薄闇の裏通りは千広は何となしに歩いていた。吸い寄せられるように偶然に恭一と再会した場所に向かっていた。夕闇と闇夜の狭間の中で恭一は店の前で片手に看板を持ちながら時折吹き抜ける風に凍えながらやる気なさそうに立ち尽くしている。千広は恭一をじっと見つめた。声を掛けるべきか心拍数5つ分思案した後、意を決して千広はゆっくり恭一に近づいた。
2m先に近づいた時、恭一は千広にやっと気づく。
たじろぐ恭一。
ニコッと笑う千広。
千広の胸の中にあのころの感覚が思いがけず広がっていく。そう、あの時もこんな感じだった。
「久しぶり」千広は小さく呟いた。
「・・・・・あ、あぁ・・・」戸惑いながら相槌を打つ恭一。
「何やってんの?」
「何だろうな・・・・・」
「東京に上京してたんだ」迷いを吹っ切るかのように問いかける千広。
「とっくの昔に・・・」自嘲気味な恭一。
「何の看板を持ってんの?」緊張が解けて人懐っこい笑顔が千広に広がる。
慌てて看板を裏めくりにしようとする恭一。
千広は恭一の背中のまわりこみ看板に書いてある文字を読み上げる。
「<可愛い女の子があなたを癒してくれる。安らぎの空間、1時間ワンドリンク付き4000円、指名できるよ>だって~」
恥ずかしさに恭一は慌てて看板を地面に伏せた。
「隠さなくてもいいじゃん。みんなに見せているものなんだから」
「何の用だよ。おまえに用なんかないんだよ」迷惑そうに言い放つ恭一。
「別にいいじゃない」
「ここはお前の来る場所じゃない!!」
「そう、でもここは西本君のテリトリーでも縄張りでもないの。だから来るのは私の自由よ」
恭一はうんざりぎみにため息をつくと店の中に黙って戻ろうとする。
「ちょっと~」千広は恭一の腕を引っ張った。
「何だよ、お前とは生きてる今生関わりたくないの!」
「いいじゃないの、縁があっての再会なんだから」千広は指折数える。
「・・・・・」
「えーと・・・・・ん~・・・・7年ぶりだよ!!もう7年も経っちゃったよ!!!もう7年・・・」
千広のあの頃の少女のような笑顔に戸惑う恭一。
追記・最近コメント欄にアダルトのコメントが執拗に張られていたため画像認証方式に変えました。面倒ですがこれからもよろしくお願いします。