文香は昨日あんな映像を見た時から張り詰めていた想いの糸がプツンと切れてしまったかのように気持ちが大胆になっていた。あいつのガッツポーズがまるでサブリミナルのように日常の端々にちりばれられて、何かあるとすぐに浮かんでくる。そんなことを考えちゃいけないと人はいうけれど、自然に浮かんでくる想いをどう考えちゃいけなくて、どう封印するべきなのかは教えてくれない。潜在意識から何かあった時にふい出てくるあいつのことを消す方法があったら教えて欲しいと思った。まるであの人を想い続けていた自分がまるで馬鹿だと言われているようで、早く心の中からあの人の存在を消したいと思い知らされた時はなかった。文香はまるで何かに取り憑かれたように、それまで渋っていた結婚を急ぎ出した。はやくあいつの存在を消したいといわんばかりに。文香はいつにもまして婚約者の坂にいろいろなことに対して積極的な態度を示した。
式に着るウェデングドレスから新居までそれまでどこかうわの空で消極的だった文香から想像もつかないほど坂に対して協力的になり、坂と一緒にいて涙していた女性のわだかまりなどどこか忘却の彼方に飛んでいった。
文香はあんな皮肉なガッツポーズと笑顔をみて、涙を流したあの夜を境にまるで人が変わったように、明るくなっていた。そうすると坂が運命の人のような気がしてくるのだった。結局はこうなる運命だったと自分自身に言い聞かせた。
みずほはいつしか俊が斡旋してくれた小さな6畳一間のアパートに住むことになった。
ーしばらくここで休んでいていいよー
と俊はいっていたけれど、裏外道のスカウトマンも何か裏がありそうでみずほは怖い気もしていた。
(昔、無料(ただ)より怖いものはないってお父さんがいってたっけ)みずほはぼんやりそんなことを考えながら、どうなろうと気にかけてくれる人などいないのだからいっそどうにかなってくれた方が楽かもしれないとつくづく思っていた。
(もう、どうでもいいわ。なるようになればいいんだよっ!!)みずほはなげやりな気持ちになりながらも、いつしか平凡で幸せだった頃の家族の朧気な記憶を辿っていた。
(今頃、父親は何をしているのだろう?兄はどうしているのだろうか?)みずほはぼんやりと思い浮かべていると、肉親の顔さえぼやけていて、それだけ時間が流れていたことを表しているのだろう。
暖かな両親の記憶は戻らない幻想(まぼろし)にみずほ暖かな気持ちになっていた。あの特筆するような家庭ではなかったけれど、あの平凡で幸せなありきたりな毎日さえ、もう戻らないのかと思うとせつなくて、寂しい気持ちになった。当たり前だと思っていた日常さえ当たり前じゃなかったと今さらながら痛感していた。もし、そんな平凡な毎日さえ当たり前じゃないというなら、今、こうやっていることもいろんな意味で当たり前のことではないのだろう。あの人の素性などわかるわけはないけれど、泊まる所を与えられていることはきっとあたり前のことではないのだろう。低次元の中の小さな優しさというものなのだろうか?みずほは4.5畳の狭い部屋からポタリと滴り落ちる水滴が頬に感じて思わず天井を見上げた。
p.s
大雪がふりましたねっ。
大雪のあとはお決まりの地震が来ますね〜。
でもなんかすがすがしいお天気で気持ちもすっきり
今朝は、早めに起きて、ハンドクリームとリップを作りました。冬と必需品です