第8部 悲しみの雨 第13章 心の言葉 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー
愛歩は一縷の望みから絶望の淵に落とされたような気持ちになった。

愛歩は心細く歩いていると冷たい風が吹き抜け、身も心も震えるように気持ちになって両手で胸をつかむように震えながら歩いた。

(どうしよう、どうしよう、こないだのように風に吹かれて紙切れでも飛んでこないかな?神様、どうか助けて)

「大丈夫!きっと、大丈夫よ」愛歩は自分に言い聞かせるようにいいながらいつもより早足で歩いた。


愛歩がオードアドミラブルでティッシュの配りはあと2日で契約のリミットを迎えようとしていた。ずっと休みなく働いていて疲労困憊だった。

(休みたい、休みたい)愛歩は朝からボイコットしたい気持ちだった。

(休んだら、明日生きていけない。ずるい人間に横取りされるし、あてにしてた訳ではないけれど、自分には得がないみたいだ)愛歩は着替えながら空をみて祈るようにつぶやいた。

「あの女、今日も取り乱して、仕事がなくならないかなぁ」愛歩は窓辺から曇り空をみてつぶやいた。

愛歩が着替え終わり、出ていこうとしたとき、スマホが鳴った。

<ユース>と表示されていた。

愛歩は電話に出ると水口の声を久しぶりに聞いた。

「飯田さん、今、大丈夫?」

「あっ、はい」

「電車に乗っちゃった?」

「いいえ、今から出ようと思っていた所なんですよ」

「あのね・・」水口は言いづらそうに言った。神妙に低い声で言った水口のすまなさそうな声に愛歩の胸は一つの希望が生まれた。

「どうされたんですか?」

「あの店というかあのクライアント様は何か変というか変わっている感じがするんだよね。なんで急に仕事ができない状況だから残りの2日間の日当は支払うから仕事はできないというのよ。なんか理由わかる?」水口も困惑したような声でいった。

「あそこの社長と雇われている女の人がいろいろ色恋で喧嘩してました。だからだと思いますよ。私も正直やりにくかったですよ」愛歩は本音を吐露した。

「そうなの?本当に変というかさ、困るのよね。そういうの。別にあなたが悪い訳でもないから適当に急にヒマになったから、ラッキーだと思って好きに過ごしてよ」水口は優しい口調でいった。

「本当ですか?いろいろ体調が悪かったので助かります」愛歩は水口の言葉は神のお助けのようにありがたかった。愛歩は電話を切ると布団に寝そべった。

「あー、嬉しい!!しかも有給。ハッピーだわ」愛歩は嬉しくて寝そべって天井を見上げた。


愛歩は寝そべりながら目をつむり、目を開けると昼の1時を回っていた。

愛歩のお腹はぐーっと鳴っていた。

「あー、お腹空いた」愛歩はノロノロと起き上がると布団を畳み、外にでた。愛歩は近くのパン屋でコーヒーとパン2個食べた。

(束の間の思ってもない有給!最高だわ)愛歩はカバンからスマホを出そうとすると、カバンの中から小包が転がり落ちた。

(あっ!)愛歩は弟から渡された鍵を手に取った。

(これは、一体何なの?)愛歩は弟に電話してみたら、思いの他、早く電話にでた。

「姉貴、どうしたの?」

「あんたがこないだ渡してくれた、おじいちゃんから預かったこの鍵は一体何なの?どこのもの?」

「書いてあるだろ。」

「ないよ。ないってば。どこの?」

「確か、レンタルボックスみたいな奴。よくさ、家具とか部屋のものがあふれている人が収納スペースとかにものを預ける所で確か、大宮の方にあるよ。なんていったかな、レンタルスペース?スペースレンタル?忘れたよ。調べてメールするよ」翔平は思いの他、親切な口調でいった。

「うん、わかった。待ってる」愛歩は冷めた口調でいった。

(なんか凄いエライ親切で、ある意味怖いわ。何か企んでいるのかしら?徳になること以外、相手がしないしたたかなあの子がそんなことするなんて。まぁ、私のは横取りされたけれど、あの子は別に横取りされなかったから、慈悲なのかしら?なんか恐ろしいわ)


「大宮ー、大宮ー、」電車のアナウンスで愛歩は大宮の駅に降り立った。

愛歩は弟から来たメールと駅前の地図を頼りに歩いていたら、駅から5分くらいの所に弟の言っていた<収納スペース・トラフィック>という大きな店が看板を掲げて出ていた。

(さっき言ってた名前と全然違うじゃん)愛歩は店を見上げながら、中に入っていた。


店の人間に案内されていくと、とても小さなダンボール一箱分くらいの複数の人が使用しているようなスペースに見慣れない記号が記されていた。

店の人間が言っていた鍵に小さく記されている番号と収納スペースに記されている記号を照らし合せて愛歩は隅の収納スペースの鍵穴に鍵を差し込んで左に回すとコトンと音がした。愛歩は少し緊張しながら小さな扉を開いた。

収納スペースには小さなダンボール箱が入っていた。手でダンボール箱を上げるとガムテープを手で剥がすと細々といろいろなものが出てきた。愛歩は小さな箱を開けた。そこには愛歩の生まれてきたばかりの赤ん坊の頃の写真や祖父が愛歩を愛おしそうに抱きしめている写真や愛歩がおめかししていた小さい頃の写真が10数枚出てきた。

(なんでわざわざしまっていたの?)

愛歩が写真をめくっていると最後の一枚の写真に見知らぬ女性が写っていた。ずいぶん昔の写真なのか?昭和の初期の時代の写真のようにさえ思えた。女の人が一人だけ、街で撮った写真なのか。昔のレトロな電車が写っていた。そしてその女(ひと)は笑顔でピースをしていた。