人をじっと黙って見つめ続ける癖があり、多くの人を困惑させたといわれています。
1968年にノーベル文学賞を受賞し、日本の美を世界に知らしめましたが、1972年にガス自殺によりその生涯を閉じました。遺書はなく、その動機は現在も謎に包まれています。
なんだか川端康成の人物像を知ると、「山の音」の父の気持ちが少しわかる気もします。
小説家って、自分自身の内なる感情を曝け出して、悩んで悩んで考え続けているうちに自殺してしまうのかもしれませんね…



