第7部 私の愛まで 第8章 リダイヤル | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー
未歩はハンバーガー屋とパン屋を二軒ハシゴした後、夕方近くになって夜の銀座の街を闊歩した。まだ小学生の私が夜の銀座の街を歩くなんて不謹慎な気もしたけれど、それでも未歩はそんなためらいさえも朱理のことを思うと不思議なほど何の苦しみにもならない。途中で買った東京の地図を見ながら奈央子がいるかもしれない一縷の望みを託して歩き始めた。メモ帳を見ながら<アイボリー>に着いた頃には日が落ちて暗くなり始めた頃だった。未歩は店の前に立ち看板と紙にメモしてきた店の名前を照らし合わせた。店の裏側に回り従業員用の入り口にまわって木陰に身を潜めて母親が来るのを冷たい風にさらされながら見つめている。少し惨めな気持ちでありながらも全ては姉の為なんだと言い聞かせた。どれほど待っていたのだろうか?30分近くも待っていたような気がしてきた。風がどんどん冷たくなってきて未歩は母親を待ちわびることがだんだんしんどくなってきた。吐息が夜風に白く浮かんでいる。未歩はこげにしゃがみ体をさすっている。その時だった。コツコツ―。ヒールの音がアスファルトと乾いた音とともに鳴り響いた。未歩は少し顔を上げてみると、具合が悪そうな奈央子が歩いていた。暗くてはっきり顔は見えないけれど疲れきった奈央子がいた。未歩は立ち上がった。奈央子は未歩の存在に気がつかず横を素通りしていこうとした。 
「お母さん!」未歩は奈央子の背中に精一杯言葉をぶつけた。奈央子は足を止めた。恐る恐るゆっくり横を見つめた。 
「…未歩…」奈央子は大きく目を見開いている。奈央子は未歩を見つめて絶句した。 
「どうして帰ってきてくれないの?」未歩は鳴きそうになりながら言った。 
「…」奈央子は俯いたまま、何も言わずに黙っている。 
「お姉ちゃんが可哀想だよ!」 
「…」 
「お母さん、帰ってきてよ!」 
「…ごめんね。迷惑ばかりかけてごめんね」奈央子の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。 
「本当にごめんなさい」やつれている奈央子の顔から涙が零れ落ちた。未歩は呆然と立ち尽くした。どうしても理解できなかった。奈央子は尋常ではないくらいに泣いた。こんなに泣き崩れた母親をみるのは初めて見た。何か言えないことを隠し持っている。それが知りたかった。娘を置いて突然いなくなったことも含めて聞きたいことがいっぱいあった。未歩は母親に強く問い詰めたい気持ちになっていたけれど、泣いているお母さんを目の前で泣いている涙は母親としての涙なのか、それとも別の意味での涙なのか未歩は困惑をした。 
「家族がおかしくなったのはお父さんじゃなくて実は私のせいなのかもね!」奈央子は意味深な発言をした。 
「えっ!?」未歩は奈央子の聞き捨てならない発言に硬直した。 
(私のせいって何なの?)未歩は奈央子に歩みよった。 
「ねぇ、お母さんどうしたんだよ?何があったんだよ?」未歩は奈央子に 問いただした。 
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」奈央子の顔から更に涙がとめどなく流れてしまいには言葉を失っていた。