直美のシェアハウスでの日々は早くもスランプに陥っていた。
帯状疱疹が身体中に出てくるかのようだった。特に中国からきたという留学生にはいらいらさせられていた。
直美は淡路島に戻るか、早くここを出ていくために必死に貯金しなくてはいけなかった。シェアハウスのパソコンで不動産会社の物件をつぶさにみていた。どれも敷金礼金を合わせると高額になってしまう。理想と現実の狭間で直美の気持ちは押しつぶされそうだった。
<ドンっ>誰かがシェアハウスに入ってくる音がして、ドアを閉める音がした。直美は無意識に自分の部屋に慌ててもどった。
何故か鉢合わせたくなかったから無意識に部屋に戻って、2段ベッドの高い2段目の上にいくと布団を被った。
グォーン、グォーン、グォーン
斜め向かいの中国人留学生の寝息が容赦なく部屋にこだましていた。直美は泣きそうになった。あまりに世間が欺瞞に満ちているように感じたからだった。ベッドの枕から顔を突き出すと、あまりに高い2段で、寝返りでもうってベッドから落ちようものなら頭をぶって死んでしまうのではという恐怖が襲いかかってきた。1段目に寝ている寝息を思いっきりたてている中国人がうらめしかった。
(なんでこんな怖い思いをしながら寝なきゃいけないのよ。マジ、地獄だわ。何から何まで休まらないじゃない?はぁ、最悪!!はやく出なきゃ、ここを出なきゃ!!稼がなきゃ)
直美は半泣きになりながら、これが地獄幕開けだなんて思いもしなかった。
(島に戻りたいかも・・)
直美は悔しさに唇を震わせていた。
直美は気怠い表情(かお)でスィートヴィンテージに向かった。目の下にはうっすら隈が滲んでいた。直美はタイムカードを無表情で押して振り返るとすぐ目の前に忍がいて、ビクッとした。
「・・・おはよう〜。なんかあまり元気ないわね。どうしたの?」気怠い直美をいたわるように忍は心配気に寄り添っていた。
「なんかやつれた顔ね!」
「はぁ、シェアハウスで大分ストレスをもっているんです!」直美は素直に心情を吐露した。
「まあ、シェアハウスって聞こえはいいけれど、実際は大変でしょう〜!見ず知らずの人間が集まっている訳だしねぇ・・・。私でよかったら相談に乗ってあげるよ!」忍はニコッと笑った。
「・・・絶望的な気持ちです!」直美はぐずった。
「そうよね?よかったら今度、私が相談に乗ってあげるから!」
「ありがとうございます!!」直美は忍がとても優しい老女にみえた。年の功60過ぎ70近くといったところか。それにしても自分のことをシーちゃんといっている昨日の姿に違和感を感じていたり、社長の久子の強張った顔を思いだして、少し先入観を抱いていたけれど、案外、悪い人ではないのでは?と直美は思うようになった。
(なんでこの人を恐れるのだろうか?)
直美は不思議な気持ちに囚われていた。