第9部 幻(フレア) 第20章 幻 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー

「・・・」

「誰に頼まれたの?」

「・・・」

「いいからいえっ!!」原嶋は無言になって目を逸らしている俊を一喝するように大声で怒鳴った。

「あの子、みずほさんでしょう!?違う?」原嶋は白状しなさいと言わんばかりに無言のメッセージを込めながらいった。俊はうつむきながら下をみていた。

「どうなんだ?」原嶋は俊の襟元をつかみながら問いただした。けして目を合わせようとしないことがまるで答えのようなものだった。

「どうなんだ?!」原嶋は大声で怒鳴り散らした。俊は目をあわせることはなかったが黙ってうなづいた。

「あぁ、そうさ。間違いないさ」

「ちょっと、お話を聞かせてもらおうか?」原嶋がそういうと俊は少なからず動揺を隠せなかったが、大人しくうなづいた。


この手紙を君が読む頃にはわたしは君にお詫びをすることもないままこの世を去っているのだろう。君が小さい頃に受けた誘拐事件のとうの誘拐犯が今、こうして手紙を認めていること自体が奇妙なものであると思う。君に謝罪をしたことが一度もなかった。これが最初で最後の手紙だ。私は何か大きな勘違いをしていた。ずっと、君の父親を恨み、クラタ工業を憎んでいた。しかし、実際は思うよりも物事はもっと違う事に気がついた。今更。君もきっと知っているのだろう。しかし、君に計り知れないほどの迷惑をかけて、本当はきちんと謝らなくてはいけないことは山々ではあったけれど、君が思うほど、私の心のなかには実の母親の存在がいつも、どんな時も存在していた。そして、いつも心の中で会いたい気持ちでいっぱいだった。だから母親の元に行きたいと強く願うようになった。君に謝ってから旅立とうと思ったりもしたのだけれど、君の顔をみる勇気が今の私にはない。それは君が怖いのではなく、もう生きている意味がないから、今さら何も語る事などないからだ。あの女の子の死に関しても現場にいた君が一番よくわかっていることだろう。何の深い理由など何もない。そして、君だっていわれもない理由で世間を騒がせたあの事件に巻き込まれ、あの子が死んでしまったことは、とても申し訳なく思っている。俺はクラタに人生を狂わされたとずっと恨んでいた。そのきっかけを作ったのもクラタだと思っていた。でもそれは違っていた。間違いだった。そのことを素直に認めて罪を償うことを考えたりしたけれど、思っている以上にもう生きていたくないんだ。罪を償ってやり直して、どうやって生きていくというのか?母親が戻ってくる訳でも、あの子が帰ってくる訳でもない。君も俺が出所したあとのことを考えると、生きてる心地がしないだろう。もうこれからは安心して生きていくがいい。ずいぶん偉そうに書いてしまったが、君はこれからもちゃんと生きていって欲しいし、私の事も忘れてくれ。僕がこの世を去るのは君の為でもないし、罪を償うことや裁判が怖い訳でもない。言い訳のように聞こえるかもしれないけれど、母親の元に行きたくてたまらないんだ。ただ、それだけだ。母親の笑顔が大好きなんだ。俺にとって母親は全てだと言っても過言でない。それは特異なものとして映るのかもしれないけれど、母親は眩しい太陽のような存在なんだ。母親のいないこの世界は太陽が存在しない、暗くジメジメした世界で、もうそんな世界から旅立ちたい。悠人、もうこの人生で、君と言葉を交わすことがなかったけれど、君に対してお詫びをしたい。何も伝えないことは今さらであってもとても卑怯なことだと思った。申し訳ない。すまなかった。君の前途ある幸せのある未来を願っている


ー  悠人は小声で公園のベンチに座って呟いた。悠人はあの港で連行されようとした時、添田はパトカーに乗り込む前に振り返ってきたときの眼差しをふと思い出していた。あの日の風や添田が目を細めてこちらをみていたあの時の様子をありありとしんみりと思い出していた。



p.s

なんかこの章の添田の遺書は今更ながら、せつなくなりますっ!!せつなくて、なんか読み返しながら更新する際、ううっ、、となってしまいました。今回の主役より、存在感がある存在な気がしますっっ。添田と悠人の父親の関係性に涙してしまう私なのです。野球部の青春時代を共ににすごした仲だったのに、大人になって汚れた利権によって心が離れてしまうのですが、、ホントは誘拐事件を起こした添田の方が、友情を信じていた人だったのだと、今さらしみじみと思い、本当は誰より純粋な人だったのだと思いました、心はね。泣けてしまいました😭