第10部 ブルー・スウェアー 第3章 暗転 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー
「今日はとても楽しかったですね!」鈴木貴美枝が声をかけた。
「ホントー!ねぇ、先輩!」結衣は明るく同調した。愛那は最初は初めてあったときに、どこか、軽薄そうなイメージがあったけれど、案外気がきいて、周りを盛り上げようとする子なんだと今日、ふと気がついた。結衣の問いかけに奈緒は何故か黙っていた。
「・・・先輩?」助手席に座っていた山口香織が黙っていた奈緒に声をかけた。
愛那の脳裏には缶ビールを2本飲み干していた奈緒の姿がフラッシュバックして、やな予感がよぎった。
「・・先輩?」愛那は勇気をだして後ろからゆっくり声をかけた。
ー私って重たい人間なのよ。尽くして貢いだ挙句に捨てた男がまだ好きなのよー奈緒の弱々しいこちらをみる横を思い出していた。
「先輩、運転を代わった方がいいです。今日、ビール2杯飲んでいますよね。飲酒運転になってしまいますよ」愛那は勇気を持っていった。
「・・・大丈夫よ」奈緒は低い声で男のような声で呟いた。愛那にはただならぬ張り詰めたものを感じた。
「いや、代わった方がいいですよ。飲酒運転は危ないですから。あっ、ビールを飲んでいなかったジュースだけだった鈴木さんが代わって!!」
「あっ、はい」貴美枝は意外そうに愛那の方を向くと、貴美枝に目配せを思わずして、うなづいた。
「・・先輩、代わりますよ。危ないですよ。お酒入っているんですから!!」
「・・うるさいわね。ガタガタ。大丈夫よ」貴美枝の問いかけに奈緒は明らかに豹変していた。最初の待ち合わせしていた頃の、テンション高めの奈緒とも違っていた。愛那の心の中には言い知れない恐怖が初めて芽生えた。そして、精神内科の薬がフラッシュバックした。
「先輩、やめましょう。車を止めて下さい!」愛那は大声で叫んだ。愛那の言葉に車内は緊張が張り詰めた。
「・・やめて、止まって!!」愛那は耳を塞いだ。愛那の言葉をあざ笑うかのように奈緒は限りなく、最大限のアクセルをふかした。誰もが恐怖に包まれた。
「危ない!!誰か代わって!」愛那は車内で絶叫した。
「先輩、代わりますよ!!」貴美枝は慌てて運転を交代しようとした手を奈緒は思いっきり振り払った。その豹変ぶりに貴美枝も思わず呆然としていた。車内は騒然となった。猛スピードに結衣は今にも泣き出しそうになった。
「やめて!!止めてー!」結衣はぐずりながらいった。
「うるさいんだよ!」低い男のような声を出しながらいった。
ーブッブー、ブッブー、ブッブーー奈緒はゆっくりと徐行している車に対して、激しくクラクションを鳴らした。クラクションを鳴らされた車は驚いて思わず、運転席に座っている奈緒をみた。
奈緒はそれでも構わず、まるで死に向かってアクセルをふかすかのようにスピードを緩める事はなかった。外車のオープンカーの男が猛スピードで追い抜いていこうとする車をみがけて突き指を上向きに立てた。音楽をガンガンと流している男が追い越していこうとする奈緒を窓越しに睨みながらクラクションを乱暴に鳴らした。奈緒はそれでも何かに取り憑かれたかのようにスピードを緩めることもなく、ひたすらまるで「死」に向かって走っていくかのようだった。
                                                  つづく、、