時計の針が正午を回っている。
健三は廊下に佇みながら、集中治療室の前にいて、手を合わせながら、愛那の容態の回復をひたすら祈っていた。助かるかもしれないし、助からないかもしれないというこの心の振れ幅が何よりもつらいことでもあったし、それ以上に愛那にもしも、最悪なことが起きたら・・・と考えると、絶望的な気持ちに囚われたりもして、圧倒的な絶望感と微かな希望の間をさまよい続けていた。
(助けてくれ・・・)気がつくと俊也は隣にすわっていなかった。
何処へいったのかわからなかったが、健三とて、ほとんど気にならなかったが、ほどなくして、廊下の向こうから俊也がやってきた。
「大丈夫ですか?少し休んだ方がいいですよ。昨日から寝ていないんでしょう!!」
「・・・大丈夫だ?君こそ、休んだ方がいいぞ!」
「大丈夫です!うちの母親が兎に角心配していました。とにかく側にいなさいって・・・!」
「・・・ありがとう!」
「まだ集中治療室にいるということは3人の容態に変化がないということなんですよね?」
「・・・あぁ・・」健三がそういうと集中治療室の電気が消えた。
ーパチっー
赤いランプが消えたことに俊也はすぐに消えたことに気がつくと、思わず立ち上がると、入り口の前に立ち尽くした。健三も思わずたちあがった。ほどなくしてドアが開くと、ストレッチャーに愛那が乗せられて運ばれているではないか?俊也は思わず横にくっつきながら歩いていた。
「愛那、愛那!!」俊也の声には強い焦りが出ていた。
「あっ、すみません!」看護師は少し邪魔なのよ、といわんばかりに俊也をみた。
「愛那、目を開けろよ!!みんな心配しているんだよ。これ以上心配をかけるなよ!!」俊也は目を閉じている愛那をみながら必死に声をかけた。
「あの、すみません、少し下がってもらえませんか?」看護師がいうと健三は俊也の腕を掴んだ。
「俊也くん、少し引きさがろう」健三が腕を引くと、俊也は歩みをとめた。
「お父さん、集中治療室を出てきたということは峠を越えたということなのでしょうか?酸素ボンベもつけていなかったし!!」俊也はまるで希望が湧いてきたというように、ほんの少し希望が湧いてきたというようなキョトンとした顔を浮かべた。
「・・わからん。もしそうだとしても、いま、ここにはいないけれど、あの人たちもいるから、あの人たちの前ではけして喜んだりするなよ!」健三はそれでも配慮を忘れるなと俊也に釘をさした。
「・・・はい」