第10部 ブルー・スウェアー 第6章 地獄界の住民たち | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー

「折角、助かった命だ。4人も亡くなった訳だろう?ひどい事故だったな。でも罪はないし、折角助かった。でもあの痛ましい事故の事実は消えることはないだろうし、この島にいたら嫌でも思い出すだろうよ。でもそれ以上に助かった本人があの事故のことを思い出したら、大変だろう。だからさ、おまえがしっかりしなくちゃならないぞ!!」太一は戒めるように俊也にいった。

「・・・はい!」俊也は真剣な表情(かお)でうなづいた。

「最愛の人が助かっただけでも感謝しなくちゃな!」

「・・・わかっています」

「俺はおまえらが羨ましいよ。若いのにそんな風に思えるような人に出会えるなんてさ。俺がおまえぐらいの頃にはよく女の子ナンパしては飲み歩いていたのよ!」

「・・・ふぅん」

「くれぐれも悲しませないように、ちょっとした火遊びや浮気心が出てきたら、少なくても気づかれないようにな」太一の言葉に俊也はキョトンとなりながらもコクリとうなづいた。


仕事を終えると俊也は愛那にメールを送った。

<今から病院にいくよ。何か欲しいものはないか?>俊也がメールを送ると、すかさず愛那から返信が返ってきた。

<お寿司が食べたい🍣!>

愛那からの返信をみた俊也は島の外れみたいなところにある漁港の近くにある寿司屋にいくと思いのほか混み合っていた。新鮮なお寿司が並んでいたが、病人でまだ体調が思わしくないから新鮮なトロでもと思い手を出してみたけれど、体調を崩したら大変だと思い、マグロや納豆などの河童巻きと、卵のお寿司などを手にとるとお寿司を買って魚屋をでた。

ーゴーンッー

タコ船が明石港にむけてゆっくりと動きだしていた。

「じゃあねー、ユキ、気をつけてね!!すぐに連絡をするんだよ」船に向かって、顔がリンゴのように赤く染まっているいかにも田舎のおばちゃんみたいなおばさんが船に向かって手を振っていた。

「うん、お盆にはまた帰るから」ユキという娘らしき少女が船の上から手を母親らしき女に手を振っていた。

「きぃつけてな!!変な男にひっかかるんじゃないよ!ちゃんとご飯をたべるんだよ!」そういうと、何度も何度もユキにむかって母親は手をふっていた。船はどんどん港から離れていった。母親は愛娘が視界から消えていなくなるまでいつまでも手を振っていた。

<ゴーンッ!>タコ船は🚢🐙遠くから唸りをあげるように音を立てていた。その母子の姿をみていると、俊也は何となくもの悲しい気持ちになっていた。もの悲しい気持ちを振り払うように俊也は港を後にして遠くをみると、前に愛那の卒業式の日にプロポーズをした丘がみえた。完全に撤去されていないのか、疎らに文字をかたどった花が並べられていた。

あの時はまさかあんな悲しい事故が卒業式の約1カ月後に起こるなんて夢にも思わなかった。やれやれといった気持ちになった。でも彼女はたくましい生命力で助かった。それだけでもよかった事だと思うしかない。俊也は自分自身に言い聞かせるように病院に向かって歩きだした。