第10部 幻(フレア) 第20章 幻 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー


「お袋・・」添田は留置場の中で添田は今日、関口から聞いた言葉を何度も何度も復唱していた。

ー別に父親がいなくたって、私が立派に育ててみせるからねー

母親は父親と別居したあとも口癖のように言っていた。自分が6歳になる頃に両親は別居していた。原因は母親ははっきりとした事は言わなかったけれど、父親がいなくても自分で立派に育ててみせると言っていた。そしていつも張り切っていた。弱音を吐く事もなく、いつも陽気に頑張っていた。母親は朝から晩まで休むことなく自分を育てるために働きづめだった。そして笑顔を絶やさない人だった。そんな非の打ち所がない母親を父親はもし、今日きたあの探偵のいうことが事実だとしたなら、親父は何のために平気でそんな事が出来たというのだろうか?親父は自分を引き取るとすぐに別の女性と再婚した。お袋とは全てが対照的な人だった。音楽の教師をしていた。いつも綺麗に着飾って、お化粧をして、長い髪の毛をなびかせていた。少し高飛車な所もあったが、血が繋がっていないなりに、それなりに面倒みてくれていたが、添田の心の中にはずっと母親としてあったのは本当の母親だけだった。継母もそれなりに面倒は見てくれたものの、母親ではなく、心の中では「他人」だった。

いつも青空の下で笑っている顔しか浮かんでこない。いつも何の曇りもなく、飾り気もなく、綺麗な海に潜っていた母親こそが添田にとって、たった1人の母親であり、恋しい存在だった。

(会いたい・・・。かあちゃんに会いたいよ・・・。今すぐに会いたい。人を殺めてしまったけれど、汚れてしまった僕を受け入れてくれるだろうか?曇りのない笑顔で受け入れてくれるのだろうか?そして許してくれるだろうか?)

添田はそっと目を閉じた。もし、あの探偵の言うことがホントなら、自分はこの世界に生きている価値などないような気がしてきて、凍りつくような気持ちに捉われた。

母親の多寿子と一緒にいた期間はけして長くはなかったけれど、自分に惜しみなくたくさんの愛情を注いでくれた。何の取り柄もなくて、頭がぼさぼさで日に焼けて真っ黒になっていて、クヨクヨ悩むこともなく、きっと父親にはたくさんの不平不満があったのかもしれないが、そんな素振りを漏らすこともなく、お前を立派に育ててみせるといって、まるでまぶしい太陽のように犯罪者になってしまった添田の心の中で今も尚、強く輝き続けているものだった。

もう死んで何十年も経つというのに、添田の心の中では母親への思いは色褪せる事もなく、フレア(太陽の陽炎)のようにいつも孤独な添田の心にぴったり寄り添うように暖かなぬくもりを送り続けていた。

(あなたに会いたい・・)


p.s
お弁当カフェというところで食べたお弁当。お弁当屋がいっぱい出ていて、そこのテーブル一体て食べられるカフェ!!お弁当のカフェって何か初めてだったー!!



ふと、今度の休みにシュークリームを作ろうと決めたのでした!!