「新しい人?」忍はざっくばらんな顔であつかましそうにいった。
「ええっ。今日、面接にきてくれた子よ!」久子はことも無げにいった。
「あっ、そう。大丈夫よ、きっと受かるよ!うち今、人がいないし、陰気くさいのが多いから、あなたみたいな若い子が入るといいかもね」忍は微笑みを浮かべながらいうと、久子は無表情になって、忍をみていた。余計なことを言わないで!といわんばかりの顔でみていても、忍は無邪気な笑顔でいった。その2人の姿をみていて、何か見えざる確執のようなものを感じずにはいられなかった。
(なんかわからないけれど、怖いかも!)それが直美が直感的に感じたのと同時にあの馬場忍という60代の叔母さんに言葉では形容できない強い違和感を感じたのは何故だろう・・・。
(悪い人ではなさそうだったけれど・・) 直美は帰りの夕暮れの電車の中で東京の光景をじっとみていた。
直美は4人部屋に早くも強いストレスを覚えていた。カーテンで仕切られた簡易的な勉強スペースがあるだけで、2段ベッドは思いの他高かった。寝返りを打つだけで落ちて骨折でもしそうで怖かった。直美は勉強机に座って、強いストレスに苛まれていた頃、ふと母親の言葉を思い出していた。
(及川さんの意識が戻ったんだって!)
窓越しにいった母親の言葉を思い出していた。
(愛那が意識が戻った。愛の力はすごいわ!!)直美はスマホを取り出すと、愛那にメールを打った。
<愛那、元気?意識が戻ったって聞いた。よかった。あなたに何も告げないまま、私は今、東京にいます。あなたが意識が戻ったと親に聞きました。また近く会いたいです>直美の言葉を打つと<送信>ボタンをそっと押した。すると数分後に愛那のアドレスから返信が返ってきた。
「はやっ!!」直美は思いの他、愛那から早く返信が返ってきたので思わずびっくりした。直美は思わず、メッセージを開いてみると、紛れもなく愛那からの返信だった。
「意識、戻った。心配ありがとう。近く、私も東京にいきたいと思っています!」直美は愛那のメッセージを読み上げた。
「えっ?東京にいきたい?マジ!?」直美は思わず言葉の意味をまだ飲み込めずにいた。
「いつの間に・・。遊びにくるっていう意味よね。だって、愛那はあの熱い男と婚約しているんだから、一生、淡路島よっ!!」直美はどこかこんなストレスが溜まるような状況でも自分は東京にいるんだというまだ少し優越感を感じていた。
(この道ならぬ道をこんなシェアハウスから私は必ず切り開いてみせるんだ!!)直美は椅子に座って壁の一点を凝視したままでいた。直美が凝視した先は前の人が傷をつけて、穴を開けた後が残されていた。
ガー、ガー、ガー、4人部屋のベッドの1人の寝息が聞こえてきていた。そのガサツないびきを聞くと、直美はげんなりしたような気分になった。
理想と現実のあまりのギャップに淡路島の実家が早くも恋しくなりつつあった。
(・・・帰りたいかも)
直美は明くる日、ルームメイトと一緒にいたくなくて、バイト探しにファーストフード店にいて、求人サイトをみていた。
(昨日のファンクラブの委託の仕事どうなったんだろう?なんかみたからにいろいろありそうだから、他のものを見つけようと求人サイトを眺めても、何もよいものやピンとくるものがなかった!なんかいいのないかなぁー)
直美が求人サイトを興ざめた目でみていると、スマホが鳴った。昨日のファンクラブの委託会社である予感がして、ゆっくりと電話をとった。
「もしもし」
「あっ、私、スィートヴィンテージの美月と申します。昨日は弊社の面接を受けていただきありがとうございます。早速なんですが、昨日の面談の結果をお伝えしたいと思いまして、ご連絡いたしました」美月は淡々とした口調で話していたが、それとは対照的に直美は不覚にも固唾を飲んでいた。
「は、はい・・・」
「・・・ぜひ、うちで働いていただけないかしら?」美月の言葉に直美は嬉しさがこみ上げてきた。
「ほ、ホントですか?」さっきまでそこで働くことは微妙だと思っていたのに、美月の言葉にそんなさっきまでの閉塞的な気持ちはどこへやら、とにかく決まってくれた事が嬉しくてたまらなかった。
「ええっ。お願いできるかしら?」
「は、はい、ぜひお願いします」直美はもうバイト探しをしなくてもいい嬉しさも手伝ってうなづいた。
「お願いしますね!」
「は、はい」
「早速、明日、研修をするから来てくださるかしら?」
「ええっ、お願いします!」
「じゃあ、明日、10:00に来て貰ってもいいかしら?もう1人の人と一緒に受けて貰いたいから。だから10分前にきて9:50ぐらいにでも!」
「あっ、はい!」直美は襟元を正すようにうなづいた。
「では、お願いね!」
「は、はい!」直美がそういうと電話は切れていた。直美はさっきまでの暗澹たる気持ちはどこへやら、とりあえず仕事が決まった事へ、強い安堵を覚えた。
(・・・よかった!!)
直美はホッとしたように胸を撫で下ろした。
(あの、シェアハウスを一刻も早くでる為に働くよ!!)直美には強いエネルギーが充満してくるように感じた。
p.s
これから7月、8月はひたすら書きつづけます!!ホントは人間臭すぎていやなんだよね。執筆だけというのは・・・。でも資格試験勉強も来年に回して、この夏は書きつづけます!!頑張るしかない‼️