第10部 ブルー・スウェアー 第18章 あの夜の出来事 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー
たしかに2人の異性を同時に好きになるということはないのは確かだった。
彼女の窮地を救ってあげたい、自分のものにして、一緒に暮らしたい、そのことばかりを考えていた。
彼女も自分の一途で重苦しい気持ちを受け止めながらも、突如、真逆の男が現れて、戸惑いながらも惹かれていったのだろう。心の中に箱があったとしたら、自分が占める割合がどんどん小さく、狭くなっていったのだろう?そして、しまいにはどうでもよくなり、疎ましく感じてしまったのだろう。自分が彼女を好きになることに理由などなかったように、彼女もその男を好きになることに理由などはなかったのだろう・・・。それにしても尽くした挙句にこんなに残酷に捨てられるなんて、夢にも思わなかった。こんな酷い女だったなんて、知らなかった。信じられない!俺が全力で愛した女がこんな冷酷で非情な女だったなんて・・・。身体のどこからか強い殺意が湧き上がってきて、どうしようもないくらいの殺意が湧き上がってきた。そして、そこには誰もそんな真一を止められる人はその空間にはいなかった。真一は口を一文字に結んで侑美を睨むと、侑美は余裕ぶってぷっと吹き出すように笑った。真一は一歩にじりよると、侑美はまだニヤニヤ笑っていた。
「何よ!その顔!自分の身の丈ってヤツを知らなさすぎるのよ!身の丈ってヤツを知らない人は自分の力量っていうものを知らないから夢をみてしまうのよ。でも現実をしっかりみるには勉強したと思えばいい!!」侑美は吐き捨てるようにいった。
「身の丈を分かっていないのはおまえの方じゃないか?身の丈は単なる金の為に水商売するそれだけの女じゃないか?わかってないのはおまえの方じゃないか?」真一は嘲るように笑っている彼女が何かに取り憑かれているのではないかという気がしてならなかった。それともこれが素顔だというのだろうか?
「そうね。それが私の現実ってヤツだったのよ。でもさ、そんな現実の女に貢ぐあなたも自分のことがわかっていなかったんじゃないの?」
「おまえみたいヤツを好きになった俺が身の丈にあわなかったというのか?恵んでもらっておきながらどの口が言えるんだ?身の丈に合わない夢をみているのはおまえの方なんだよ!」真一は不満をぶちまけると、侑美はそれでもツンケンしながらそっぽをむいた。こんな箸にも棒にもかからない、ゴミより酷い女だったとは・・。そんなバカ女を愛していた自分自身がとてつもなく情けなくて、自分も死にたくなってくる程だった。愛情あまって憎さ100倍とはよくいった言葉であったけれど、こんな女でも一度は好きになった。それも相当惚れ込んだ女だ。その惚れた愛が裏切られたときの反動というもの愛情の深さと比例するのかもしれないと思った。女房がガンになって苦しんでいた時でさえ、看病をすることなくこの女にすべてを捧げたのだ。糟糠の妻の苦しみなどどうでもよかった。そんな真一を妻の親戚は冷血な人、サイコパスなど罵ったものだ。ガンになって苦しい時に支えてこそ人間なんじゃないのか?自分の貧乏時代に愚痴もこぼさずやってくれたことに対して感謝の気持ちはないのか?と真一の人格を非難する声が相次いだ。
あんたの顔を見ると、よくそんな残酷な事ができるものかって具合が悪くなると強く非難されて罵詈雑言言われたりもしたが、サイコパスといわれようがどうしようがそんなこと関係がなかった。大切なことは<彼女>と一緒になる事だったのだから。むしろガンになってこの世を去ってくれたことは余計な争いや離婚協議という面倒なことをはぶいてくれて丁度よかったとさえ思えていたりもした。再び独身の身に戻れたことは天に感謝したいほどの喜びでもあった。これで1つ厄介な障害がなくなったのだから。益々真剣に彼女との未来を考え始めた矢先のことだった。
「お前、そんなに自分が俺よりも高嶺の花だとでも思ってんのか?貧乏なくせに!!なんの価値が自分にあると思ってんのや?」真一は思いの丈をぶつけた。
「みんな、誰だって自分が可愛いに決まってんじゃない?そんな価値がない女に投資したバカは誰なのよ?それは自分じゃない?投資したからといってなんで私が一生をあなたに縛られて生きていかなくちゃいけないっていうの?そんなことあんたが勝手に決めることじゃないでしょう?あんたが勝手に夢をみていたんでしょう?妄想じゃない?」侑美は吐き捨てながら、睨みながらいった。
「何だと?使わせるだけ使わせて、妄想だと?」真一は頭に血が更にのぼっていった。
「・・・何よ!体育会系の男は兎に角威嚇して、大声で怒鳴ればいいって思っているんでしょう?バカじゃない?」侑美は気を取り直すように取り繕うようにいっても、内心ビクビクしているのは手にとるようにわかっていた。
「そうやって人を利用して生きてきたんだろう!!自分こそ、身の丈に合わない生き方をしてきて、人をバカにするなんて許されることやない!!」
「何が許されないことよ!自分が勝手にやっていたことじゃない?恩きせがましいのよ!!ふん、単細胞が!!」侑美は両手で腕を組んで虚勢を張りながら、精一杯強がっていた。
「この野郎!!」