第9部 幻(フレア) 第21章 運命 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー

悠人が1人で喫茶店を出る頃には、腕時計をみると、15:30を回っていた。悠人の鞄の中には添田の粉末が入っているかと思うと悠人はあの時、パトカーに乗り込むときのあの眼差しがフラッシュバックしてきていた。咄嗟に詩織を刺したときの悪夢のような時間がフラッシュバックした。

それが今、この粉になっているのかと思うと強い吐き気をもようした。悠人は気がつくと電車に乗っていた。ゆっくりと西陽が電車の窓越しを通して伝ってきていた。どこの海にいこうかと迷って、千葉の九十九里浜にきていた。強い西陽に晒されていた。こんな濃い夕陽をみたのはいつぶりぐらいだろう?オレンジ色が強い海辺には幻想的といっても過言でないほどまでに水面さえもオレンジ色に染まっていた。悠人は水面のまでくると、夕陽が水面に反射していた。鞄から添田の遺灰を取り出すと意をけしたようにゆっくりと歩きながら、眩いほどの海辺に遺灰をばら撒いた。最後は手についた添田の遺灰を手でパンパンっと払うようにした。

悠人には耐え難いせつない気持ちが込み上げてきた。

(これでよかったんだ、きっと!!)

そう言い聞かせながら、涙が不思議なほど溢れてきた。

母親がいた海ではなかったもののこれできっと少しは喜んでいるのだろうか?と自問自答してみていた。

(・・さよなら、おじさん!)

悠人は心の中で添田にさよならを告げた。


「さっき、添田の父親から渡された残りの遺灰を海に撒いてきたんですよ、なんか俺、やっぱりあの人を恨む気持ちに不思議ほどなれなかったんですよ!なんでか憎むという気持ちと遠いんです。あの人もなんか寂しい人だったんだと思うんですよ」悠人はベッドで入院している原嶋にいった。

「一番の悪は添田の父親だったか?でも今さら母親の死を実証することは難しいだろうな?もうとっくに時効を迎えているし、何より証拠がないだろう?」

「死んだら償うといっていたな」

「あと天罰しかないというヤツか?」

「人間では裁ききれなかった余罪には天罰かそれとも運命だったのかもしれない。人間が100%裁くことなんて出来やしない。きっとどこかで帳尻を合わせるんだろう?そう思うしかない。裁きは警察や司法にかけられることだけが裁きじゃないんだ。そう信じるしかない」原嶋は諦めたようにいった。

「裁判をしなくても詩織が亡くなった理由になんの深い意味がないのは俺が一番よく知っている!」悠人は悲しそうな瞳(め)でいった。

「被疑者死亡のまま書類送検されるのが関の山だな。でも折角、おまえは生かされたんだ。精一杯生きていくんだな」原嶋は悠人を諭すようにいうと悠人は自虐的に笑った。

「・・・俺なんて何の取り柄もなんてないのに、テキトーに生きてきて、誰に親切にしたわけでもなかったのに、何で俺の為に犠牲になったりしたんだろう?そこまでして何で生かされてきたんだろうか?俺もこれからの人生誰かの為に捧げて生きていかなきゃいけないのかもしれない」

「捧げなきゃいけないということはないと思うけれどな。おまえらしく生きていけばいいのでは?」

「ありがとう、そういってくれて!俺もいつか恩返ししなきゃな。何の見返りもなく、ただ、利用してしまったかもしれないのに死んでいった詩織の為にも・・・」悠人は辛そうにいった。

「もうおまえを苦しめていた容疑者はなくなったんだ。何もおまえを苦しめるものはなくなったんだ。過ぎたことを思ってしまっても仕方ないじゃないか?お前は生かされたんだ。精一杯いきていけ。俺も今年で44になるんだけれど、たくさんの事件を担当してきて数えきれないほど亡くなった人を容疑者をみてきた。つくづく思うのは、人の命ってなんて儚いものだろうって思うんだ。あまり儚いからやりきれなくなるだけれど、でも考え方を変えたら、この世界で生きているこそが幻のようなものなのかもしれないよ。あっという間だからな。そう考えてみたらいきていること、そのものが幻だったのかもしれない」