あくる朝、俊也と健三は寝不足のまま健三の家から1時間ほど離れた総合病院へ向かった。
愛那やその同僚の女性たちはまだ集中治療室の中で治療を受けていた。
集中治療室の前ではほかの同乗していた女性の家族が目には疲労が滲んでいた。
「オタクは?」長椅子に座っていたやつれぎみの50代後半の女性が突然やってきた2人に問いただした。
「あっ、及川愛那の父親です!この度はホントに大変なことに・・・」
「もう、やってらんないわよ!!ニュースをみたでしょ?運転してた宮川奈緒って女が猛スピードだしてたっていってたじゃない?どうかしてるわよ。しかもワンボックスカーでさぁ。しかも運転免許を取り立てだったっていうじゃない?ブレーキでもきかなかったのかっていうじゃない。普通にぶつかったってんじゃないんだよ。それが、もうどうやっても悔しいんだよ。出来るならなくなった宮川っていう女を死んだぐらいじゃなくて、八つ裂きにしたいぐらい!死んだぐらいじゃ、すまないんだからね!」
「村川さん!!」隣にいる別の親族が怒り狂う村川という同僚の親族に向かっていった。
「だってそうでしょう。ハタチそこそこのこれからだっていうのに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないのよ!!普通の事故だって悔しいと思うけれど、それよりもこんな、こんな理不尽な事ってあるの?」村川は手に握られていたハンカチでメガネをあげながら、拭った。
「オタクは?及川さんって言っていたわね!」村川の隣にいる善良そうな女性がそっと聞いた。
「ええっ!」
「娘から聞いたことがあったものだから!」
「・・・ん?」
「あっ、私は松下結衣の母親です。オタクのお嬢様とは同期のようなんです。お互いに助かることを祈りましょう!」結衣の母親は辛い気持ちを堪えるように気丈に振る舞っていた。
「まったくです。子を思う気持ちは一緒ですから!」健三も不安な気持ちを堪えながらいった。
いっとき三者の親族の間には重たい沈黙が流れた。
集中治療室の中から看護師が姿をみせると三者の親族が一斉に立ち上がった。
「娘の容態はどうなのでしょうか?」開口一番に口火を切った。
「あっ、口外しないように言われていまして、他のご親族様もおられますし・・」看護師は少し困ったような顔でいった。
「大丈夫ですよ。村川と申します。娘の容態はどうなんですか?」
「・・・まだ意識は戻っていません!」
「もう意識不明が2日も続けいているじゃないですか?ホントに大丈夫なんですよね?」村川は藁にもすがる気持ちでいった。
「・・・そればかりは何ともいえません!!」
「もう意識が戻ってきても、何か障害が残ったりしたりしませんか?またハタチそこそこの娘なんですよ。障害が残ったりしても不憫じゃないですか?」村川はいつしか涙をこぼしながら看護師の襟元を掴みながら藁にもすがる気持ちでいった。
「先生、なんか答えてくださいよ!」村川は看護師を責め立てるようにいった。