愛歩は翔平と別れて病院の廊下を歩いていると携帯がなっている。見知らぬ番号からだった。愛歩は電話に首を傾げながら誰も歩いていない廊下で電話にでた。
「もしもし」愛歩の何気ない言葉さえも病院の廊下に響き渡った。
「あっ、愛歩?お久しぶりー!元気にしてた?」はちけんばかりのテンションの高い声が響いた。
「あのぉー・・・ど、どちら様ですか?」愛歩は困惑しながら電話にでた。
「やだー、覚えていないの?私よ、私!木崎よ!」
「・・・キザキ?えっ?」愛歩は思い出すことが出来ず困惑していた。
「もう忘れちゃったの?同じ劇団にいたじゃない?そして、一緒に弁当屋で働いたじゃない?」
「あっ!」愛歩は記憶に合点がいき、思わず声をあげた。
「思いだしたー!久しぶり!本当に久しぶり!」愛歩も嬉しそうに声をあげて笑った。
「元気にしてた?」
「・・まぁ、何とか。ねぇ、いきなりで申し訳ないんだけれど、明日会えない?」
「へっ?明日?明日はちょっと・・厳しいよ。今、病院の中だから・・病人がいまして。」愛歩は声を潜めるように小声でいった。
「そっかー?」
「またこちらから連絡します。」
「わかった!じゃあ待ってまーす」
「・・てゆーか本当にどうしたの?」愛歩は真理絵に電話をしてきた本当の
理由を尋ねた。
「・・いや、あの岡田店長っていたじゃない?」
「・・うん」
「あそこの店がなくなっちゃうのよ」
「えっ?」愛歩は少しだけ驚いたように言った。
「最後にみんなで会おうって話になっていたのよ。来て貰えない?具体的な日にちはまだ決めていないから都合のいい日にちを教えてっていう連絡だったのよ」真理絵は少し遠慮がちに聞いた。
「いつでもいいよ。基本的にヒマだから・・・」
「そう、じゃあ、これから集まる人で決めて、決まったらまた連絡するね」
「・・・うん、わかった。いつでも連絡して」
「じゃあ、また」
「楽しみにしてる」愛歩も笑顔で答えた。愛歩は電話を切ると、スマホをポケットにいれた。愛歩は祖父が入院している病室を探すようにみていた。
(・・たしか306いや304だっけ?)愛歩は病室を探し覗くように歩いていると、聞き覚えのある声が廊下にこだました。
「おばちゃん、お願いよ。今、子供がいて大変なのよ。あの子は独身で一人身で苦しくないんだから、お願いよ。ねっ。シングルマザーで暮らしていくのは大変なのよ」いつのまにかひとみは病室にいて、まだ意識不明の祖父の寝床にいて懇願するようにお願いしていた。愛歩はさっき屋上で言っていた翔太の言葉を思い出していた。美佐江とひとみに気づかれぬよう入り口の所に身を潜めていた。
「・・・でもこれはおじいちゃんが愛歩にって残してくれたものなのよ」美佐江もどこかでやるせない気持ちで通帳を見つめていた。
「・・わかってる。でもさ、あの子は別に結婚しているわけでもそれなり苦労しているわけではなく、好きなことをやって暮らしているわけで、だからそんなにいらないと思うのよ」ひとみは美佐江に情に訴えかけるようにいった。
「・・・2人の子供がいるのよ」ひとみは伏せ目がちに俯いた。
「・・わ、わかったわ。子供たちの為に使って」美佐江はそういうと少し考え込むように思いながらもひとみに渡した。愛歩はじっーとその光景を病室の隅から見つめていた。愛歩はどこか信じがたいものをみているような気がした。