第2部 トライアングル  第7章  存在 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー

バイクがどんどん近づいてくる。3メートル位足元まで近づいてきた時、相手はめぐ未の鞄をひったくろうと手を伸ばし鞄を掴んだがめぐ未も負けじと自分の脇に引き寄せようと力一杯に引っ張った。男は<手を離せ>と言わんばかりに睨むとめぐ未は恐怖に慄き思わず手を離してしまった。そして手を離された反動でバランスを崩し男のバイクは勢いよく横転した。

「うわぁぁぁ」男の絶叫が聞こえる。

「(中国語で)痛い~、助けて!」目の前の光景の激しく狼狽しながらめぐ未はゆっくり近づく。

「だ、大丈夫ですか?救急車呼びますか」めぐ未は散乱した鞄の道具を手繰り寄せながら携帯で救急車を呼ぼうとしたとき

「(中国語で)や、やめてくれ。(日本語で)タ、タクシー」男は救いを求めながらねじれるような唸り声をあげる。覚束ないタ、ク、シーの三文字の日本語。めぐ未は空車のタクシーを通りに出て必死に探した。通りすぎるタクシーはどれも満席だった。ムショウに悲しみが込み上げてくる。そのうち珍しいくらいのポンコツ車のタクシーが空席だったので手を上げ呼び止めた。男は我先にと体をねじるようにして這いつくばりながらタクシーに乗り込んだ。

その姿・・・・・・・26年の人生で見たこともない光景だった。救急車を拒否しながらもあの恐ろしいまでの生きることへの執着心。

「どうして・・・?」めぐ未はただ、呟いた。                      つづく、、