$1 + 1 = 2,  1 + 1 + 1 = 3$... で, $𝑛$ 回足せば $1 + ··· + 1 = 𝑛$ は, 数学の記述としてどうなのといふ疑問だが, 認知症か痴呆症の初期症状かもしれない. 

「1 を $𝑛$ 回足す」を写像 $𝜎$ の漸化式で定義
\[
 𝜎: 𝑵 → 𝑵. \\
   𝜎(0) = 0, \\
   𝜎(𝑛 + 1) = 𝜎(𝑛) + 1 
\]
すれば, 分かったやうな気になるのだが, ただの錯覚かもしれない. 
$𝜎(𝑛) = 𝑛$ を数学的帰納法で証明しておかう. $𝜎(0) = 0$. $𝜎(𝑛) = 𝑛$ とすると, $𝜎(𝑛 + 1) = 𝜎(𝑛) + 1 = 𝑛 + 1$. $∎$

なんでこんなことに悩み始めたか. $𝑓(𝑛 1_𝑀) = 𝑛 𝑓(1_𝑀)  (1_𝑀$ は環 $𝑀$ の単位元. 例へば, $(1 0 \\ 0 1)  (2 × 2$ 行列の単位行列) みたいな式をみて, $𝑛 ∉ 𝑀$ だよね, などと考へ始めたせゐである. 

敷衍すると:

可換環 $𝐴$ 上の加群 ($𝐴$-module) といふ概念がある. 
\[
 𝑎 (𝑥 + 𝑦) = 𝑎 𝑥 + 𝑎 𝑦
 (𝑎 𝑏) 𝑥 = 𝑎 (𝑏 𝑥)
 1 𝑥 = 𝑥
\]
などの条件を満たす $𝜇: 𝐴 × 𝑀 → 𝑀$ とアーベル群 $𝑀$ の対のことである. ($𝜇(𝑎, 𝑥)$ の替はりに $𝑎 𝑥$ と表記する.) $𝐴$ が $𝑹$ のとき, $𝑀$ はお馴染みのベクトル空間である. 
また, 多元環 (algebra) といふ概念がある. $𝐴$ 上の環で, 加法に関して $𝐴$-加群, 乗法に関して $𝑎 (𝑥 𝑦) = (𝑎 𝑥) 𝑦 = 𝑥 (𝑎 𝑦)$ を満たす代数的構造をいふ. 

「$𝐴$ が $𝒁$ のとき, $𝑛 𝑥 = 𝑥 + ··· + 𝑥$ と定義することで, アーベル群 $𝑀$ は自づと $𝒁$-加群となる. 環についても同様に $𝑛 𝑥 = 𝑥 + ··· + 𝑥$ が定義できて, $𝒁$ 上の多元環とみなせる」を読んで考へこんでしまった. (環における $𝑛 𝑥$ てふ表記には不満がある. $𝑥, 𝑦 (∈ 𝑀)$ の乗算と同じ表記だが, $𝑛 ∉ 𝑀$ ではないか.)

さういふこと.

cf. "\"写像の再帰的定義がなぜ許されるのか|漸化式を満たす写像の存在と一意性\", https://sorai-note.com/math/200418'',
"\"形式的なペアノの公理で誤解しやすいポイント\", https://mathlog.info/articles/1290"

§

 アルキメデスの公理「任意の自然数 $𝑎, 𝑏$ に対して $𝑎 𝑛 > 𝑏$ を満たす自然数 $𝑛$ が必ず存在する」なるものを目にして, そんな公理は初耳でんがな, となった. 自然数はペアノの公理で特徴づけられる (characterized) わけだから, アルキメデスの公理もペアノの公理から導出されるはずだらう, つまり, 公理ではなく補題とでも呼ぶべきではないか, とも考へた. 
"ja.wikibooks.org/wiki/初等整数論/公理" に曰く:「本当に公理的に始めるのならばペアノの公理から始めるのだろうが, それでは普通の算術に辿り着くまでに時間がかかりすぎてしまうのでもっと分かりやすくしたものを使う.」
つまり, アルキメデスの公理は本当は公理ではないけれど, (初等) 整数論においては公理と呼んでおきませう, といふことのやうだ. 
といふことは、アルキメデスの公理をペアノの公理から導出するのは、もの凄く面倒だといふことだ。私も大人しく公理と認めておく。
 

("b x"  は b と x の積; "a | b" は "a は b を割り切る" と読む) を用ゐて
「$𝑖, 𝑛$ が互ひに素, かつ, $𝑗, 𝑛$ が互ひに素 $⇒ 𝑖 𝑗, 𝑛$ は互ひに素」
を証明する.
  $\gcd(𝑖 𝑗, 𝑛) = 𝜈$ とすると $𝑖 𝑗 = 𝜈 𝑞,  𝑛 = 𝜈 𝑛'$. このとき $𝑖 𝑗 (= 𝜈 𝑞) | 𝑛 𝑞 (= 𝜈 𝑛' 𝑞)$. $𝑖 | 𝑛 𝑞$ 故, $𝑖 | 𝑞$. $𝑞 = 𝑖 𝑟$ とおくと, $𝑖 𝑗  = 𝜈 𝑞 = 𝜈 𝑖 𝑟  ⇒  𝑗 = 𝜈 𝑟$ すなはち, $𝜈$ は $𝑗, 𝑛$ の公約数, つまり $𝑛 = 1.  ∎$

証明の道筋を見据ゑて $··· ⇒ ··· ⇒ ··· ⇒$ を構成したわけではなく, やみくもに書き連ねてゐたら, 偶々目的地に辿りついた. といふことで, 「何, まはりくどいこと, やってんの. こうすれば半分の文字数で証明できるぢゃん」とふやり方があればご教授ください.
 

もやもやしてゐるなら, 明晰かつ判明 (clair et distinct) にさせて解消させればよからうに放置してきた. 
もやもやの遠因はそれを学んだ線形代数学の教科書にある. (悪い教科書だつたと言ひたいわけではない. 私の頭のポンコツだったと言ってゐるだけ.) 
曰く

「$𝑛$ 個の変数 $𝑋_1, ...,𝑋_𝑛$ をとつたとき, $∏_{𝑖 < 𝑗} (𝑋_𝑗 − 𝑋_𝑖)$ を $𝑋_1, ..., 𝑋_𝑛$ の差積といふ. これを $𝛥$ としよう. $𝑛$ 個の元 $1, ..., 𝑛$ の置換 $𝜎$ について, $𝜎 𝛥 = ∏_{𝑖 < 𝑗} (𝑋_𝜎(𝑗) − 𝑋_𝜎(𝑖))$ を考へると, $𝜎 𝛥 = 𝛥,  𝜎 𝛥 = −𝛥$ の一方が成立することは明らかであらう. 前者のとき, $𝜎$ は偶置換であるといひ, 後者のとき, $𝜎$ は奇置換であるといふ. 
[定理 6]  有限集合 $𝑀$ の上の置換 $𝜎$ は互換の積として表すことができる. このとき, 互換偶数個の積にかけるか, 奇数個の積にかけるかは, $𝜎$ によつて確定する. 前者の場合 $𝜎$ は偶置換であり, 後者の場合は奇置換である. 
  証明  [...] $(𝜎_2 𝜎_1) 𝛥 = 𝜎_2 (𝜎_1 𝛥)$ であるから, $𝜎_2, 𝜎_1 $ がともに奇置換のとき, およびともに偶置換のときは, $𝜎_2 𝜎_1 $ は偶置換であり, さうでないときは $𝜎_2 𝜎_1 $ は奇置換になる. したがつて, 互換が奇置換であることを証明すれば, 定理は容易に証明される. そこで [...]
  すなはち, 互換は奇置換である. (証明終り)
  [...] $𝛥$ のやうに, $𝑛$ 変数の多項式 $𝑓(𝑋_1, ..., 𝑋_𝑛)$ で, $𝜎$ が $𝑋_1, ..., 𝑋_𝑛$ の上の奇置換であれば, $𝑓(𝑋_𝜎(1), ..., 𝑋_𝜎(𝑛)) = −𝑓(𝑋_1, ..., 𝑋_𝑛)$, 偶置換であれば, $𝑓(𝑋_𝜎(1), ..., 𝑋_𝜎(𝑛)) = 𝑓(𝑋_1, ..., 𝑋_𝑛)$ となるとき, $𝑓(𝑋_1, ..., 𝑋_𝑛)$ は $𝑋_1, ... 𝑋_𝑛$ 上の交替式であるといふ. [...]
問 1  置換 $𝜎$ について, その符号 $\sgn 𝜎$ を, $𝜎$ が奇置換ならば −1, 奇置換ならば +1 と定義する. $\sgn (𝜎_1 𝜎_2) = (\sgn 𝜎_1) (\sgn 𝜎_2)$ であることを証明せよ. 」

補足: 対称群 $𝑆_𝑛$ は $\{𝜎: \{1, ..., 𝑛\} → \{1, ..., 𝑛\}  |  𝜎:  \𝑡𝑒𝑥𝑡{全単射}\}$ のことであり, (例:  $𝜎(1 2 3) = (3 2 1)$). $𝑆_𝑛$ の元 $𝜎$ を置換といふ; その積 $𝜎_2 𝜎_1$ を写像の積 $𝜎_2 ∘ 𝜎_1$ で定義すれば, $𝑆_𝑛$ は群である; $𝜎 ∈ 𝑆_𝑛$ には符号 $\sgn 𝜎$ が定まり, その定義は云々; といふことをこの一節は述べてゐる. 

1.「$𝜎 𝛥 = 𝛥$ または $= −𝛥$」は, 私の頭には明らかではない. 私に理解できるのは:
    ・$𝑛$ 変数の多項式 $𝑓(𝑋_1, ..., 𝑋_𝑛),  𝜎 ∈ 𝑆_𝑛$ に対して, $𝜎 𝑓$ を $(𝜎 𝑓) (𝑋_1, ..., 𝑋_𝑛)  = 𝑓(𝑋_𝜎(1), ..., 𝑋_𝜎(𝑛))$ で定義すれば, $(𝜎_1 𝜎_2) 𝑓 = 𝜎_1 (𝜎_2 𝑓)$.
    ・$𝜏 ∈ 𝑆_𝑛$ を互換とする. 任意の互換に対して $𝜏 𝛥 = −𝛥$ である. 
    ・任意の置換 $𝜎$ は有限個の互換の積で表現できる: $𝜎 = 𝜏_𝑚 ··· 𝜏_1$.
    ・$𝜎 𝛥 = 𝜏_𝑚 (𝜏_{𝑚 − 1} (··· (𝜏_1 𝛥) ···) = (−1)^𝑚 𝛥$.
    ・従って, $𝜎 𝛥 = 1$ または $= −1$.
これは, 定理 6 の論旨の詳述ではないか. つまり, $𝜎 𝛥 = 𝛥$ または $= −𝛥$; 置換の奇遇は互換の積の項数の奇遇に同じ; 従って, 互換の積の項数の奇遇は置換によって一意に決まる; は tautology めいて聞こえる. それがもやもやの理由だったと思はれる. 

2. $𝑓$: 交代式 $:⇔  𝜎 𝑓 = (\sgn 𝜎) 𝑓$ も同じ理屈で不親切な定義だと思ふ (すっきりときれいな定義ではあるが). $:⇔$ 任意の互換 $𝜏$ に対して, $𝜏 𝑓 = −𝑓$ の方が初学者には理解しやすい. 

3. $𝑆_𝑛$ と $\{1, ..., 𝑛\}$ の元の順列全体の集合を同一視することができるので, ここから, "置換" と呼ばれるやうになったのだらうが, 適切な命名だらうか. 

4. 位数 $𝑛$ の集合 $𝑀$ (例へば $= \{𝑅, 𝐺, 𝐵\}$) 上の置換からなる群 $≅ 𝑆_𝑛$ である. $𝑀$ の元は順序づけられてゐなくてもかまはない. この辺は cf. jp.wikipedia.org/wiki/対称群.
(差積は $𝑀$ の元が順序づけられてゐなくてはかなはない; だから, $\sgn 𝜎$ が定義できるためには, $𝑀$ の元が順序づけられてゐなくてはならない; とこの間までの私は考へてゐたみたいだ, といふか, 何も考へてゐなかった.)




2026-02-21 追記

「$𝜎 𝛥 = 𝛥$ または $= −𝛥$」は明らかなやうである^1. それ故, この教科書の論理運びに何ら問題はない.「tautology めいて聞こえる」は私のポンコツ頭がうみだした妄言であった. ただし, 「 私に理解できるのは...」のやり方の方が初学者には辿りやすい道筋であるのは確かだと思ふ. 

^1 証明  $𝐸$ からの $𝑘$-組合せ全体のなす集合を $𝒫_𝑘(𝐸)$ で表す. ${}_𝑛𝒫_2 = 𝒫_2(\{1, ...,𝑛\})$ とすると, $𝜎$ は $𝜎': {}_𝑛𝒫_2 → {}_𝑛𝒫_2,  𝜎'$ は全単写, を誘導する. $|𝛥| = ∏_{(𝑖, 𝑗) ∈ {}_𝑛𝑃_2} |𝑗 − 𝑖|$. $|𝜎 𝛥| = |𝛥|$ が成立することは明らかであらう. 

 
差積とは何か、を概念把握 (begreifen) してゐないから、かういふ醜態をさらすことになる。