バッセーゼトラ・トーマス事務所
「どういうことだ!!相談もなく勝手に引き受けるんだ!」トーマスは部下を怒鳴り散らした。部下はひたすら頭を下げた。
「おまえ何を考えているんだ。そんな危ない土地の下請けを受けるってどういう神経をしてんだ!おまえはバカかぁ!!!」トーマスの形相はまるで鬼ようなけん幕である。
「使えないんだよ!おまえは、あぁ・・!」狂ったように人目も気にせず怒り狂うトーマスに事務所の女子たちが呆れたように見つめていた。
「傲慢よね、確かに社長は頭が切れるのかもしれない。でもちょっと神経質よね。あの人を見下したような怒り方は好きになれないわ。家でもあんな感じなのかしら?」事務のセリーナは隣に座るハンゼリーにヒソヒソと声をかけた。
「あの人の奥さんってどんな人なのかしら?顔がみたいわ」
「美人だっていううわさよ」セリーナがハンゼリーに耳打ちをした。
「へえ、あの人の奥さんになったら気が狂いそうだわ」
「でも意外と奥さんにはデレデレしてんじゃないの?それか似たものどうしか?」
「勘違いってやつね!」
「旦那も旦那なら妻も妻・・・・なんてね、あはは」セリーナとハンゼリーはトーマスの陰口を叩きながら失笑をこぼした。
「傲慢」-トーマスを語る上で彼の人物評だった。一寸の狂いも許さない、一寸のミスも許さない。彼の人生は緻密な計算の上で成り立っていた。そんなトーマスを生きたロボット、冷血人間、または「孤高の天才」。。。
見えぬ影ではそう呼ばれていた。
トーマスが事務所を不機嫌に外を出ると雨が降っていた。
「傘忘れたなぁ・・・」トーマスは舌打ちをしながら家まで徒歩15分の道のりを鞄を傘代わりに頭にかざし小走りに家まで戻った。足元がびしょびしょになりながら帰宅すると妻のアンジェリーが玄関にいつものように迎え出た。しかしいつもアンジェリーの顔ではなかった。その日のアンジェリーの顔には軽い狼狽の色が滲んでいた。
「あなた・・・・」アンジェリーの困惑した表情にトーマスはただならぬこと察した。
「どうした?何かあったのか?」
「ジュ、ジュリーが帰ってこないの。。。」
「えっ?もう9時じゃないか。警察には?」
「まだ・・・・何か変な事件に巻き込まれたのかしら?ただ、同級生たちと遊んでいて遅くなっているだけならいいけど・・・」アンジェリーは目を伏せた。
「何言ってんだ!?あの子はまだ16歳なんだぞ!遊びだろうが、こんなに遅くなって言い訳ないだろ!今すぐ警察を呼べ!!」
「そんなに騒ぎ立てたら、もし何でもなかったら帰ってきずらくなる。あと数時間待ちましょう。きっと何かやむ得ない理由があるのよ。アンジェリーの言葉にトーマスは憮然とした顔になりながらリビングに上がってくと姉のマリーナが暖炉の近くの椅子で編み物をして、次女のミリーが食卓で学校の宿題をしていた。
「何てことだ」トーマスはテーブルに両手をつき力なく呟いた。
「ジュリーは最近ボーイフレンドが出来たのよ」マリーナは力なくふくトーマスに編み物を編む手を止め囁くようにいった。
「ボーイフレンド?」寝耳に水のトーマス。
「そう、ひょっとしたら、そこにいるのかもしれない」
「俺は聞いてないぞ!何処の馬の男だよ!!あの子はまだ16歳じゃないか。マリーナ、そのろくでもない男は何処に住んでるんだ!!」
「港街の外れにある靴やの息子だよ。そこにいけばジュリーのことがわかるかもしれない」
「ふざけんな!何がボーイフレンドだよ」
トーマスがふと壁に立てかけられている鐘時計を見たとき21:30をさしていた。
カチ、カチ、カチ、ゴーン、ゴーン、ゴーン、、、ハーフタイムを知らせるべく鐘の音が鳴った。
(夢であってくれ、頼む、大事な大事な娘よ・・・・)
つづく、、