時計の針が午前零時を回ってもめぐ未は部屋へは戻らなかった。携帯はならないし電話をかけても出てはくれなかった。携帯のデジタル時計の表示だけが過ぎてゆく時間を確実に示している。冷えた床に安座をしながら押本はうずくまっていた。由花の顔が浮かぶ。どうにもならないことをどうにかして逃げ出したいからこんなに苦しいのだろうか。とりとめのない自問自答が壊れそうなほど胸をかき乱す。
(はっきり白黒をつけよう。俺の答えは一つなんだよ)
重い気をひきずりながら勇起は由花がいるマンションに向かった。
「久しぶりですね。押本さん」聞き覚えのあるその声に動揺を隠せなかった。髪をオールバックでまとめサングラスをかけたカン・ヨンクがガムをかじりながら近づいてくる。
「奇遇ですね。めっきり顔を見ないから心配してましたよ」
「何ですか?わざわざ待ってたんですか?」突き放すように勇起はいう。
「そんな冷たい言い方はないでしょう。奇遇ですよ。由花さんに用事があってね」流暢な日本語と抑揚なイントネーション。ベトベトなポマード。自信にあふれた表情もただの薄気味悪さでしかない。
「疲れているので・・」そう言って立ち去ろうとした時
「いい話があるんですよ。彼女に言ってもちっとも商談がまとまらない」
「・・・もう興味ないです」
「もっと儲かる話があるんですよ。あんな使えない女とはさっさと縁をきっちゃいな」
「そのつもりですよ」勇起は語気を荒げた。カンは勇起ににじりよると腕を強く引きながら
「・・・ヤ・・オ・・ト」息を殺して耳元で呟いた。
「はっ!?」勇起の顔に戦慄が走る。 つづく、、